仕事でもプライベートでも、発生した問題にはできるだけ早く適切に解決することが最重要だ。しかし、いつの間にか「正解を出すこと」だけにとらわれている人生になってはいないだろうか。未来は偶発的で、イレギュラーなことだらけだ。
複雑で多様性が進むこれからの社会において、不確実な状態に耐えるためにも「ネガティブ・ケイパビリティ」は、今こそ育てていきたい能力だ。
この能力を培っていくと、クリエイティブな思考や新たな発見を可能にし、問題の本質を見つめる力が身についてくる。より柔軟で適応力のある自己形成の助けになる、オススメの書籍4選を紹介したい。
複雑で多様性が進むこれからの社会において、不確実な状態に耐えるためにも「ネガティブ・ケイパビリティ」は、今こそ育てていきたい能力だ。
この能力を培っていくと、クリエイティブな思考や新たな発見を可能にし、問題の本質を見つめる力が身についてくる。より柔軟で適応力のある自己形成の助けになる、オススメの書籍4選を紹介したい。
精神科医の実体験から説く、耐える力と寛容さ
問題や悩みの大半は、現状が不確実であるがゆえに具体的な対処法に着手できていないことへの不安だ。問題そのものよりも、自身が感じる不安に負けてしまいそうになるわけだ。では、負けない力をつければ問題は解決するのだろうか。
本書は、最近急増してきた「ネガティブ・ケイパビリティ」関連書籍の中でも、7年以上前に刊行された先駆けとなる著作。この言葉を生み出した19世紀イギリスの詩人、キーツの生涯から概念の誕生までを紐解き、文学や歴史、医療現場での実例や教育まで、多岐にわたるテーマについて解説する。
現役医師で作家でもある著者がこの概念に出合ったのは、精神科医になって6年目のとき。たまたま目にした医学論文で、問題解決のために何かを成し遂げるのでなく、何もしない能力を推奨している考えに衝撃を受けたという。
ヒトの脳には「分かろう」とする性質が備わっていて、「分かった」ものとして対処法を定めないと不快に感じてしまう。しかし、この「分かった」つもり程度の理解力だと、問題の表層を捉えたにすぎない。それだと、本当の問題を沈下させたままになると、著者は警鐘を鳴らす。
脳には希望に向けてのバイアスがかかっているから、宙ぶらりんの状態を持ちこたえていけば、いつかは好転するはず。難題に対して「耐える」ことと「寛容」であることは、本来両輪として必要とされる能力で、どちらも鍛えていくことで見える世界が変わってくる。
本書は「ネガティブ・ケイパビリティ」を知るための実用書でなく、著者の経験や知見を踏まえた多面性のあるエッセイなので、自分の中で内容をじっくり醸成させるつもりで読み進めてみよう。
本書は、最近急増してきた「ネガティブ・ケイパビリティ」関連書籍の中でも、7年以上前に刊行された先駆けとなる著作。この言葉を生み出した19世紀イギリスの詩人、キーツの生涯から概念の誕生までを紐解き、文学や歴史、医療現場での実例や教育まで、多岐にわたるテーマについて解説する。
現役医師で作家でもある著者がこの概念に出合ったのは、精神科医になって6年目のとき。たまたま目にした医学論文で、問題解決のために何かを成し遂げるのでなく、何もしない能力を推奨している考えに衝撃を受けたという。
ヒトの脳には「分かろう」とする性質が備わっていて、「分かった」ものとして対処法を定めないと不快に感じてしまう。しかし、この「分かった」つもり程度の理解力だと、問題の表層を捉えたにすぎない。それだと、本当の問題を沈下させたままになると、著者は警鐘を鳴らす。
脳には希望に向けてのバイアスがかかっているから、宙ぶらりんの状態を持ちこたえていけば、いつかは好転するはず。難題に対して「耐える」ことと「寛容」であることは、本来両輪として必要とされる能力で、どちらも鍛えていくことで見える世界が変わってくる。
本書は「ネガティブ・ケイパビリティ」を知るための実用書でなく、著者の経験や知見を踏まえた多面性のあるエッセイなので、自分の中で内容をじっくり醸成させるつもりで読み進めてみよう。
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』
発行:朝日新聞出版
著者:帚木蓬生
定価:1430円(税込)
発行日:2017年4月10日
判型:四六判
頁数:264P
ISBN:978-4-0226-3058-2
https://publications.asahi.com/product/18977.html
発行:朝日新聞出版
著者:帚木蓬生
定価:1430円(税込)
発行日:2017年4月10日
判型:四六判
頁数:264P
ISBN:978-4-0226-3058-2
https://publications.asahi.com/product/18977.html
スピード社会にあらがい立ち止まる価値を見出す
コスパにタイパ、生産性向上など、何かとスピードと効率が重視されて、ムダを嫌う現代。迅速な対応やライバルを出し抜くインパクト競争といった濁流の中に、あえて「よどみ」を作ってみると、これからの生き方が変わるかもしれない。
本書は、2人の哲学者と公共政策学者の3人で「陰謀論とナラティブ」「アテンションエコノミー」「徳とプライバシー」をキーワードに繰り広げられた3回の対話を収録したもの。対話形式であることにより、当人たちも答えが見えていない論点について互いに問いかけると、思いもよらない展開が生まれ、思わずその臨場感に引き込まれる。
「ネガティブ・ケイパビリティ」そのものの解説ではなく、SNSやマーケティング、世界情勢や政治、教育などにおける問題点や現状を3人が分析し、どういう場面でネガティブ・ケイパビリティが鍵となるかを取り上げている。直接的な言及は少ないが、多くの読者はいかに自分にネガティブ・ケイパビリティの意識が欠如しているかに気づくだろう。
メンタル面での意識づけや実践法とは一線を画し、分かりやすく何かをやった感覚や達成感、全方位に正しそうなストーリーとはいったん距離を置き、みんなと違う道を探してみると良い。確固たる意見を持つことより、さまざまな物事や人と人の「あいだ」に留まって余白を許容しあう重要性を認識できるだろう。現代社会の縮図もかいま見える、示唆に富んだ1冊だ。
本書は、2人の哲学者と公共政策学者の3人で「陰謀論とナラティブ」「アテンションエコノミー」「徳とプライバシー」をキーワードに繰り広げられた3回の対話を収録したもの。対話形式であることにより、当人たちも答えが見えていない論点について互いに問いかけると、思いもよらない展開が生まれ、思わずその臨場感に引き込まれる。
「ネガティブ・ケイパビリティ」そのものの解説ではなく、SNSやマーケティング、世界情勢や政治、教育などにおける問題点や現状を3人が分析し、どういう場面でネガティブ・ケイパビリティが鍵となるかを取り上げている。直接的な言及は少ないが、多くの読者はいかに自分にネガティブ・ケイパビリティの意識が欠如しているかに気づくだろう。
メンタル面での意識づけや実践法とは一線を画し、分かりやすく何かをやった感覚や達成感、全方位に正しそうなストーリーとはいったん距離を置き、みんなと違う道を探してみると良い。確固たる意見を持つことより、さまざまな物事や人と人の「あいだ」に留まって余白を許容しあう重要性を認識できるだろう。現代社会の縮図もかいま見える、示唆に富んだ1冊だ。
『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』
発行:さくら舎
著者:谷川嘉浩/ 朱喜哲/杉谷和哉
定価:1980円(税込)
発行日:2023年2月9日
判型:四六判
頁数:288P
ISBN:978-4-8658-1375-3
さくら舎Webページ
発行:さくら舎
著者:谷川嘉浩/ 朱喜哲/杉谷和哉
定価:1980円(税込)
発行日:2023年2月9日
判型:四六判
頁数:288P
ISBN:978-4-8658-1375-3
さくら舎Webページ
葉々社 小谷輝之
本屋と出版社
2社の出版社勤務を経て、2022年4月に東京・梅屋敷で本屋「葉々社」を開店。ひとりで本屋の運営を切り盛りしながら、出版社としての本作りにも取り組み中。Twitter:@youyousha_books