メタバースで考えるブランドの未来

筆者の専門分野は人工知能なのですが、最近「メタバース」の未来に注目しています。

Facebookの新社名は「メタバース」を由来とした「Meta(メタ)」。日本では「GAFAがGAMAになるのか」といった反応も多かったですが、メタバースを本格的に世の中に広げる、という意味で「メタバース後のブランド」という未来を想起させるには良いネーミングだったと思います。

私たちの会社にも、メタバースを考慮した商標権の取得の仕方に関する相談が増えてきており、間違いなく注目されている領域といえます。

そこで今回は、メタバースの進化とともに今後「ブランド」がどのように変化していくかを妄想してみたいと思います。

そもそもメタバースとは何か

『マトリックス』という映画の名は皆さん、一度は聞いたことがあるでしょう。同作は地上をロボットに支配され、人間の意識がバーチャルリアリティ世界「マトリックス」の中に押し込められたディストピアを描くSF映画です。

メタバースの語源は「メタ」+「ユニバース(宇宙、世界)」です。「メタ」は「より抽象的な、高次の」といった意味で使われる接頭辞。例えば「フィジックス(物理学)」に「メタ」をつけると「メタフィジックス(形而上学)」になり、これは物理学で表象されるような現実世界を越えた何らかの法則、あるいは認識などを探求する学問、つまり「哲学」の立ち位置になります。

従って「メタバース」は、より抽象度の高い事象を指す「メタ」と宇宙や世界を指す「ユニバース」を組み合わせた造語であり、抽象的・仮想的な「セカイ」を意味します。ここでは「セカイ」とは関係性のみで構築された「何か」ということにして、話を進めたいと思います。

多くの人の中でのメタバースは、まさに「マトリックス」で描かれるような、「現実世界」を超えたバーチャルリアリティ世界を目指しているでしょう。無論「ロボットに支配され……」というようなディストピアではなく、人間の意識を現実世界の制限から解き放つような「ユートピア」を期待していると思います。

現在、我々は主に「ブラウザ」や「アプリ」を通じて、「インターネット」に蓄積された情報を取得することができます。これは我々を「主体」、インターネットやブラウザ、アプリを「客体」とした関係です。つまり「読む人」「読まれるメディア」といった関係性です。本を読む、テレビを見る。そういった行為を代替するものとして、インターネットやブラウザが存在します。

かたやメタバースでは、バーチャル空間の情報そのものに「主体=プレーヤー」が没入することを企図します。ここでは、「主体」「客体」の関係は融溶し、「自我(および他者の自我)」と「環境」の関係が成立します。

ここで強調しておきたいのは、メタバースの「セカイ」においては、「メディア」という概念が独立して存在しにくいということです。

「メディア」は環境に取り込まれた「他のプレーヤー」の一部であり、同時に自己自体も環境の中で「メディア」として存在してしまいます。

つまり、メタバースの「セカイ」自体がメディアであり、自己も他者もその一部だということです。そこでは従来の広告が理論的根拠とするような「メディア論」は通用しなくなる可能性が高いです。

それではその「セカイ」では広告はどのようになっていくのでしょうか?

メタバースと広告

近未来やバーチャルリアリティを描いた(一昔前の)SF作品では、街中に広告がめぐらされ、非常に押し付けがましい広告が消費者を悩ませるといったたぐいの描写が頻出します。

しかしこれらのイメージはすでに過去のものです。

「セカイ」の中にどれだけビルボード(広告看板)を立てようとも、それはもはやポリゴンに貼られたテクスチャに過ぎません。映像広告にしても、単にヴァーチャル空間でそれを流すだけでは、ノイズでしかなく、出来の悪い「劇中劇」でしかありません。

そもそも広告であふれかえるメタバースに誰が魅力を感じるでしょうか。メタバースの運営者も、広告であふれかえり、ユーザーが「離脱」するようなサービス、「ワールド」にはお客さん(住民)が集まりません。

メタバースは「自己」「他者」と「環境」、そのシンプルな関係性によってのみ成立するセカイです。「メタ」という言葉が示すように、現実世界をより抽象的に洗練させ、人間の認識体験や社会体験を極限まで単純化・モデル化させた没入できる「セカイ」です。

そこに煩雑な「広告の氾濫」が入りこむ余地は大変小さいか、または皆無である可能性が高いのです。関係性に割り込み、没入感を阻害するものはメタバースにおいては受け入れられ難いのではないでしょうか。

しかしながら、例えばMeta(旧Facebook)は、現状は広告収入で成立しています。広告というビジネスのあり方から遠いサービスを提供することは想像し難く、何らかの「広告」を「メタバース」に忍び込ませる必要があります。

メタバースにおける広告とは何か、それは自我なのか環境なのか、どのように成立させるのか、という問いを立ててみるのは、面白い思考実験になるのではないかと思います。
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GMOブランドセキュリティ 技術担当役員 山下寿也

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