2022年9月にi4Uで「街に増える個性派書店──私が小さな本屋「葉々社」を開いた理由」と題した記事を書いてから3年近くの時間が経過し、本屋として、また出版社として、お客さんのためにさまざまな企画を実行してきた。

東京都大田区に、個性派書店「葉々社」をオープンして3年が経過した
今回は、そのなかから病院への出張本屋の話を紹介したい。私がなぜ、どのようにして、出張本屋をはじめることにしたのだろうか?
葉々社の近所にある巨大病院の図書室に出張本屋を提案
2023年1月16日より出張本屋という名の取り組みを開始した。葉々社から歩いて五分ほどの場所にある東邦大学医療センター大森病院内の「からだのとしょしつ」に本を持ち込み、入院患者や病院職員を対象にして本の販売を行っている。この病院は高度先進医療を提供しながら、地域の基幹病院としての役割も果たしている巨大な病院だ。詩人の茨木のり子は、東邦大学薬学部の前身である帝国女子医学薬学専門学校の薬学科出身で、第二次世界大戦のまっただなかだった1943年に薬学科に入学している。
本はただ店に並べているだけでは売れない(少なくとも私の店ではそうだ)。特に平日の売上不足をカバーするために何かしらの策を講じる必要があると、1年目の営業の途中で強く思った。本を売るという行為自体は一見すると不特定多数を相手にしているように見えるが、実際のところは特定少数に対して、それもきわめて狭い範囲を対象にしているように感じる。つまり、本を売るときは特定の、具体的な誰かに向けて商売をしているということだ。このことをおろそかにすると、あらゆる企画はいったい誰のためのものなのかがわからなくなる。
平日にお客さんが来ないなら、本を求めている人がいる場所にこちらから出向いていけばいいのではないか。出張本屋の企画を思いついたのはそんな考え方がベースにある。では、本を求めている人たちはどこに存在するのか。まず、はじめに頭に浮かんだのが病院、次に高齢者向け施設や保育園、そして私立高校だった。
大森病院が近所にあることはすでに知っていたので、ホームページを確認したところ、建物内に「からだのとしょしつ」という施設があることがわかった。この施設は、インフォームド・コンセント(医師と患者との十分な情報を得たうえでの合意)を推進するために造られたもので、患者や家族などが病気や治療法について学ぶための医学書が多数そろえられている。
本はただ店に並べているだけでは売れない(少なくとも私の店ではそうだ)。特に平日の売上不足をカバーするために何かしらの策を講じる必要があると、1年目の営業の途中で強く思った。本を売るという行為自体は一見すると不特定多数を相手にしているように見えるが、実際のところは特定少数に対して、それもきわめて狭い範囲を対象にしているように感じる。つまり、本を売るときは特定の、具体的な誰かに向けて商売をしているということだ。このことをおろそかにすると、あらゆる企画はいったい誰のためのものなのかがわからなくなる。
平日にお客さんが来ないなら、本を求めている人がいる場所にこちらから出向いていけばいいのではないか。出張本屋の企画を思いついたのはそんな考え方がベースにある。では、本を求めている人たちはどこに存在するのか。まず、はじめに頭に浮かんだのが病院、次に高齢者向け施設や保育園、そして私立高校だった。
大森病院が近所にあることはすでに知っていたので、ホームページを確認したところ、建物内に「からだのとしょしつ」という施設があることがわかった。この施設は、インフォームド・コンセント(医師と患者との十分な情報を得たうえでの合意)を推進するために造られたもので、患者や家族などが病気や治療法について学ぶための医学書が多数そろえられている。

東邦大学医療センター大森病院内に開設されている「からだのとしょしつ」
この施設の一角を借りて、出張本屋を実施させてもらえないか、院長に企画書を送ろうかと思案していたとき、その院長が偶然、お客さんとして葉々社にやってきた。レジで会計を行うとき、大森病院の院長であることを告げられ、驚いたことを覚えている。聞けば、無類の本好きだという。渡りに船とはまさにこのことで、院長に会った次の日に企画書をまとめて郵送した。
一週間ほど経過したのち院長から返事がきた。当時はコロナが再拡大しているときで、落ち着き次第、「からだのとしょしつ」のスタッフと検討するという内容だった。院長に企画を提案したときは出張本屋のほかに以下のような企画も書き添えた。企画書を提出するチャンスはいちどきりなので、必ず複数の案を用意して、先方によき案を選択してもらえるように準備をした。
○医師・看護師ほか、大森病院で働く人々のための選書サービス
・毎月の予算内で、葉々社が本を選び、大森病院に配達する
・届いた本は、医師や看護師らが自由に持ち帰れる仕組みとする
○入院患者が自由に読める本の場所づくり
・短期、長期入院患者の方々が自由に本に触れられる場所をつくる
・病棟内に小さな図書館のような場所をつくる(200冊程度)
○入院患者のための配達サービス
・入院患者の方々から本の注文を受けて、病院まで配達する
・患者が入院するとき、葉々社の案内ハガキを渡してもらう
企画書提案後、数カ月が過ぎた頃、「からだのとしょしつ」で司書をしているという女性が葉々社に来た。院長から話を聞いた企画について、具体的に前に進めたいということだった。ここからはテンポよく話が前進して、2023年1月にスタートすることになった。
一週間ほど経過したのち院長から返事がきた。当時はコロナが再拡大しているときで、落ち着き次第、「からだのとしょしつ」のスタッフと検討するという内容だった。院長に企画を提案したときは出張本屋のほかに以下のような企画も書き添えた。企画書を提出するチャンスはいちどきりなので、必ず複数の案を用意して、先方によき案を選択してもらえるように準備をした。
○医師・看護師ほか、大森病院で働く人々のための選書サービス
・毎月の予算内で、葉々社が本を選び、大森病院に配達する
・届いた本は、医師や看護師らが自由に持ち帰れる仕組みとする
○入院患者が自由に読める本の場所づくり
・短期、長期入院患者の方々が自由に本に触れられる場所をつくる
・病棟内に小さな図書館のような場所をつくる(200冊程度)
○入院患者のための配達サービス
・入院患者の方々から本の注文を受けて、病院まで配達する
・患者が入院するとき、葉々社の案内ハガキを渡してもらう
企画書提案後、数カ月が過ぎた頃、「からだのとしょしつ」で司書をしているという女性が葉々社に来た。院長から話を聞いた企画について、具体的に前に進めたいということだった。ここからはテンポよく話が前進して、2023年1月にスタートすることになった。

葉々社 小谷輝之
本屋と出版社
2社の出版社勤務を経て、2022年4月に東京・梅屋敷で本屋「葉々社」を開店。ひとりで本屋の運営を切り盛りしながら、出版社としての本作りにも取り組み中。Twitter:@youyousha_books