本はどこで買っても同じなのか
私は昔から「趣味は?」と質問されてマトモに答えられた試しがありません。私の考える趣味とは「義務ではなく、ひたすら自分の楽しみとしてやっている、あまり意味のない行為」です。
となると、そんな無意味な行為は大量かつデタラメにありすぎて、そもそもなぜそんなことを相手が尋ねるのかわからず不気味で、それは大人になった今も変わらずで、ずっと「うーん」と濁してきました。ただ「書店の閉店」をニュースで見かけると肌があわ立つんですね。ヤバい!と。
書店が閉店したからといって、本が二度と手に入らなくなるわけではないのに、イヤな汗が出ます。しかも書店閉店のニュースはノスタルジックなのも手伝って、ちょいちょい報道されるわけです。私にとっては感情を揺さぶられる機会がそこそこ多くてピンチの連続です。
全国出版協会の調査によると、日本の書店の総店舗数は、1万5000店超だった2013年から2023年にかけて約5000店ほど減っているそうです。
書店閉店の知らせに脂汗を出すこと数度、そこでやっと「どうやら私は書店に通うことに執着しており、これが“趣味”なのかも」と自覚するに至りました。要は、私が本当にやりたいことは「本を手に入れる」ことではなく「書店に行く」ことであり、書店に行った結果として本を買っていたのです。
例えば東京の恵比寿にある「ちえの木の実」は、子どものための書店で国内外の絵本や児童文学、図鑑、さらに紙芝居が充実しています。そして店員さんがみな親切かつ本に詳しく、私が大昔に小児科の待合室で必ず読んでいた暗い童話の内容をうろ覚えのまま伝えると「アンデルセンかもしれませんね」とヒントをくれ、まさにアンデルセンの『ある母親の物語』だとわかったり。いつもうれしい体験ができるので、近くを通りかかるたびに立ち寄って、何かしら買っています。
となると、そんな無意味な行為は大量かつデタラメにありすぎて、そもそもなぜそんなことを相手が尋ねるのかわからず不気味で、それは大人になった今も変わらずで、ずっと「うーん」と濁してきました。ただ「書店の閉店」をニュースで見かけると肌があわ立つんですね。ヤバい!と。
書店が閉店したからといって、本が二度と手に入らなくなるわけではないのに、イヤな汗が出ます。しかも書店閉店のニュースはノスタルジックなのも手伝って、ちょいちょい報道されるわけです。私にとっては感情を揺さぶられる機会がそこそこ多くてピンチの連続です。
全国出版協会の調査によると、日本の書店の総店舗数は、1万5000店超だった2013年から2023年にかけて約5000店ほど減っているそうです。
書店閉店の知らせに脂汗を出すこと数度、そこでやっと「どうやら私は書店に通うことに執着しており、これが“趣味”なのかも」と自覚するに至りました。要は、私が本当にやりたいことは「本を手に入れる」ことではなく「書店に行く」ことであり、書店に行った結果として本を買っていたのです。
例えば東京の恵比寿にある「ちえの木の実」は、子どものための書店で国内外の絵本や児童文学、図鑑、さらに紙芝居が充実しています。そして店員さんがみな親切かつ本に詳しく、私が大昔に小児科の待合室で必ず読んでいた暗い童話の内容をうろ覚えのまま伝えると「アンデルセンかもしれませんね」とヒントをくれ、まさにアンデルセンの『ある母親の物語』だとわかったり。いつもうれしい体験ができるので、近くを通りかかるたびに立ち寄って、何かしら買っています。

イーディス・ネズビットの『砂の妖精』やポール・ギャリコの『ハリスおばさんシリーズ』は、ちえの木の実のおかげで魅力を知りました
つまり私にとって「本はどこで買っても同じもの」ではなく、特にオンライン書店は「物質としての本」を手に入れる場所としては優先度がとても低いのです。電子書籍ではよくお世話になっているのに、私が本を買う場所ではなくなりつつあります。
買った本が傷んでいたらガッカリ?
実は数年前までは、Amazonなどのオンライン書店でも頻繁に本を買っていました。便利だし、すぐに手に入るし。でも届いた本の角が少し傷んでいたりすると、ものすごくガッカリするんです。このガッカリが蓄積して、やがてオンライン書店では本をあまり買わなくなりました。
ところが、私は町の本屋さんでちょっと角が折れた本を手に取っても「まあいいか」と気にしていないんです。むしろ「ピカピカの本は他の人にゆずって、私がこっちを買っておくよ」とすら思うことも。そんな大らかな心が、オンライン書店に対してはまったく働かないのです。オンライン書店での私は、町の本屋さんにいる私と同一人物とは思えないくらい器がめちゃくちゃ小さくなる。
それに加えて「書店に行く」ことが好きで、そこでなんとなく本を買ってしまうので、やがてオンライン書店とは距離を置くようになりました。
ところが、私は町の本屋さんでちょっと角が折れた本を手に取っても「まあいいか」と気にしていないんです。むしろ「ピカピカの本は他の人にゆずって、私がこっちを買っておくよ」とすら思うことも。そんな大らかな心が、オンライン書店に対してはまったく働かないのです。オンライン書店での私は、町の本屋さんにいる私と同一人物とは思えないくらい器がめちゃくちゃ小さくなる。
それに加えて「書店に行く」ことが好きで、そこでなんとなく本を買ってしまうので、やがてオンライン書店とは距離を置くようになりました。
魅力的なオンライン書店はもちろんある
ただ、そんなオンライン書店との関係にも例外があります。
取り扱いが少ない写真集や、初版本・絶版の古書を手に入れるときは、オンライン書店がとても便利。総合書店には置いてなさそうな本を「これ!」と指さすように買いたいときは、オンライン書店の出番です。特に比較的小型のオンライン書店が私は好きです。
例えば、大阪に実店舗を構える「blackbird books」はアート本や写真集が充実しているのでよくお世話になっています。
取り扱いが少ない写真集や、初版本・絶版の古書を手に入れるときは、オンライン書店がとても便利。総合書店には置いてなさそうな本を「これ!」と指さすように買いたいときは、オンライン書店の出番です。特に比較的小型のオンライン書店が私は好きです。
例えば、大阪に実店舗を構える「blackbird books」はアート本や写真集が充実しているのでよくお世話になっています。

鳥がテーマの写真集『Des oiseaux』シリーズは少しずつオンライン書店で集めています

松本清張ファンとしては見逃せない木村毅の『小説研究十六講』、そして復刊ドットコムで復刊された奈良原一高の写真集『王国』も、オンライン書店のおかげで買えました。誕生日プレゼントにもらった三島由紀夫の『豊饒の海』シリーズの初版本たちもオンライン書店で手に入れてくれたそう
そして、こうしたオンライン書店は、発注のやりとりも丁寧なことが多いです。
例えば注文後に「表紙に少し傷がありました。このままお送りしてもよろしいですか? ディスカウントします。もしキレイなものがよろしければ、もちろんキャンセル可能です。次回の入荷はX月ごろです」といったことを写真付きのメールで連絡してくださったり。そうするとこちらも「ちょっと傷があっても大丈夫です。そのままお送りください」と返事したくなります。
つまり「もし何か欠点があるなら、それをちゃんと教えてよ」という心理が働くのでしょう。そしてオンライン書店であっても、そこに「コミュニティ」と「人間」を感じると、私は途端に人間らしいふるまいを取り戻すようです。
ちなみに、ちっさーい文字で定型文とおぼしき注意事項がたくさん書かれているようなオンライン書店では、例え希少本であってもまず買いません。「注意事項を読まない方が悪いのだ」という尊大な態度が透けて見えて残念な気持ちになり、さらにそういうオンライン書店では、万が一トラブルが起こったあとの対応も非常に苦労するからです。特に大型のオンライン書店では細やかな対応を望むことは難しいなと感じています。
例えば注文後に「表紙に少し傷がありました。このままお送りしてもよろしいですか? ディスカウントします。もしキレイなものがよろしければ、もちろんキャンセル可能です。次回の入荷はX月ごろです」といったことを写真付きのメールで連絡してくださったり。そうするとこちらも「ちょっと傷があっても大丈夫です。そのままお送りください」と返事したくなります。
つまり「もし何か欠点があるなら、それをちゃんと教えてよ」という心理が働くのでしょう。そしてオンライン書店であっても、そこに「コミュニティ」と「人間」を感じると、私は途端に人間らしいふるまいを取り戻すようです。
ちなみに、ちっさーい文字で定型文とおぼしき注意事項がたくさん書かれているようなオンライン書店では、例え希少本であってもまず買いません。「注意事項を読まない方が悪いのだ」という尊大な態度が透けて見えて残念な気持ちになり、さらにそういうオンライン書店では、万が一トラブルが起こったあとの対応も非常に苦労するからです。特に大型のオンライン書店では細やかな対応を望むことは難しいなと感じています。

花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori