月収160万円のインフルエンサーの正体は?
ピンクの髪が印象的なアイタナ(アイタナ・ロペスのインスタグラムより)
印象的なピンク色の髪に整った顔、そしてセクシーな衣装。インスタグラムのフォロワー数が25万人を超えるその女性は、アイタナ・ロペス(Aitana Lopez)という名前の、スペイン・バルセロナに住む25歳のゲーマー兼インフルエンサーだ。彼女が投稿するとたちまち無数の「いいね」が付き、紹介した商品にも人気が集まる。その月収は何と、最高で1万ユーロ(約160万円)に達するそうである。
しかし彼女は普通のインフルエンサーではない――実在していないのだ。彼女はAIが描いた単なるCGであり、「スペイン在住、25歳、ゲーマー」といった人物像はすべて架空のもの。ただ、CGであることを隠して活動しているわけではない。すべてをオープンにした上で、製作者たちが「彼女」をインフルエンサーとして活動させているのである。それでも多くのフォロワーが集まり、アイタナに商品を宣伝させたいというクライアントが殺到する。
実際、CGであると分かった後でも、まるで実在の女性であるかのようにあなたも感じないだろうか。彼女の最高月収が1万ユーロであることを報じたEuronewsによれば、そのインスタグラム・アカウントには、毎週のようにセレブたちからデートのお誘いがDMに届くそうである。
そうした誤解まで生まれる背景には、製作チームの並々ならぬ努力がある。彼女を“開発”したのは、ザ・クルーレス(The Clueless)という広告代理店だ。彼らは業績が上がらず悩んでいた際に、過去の案件を分析して、多くのプロジェクトが自分たちの手に負えない問題のために暗礁に乗り上げていたことを把握。その問題の多くは、広告に起用したインフルエンサーやモデルによって引き起こされていたそうだ。
「ならばインフルエンサーをAIに創造させてしまおう」ということになったわけである。クルーレスでアイタナを担当するチームは、毎週会議を行い、今後1週間で「彼女」が何をするかを決定する。CGでしかない彼女に共感を覚えてもらうために、リアリティを感じさせるようなストーリーを考えるのだ。そのために、さまざまなトレンドを分析しており、ゲーマーやピンク髪という要素も、そうした調査や分析を反映させたものだという。
いまのところ、彼らの努力はそれに見合うだけの結果をもたらしているといえるだろう。アイタナへの依頼は継続して舞い込んでおり、前述の通り、かなりの売り上げを生み出している。またストーリーを考えたりCGを描いたりするコストはかかるものの、実在のインフルエンサーたちが要求してくる莫大な謝礼ほどではない。さらにクルーレスには、自社専用のAIインフルエンサーを開発してほしいという企業からの依頼も殺到しているという。
こうした成功を受けて、クルーレスでは“もう少し内気な”AIインフルエンサー「マイア(Maia)」も開発している。ただ、AIインフルエンサーは彼らの専売特許ではない。既にさまざまな企業が、同様の取り組みに乗り出している。
しかし彼女は普通のインフルエンサーではない――実在していないのだ。彼女はAIが描いた単なるCGであり、「スペイン在住、25歳、ゲーマー」といった人物像はすべて架空のもの。ただ、CGであることを隠して活動しているわけではない。すべてをオープンにした上で、製作者たちが「彼女」をインフルエンサーとして活動させているのである。それでも多くのフォロワーが集まり、アイタナに商品を宣伝させたいというクライアントが殺到する。
実際、CGであると分かった後でも、まるで実在の女性であるかのようにあなたも感じないだろうか。彼女の最高月収が1万ユーロであることを報じたEuronewsによれば、そのインスタグラム・アカウントには、毎週のようにセレブたちからデートのお誘いがDMに届くそうである。
そうした誤解まで生まれる背景には、製作チームの並々ならぬ努力がある。彼女を“開発”したのは、ザ・クルーレス(The Clueless)という広告代理店だ。彼らは業績が上がらず悩んでいた際に、過去の案件を分析して、多くのプロジェクトが自分たちの手に負えない問題のために暗礁に乗り上げていたことを把握。その問題の多くは、広告に起用したインフルエンサーやモデルによって引き起こされていたそうだ。
「ならばインフルエンサーをAIに創造させてしまおう」ということになったわけである。クルーレスでアイタナを担当するチームは、毎週会議を行い、今後1週間で「彼女」が何をするかを決定する。CGでしかない彼女に共感を覚えてもらうために、リアリティを感じさせるようなストーリーを考えるのだ。そのために、さまざまなトレンドを分析しており、ゲーマーやピンク髪という要素も、そうした調査や分析を反映させたものだという。
いまのところ、彼らの努力はそれに見合うだけの結果をもたらしているといえるだろう。アイタナへの依頼は継続して舞い込んでおり、前述の通り、かなりの売り上げを生み出している。またストーリーを考えたりCGを描いたりするコストはかかるものの、実在のインフルエンサーたちが要求してくる莫大な謝礼ほどではない。さらにクルーレスには、自社専用のAIインフルエンサーを開発してほしいという企業からの依頼も殺到しているという。
こうした成功を受けて、クルーレスでは“もう少し内気な”AIインフルエンサー「マイア(Maia)」も開発している。ただ、AIインフルエンサーは彼らの専売特許ではない。既にさまざまな企業が、同様の取り組みに乗り出している。
AIが生み出す「24時間働く」モデルたち
お~いお茶 カテキン緑茶TVーCM 「未来を変えるのは、今!」篇
via www.youtube.com
これは緑茶飲料でお馴染みの伊藤園が、2023年9月に発表したCM動画だ。ショートカットの女性が、ペットボトルのお茶を片手にこちらに向かってくる。その足取りは軽やかだが、髪に白髪が混ざっていることから、初老のように見える。しかし彼女がペットボトルを差し出し、それが画面いっぱいになると――次の瞬間、彼女が若返り、30代前後に見える女性になって微笑むという内容だ。
これは実在の人物に特殊メイクを施した映像ではない。彼女は実在の人物ではなく、AIで描かれた「AIタレント」。開発を担当したAI modelのプレスリリースによれば、AIタレントをテレビCMに起用するのは、今回が日本で初めてのケースだったそうだ。
開発にあたって、彼らは「女性」「30代前後」「健康的」といったキーワードをAIに入力し、このタレントを生成。それにより、商品コンセプトにあった人物像を生み出すことができたとしている。また「若いうちからお茶を飲んでいれば、年齢を重ねても健康が維持できる」という主張を、「本人」が実際に時間をまたいでみせることで示すのは、AIタレントにしかできない技といえるだろう。
「彼女」には特に名前は与えられておらず、伊藤園以外のCM進出も果たしていない。しかし、こうしたCMがきっかけとなって人気を集めれば、「うちの商品もPRして欲しい」というクライアントが現れ、多角的な展開が生まれることが考えられる。そうした発展を見せているAIインフルエンサーの1人が、インドネシアの「タラシャ(Thalasya)」である。
これは実在の人物に特殊メイクを施した映像ではない。彼女は実在の人物ではなく、AIで描かれた「AIタレント」。開発を担当したAI modelのプレスリリースによれば、AIタレントをテレビCMに起用するのは、今回が日本で初めてのケースだったそうだ。
開発にあたって、彼らは「女性」「30代前後」「健康的」といったキーワードをAIに入力し、このタレントを生成。それにより、商品コンセプトにあった人物像を生み出すことができたとしている。また「若いうちからお茶を飲んでいれば、年齢を重ねても健康が維持できる」という主張を、「本人」が実際に時間をまたいでみせることで示すのは、AIタレントにしかできない技といえるだろう。
「彼女」には特に名前は与えられておらず、伊藤園以外のCM進出も果たしていない。しかし、こうしたCMがきっかけとなって人気を集めれば、「うちの商品もPRして欲しい」というクライアントが現れ、多角的な展開が生まれることが考えられる。そうした発展を見せているAIインフルエンサーの1人が、インドネシアの「タラシャ(Thalasya)」である。
実在のモデルとの「共演」も果たしているタラシャ(左)(タラシャのインスタグラムより)
彼女はインドネシアのマグナベム・スタジオ(Magnavem Studio)が開発したモデルで、2018年10月にインスタグラムに登場すると、たちまち人気を獲得。ホテルやレストラン、リゾート、アパレルといったさまざまな分野でクライアントを獲得し、彼らのブランドを宣伝するだけでなく、オリジナル曲でミュージックビデオまで作成している。さらにはYipiiiiiというアパレルブランドまで立ち上げるなど、人間のモデル顔負けの多角展開に成功している。
Thalasya - Be Happy | Official Music Video
via www.youtube.com
さらに大きなAIインフルエンサーの成功事例が見られるのが、お隣の中国だ。中国では特に、ライブ配信で商品を勧めるAIインフルエンサーの開発技術が進化し、サービスも台頭。マーケティングにおけるAI活用の先進的事例を見ることができる。
中国では、さまざまなインフルエンサーがライブ配信でお勧めする商品を見ながら、その場でオンライン購入するライブコマースが定着している。そうしたライブコマース市場の規模は、2023年には実に4.92兆人民元(約100兆円)にまで達するとの予測もある。現在、そうしたライブ配信を行うのは人間のインフルエンサーが主流だが、当然ながら生身の人間にはコストもかかるし、1人では配信できる時間も限られる。そこでAIにアバターを作成させて、VTuberのように中身の人間を交代させながら配信したり、そもそもAIに決まった動きを設定して後は任せてしまったりすることで、24時間配信を行う例が出てきている。
たとえばMIT Technology Review誌の報道によれば、2017年設立の南京に拠点を置くスタートアップ企業、シリコン・インテリジェンス(Silicon Intelligence)は、本物の人間のように話し、行動できるAIアバターをたった8000人民元(約16万円)で開発してくれる。より複雑な動きをするモデルを開発する場合は費用が高くなるが、この基本料金には1年間の保守費用も含まれるそうだ。
またニュースサイトSixth Toneが紹介している別のIT企業、ラン・ジュー・テクノロジー(Lang Jue Technology)は、ほぼ同じ額の基本料金約1100ドル(約16万円)でアバターを作成。作成に必要なのは、たった5分間の動画撮影だそうだ。実際に購入できるAIアバターがどのようなものか、また「彼ら」がどのように人間さながらのライブ配信を行ってくれるかは、動画で確認できる。
中国では、さまざまなインフルエンサーがライブ配信でお勧めする商品を見ながら、その場でオンライン購入するライブコマースが定着している。そうしたライブコマース市場の規模は、2023年には実に4.92兆人民元(約100兆円)にまで達するとの予測もある。現在、そうしたライブ配信を行うのは人間のインフルエンサーが主流だが、当然ながら生身の人間にはコストもかかるし、1人では配信できる時間も限られる。そこでAIにアバターを作成させて、VTuberのように中身の人間を交代させながら配信したり、そもそもAIに決まった動きを設定して後は任せてしまったりすることで、24時間配信を行う例が出てきている。
たとえばMIT Technology Review誌の報道によれば、2017年設立の南京に拠点を置くスタートアップ企業、シリコン・インテリジェンス(Silicon Intelligence)は、本物の人間のように話し、行動できるAIアバターをたった8000人民元(約16万円)で開発してくれる。より複雑な動きをするモデルを開発する場合は費用が高くなるが、この基本料金には1年間の保守費用も含まれるそうだ。
またニュースサイトSixth Toneが紹介している別のIT企業、ラン・ジュー・テクノロジー(Lang Jue Technology)は、ほぼ同じ額の基本料金約1100ドル(約16万円)でアバターを作成。作成に必要なのは、たった5分間の動画撮影だそうだ。実際に購入できるAIアバターがどのようなものか、また「彼ら」がどのように人間さながらのライブ配信を行ってくれるかは、動画で確認できる。
In China, AI Clones Are Putting Human Livestreamers Out of Work
via www.youtube.com
ちなみにライブストリーマーの月給は平均で約2700ドル(約39万円)とのこと。実際の収支はAIアバターがどのくらい稼げるか次第ではあるものの、人間ではなくAIに配信を任せてしまうことで、かなりの節約になる可能性がある。実際に中国では一部のトップクラスを除き、多くの人間のライブストリーマーがAIに仕事を奪われる可能性があると指摘されている。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。