人口減少と超高齢化社会、さらには格差や孤立が進む社会で、このまま成長と拡大ばかりを追う生き方でいいのだろうか。心が不安と孤独にけしかけられると、誰もがかたくなになり利己的、保守的になってしまうもの。
そんなとき、近所に銭湯や喫茶店、大衆食堂のような、見ず知らずの人と自然に場を共有する空間があるだけで、他人と縁が生まれていく。立派なものでなくていい、ゆるくつながることのできるリアルな共有地や共同体について学べる、オススメの書籍5選を紹介したい。
そんなとき、近所に銭湯や喫茶店、大衆食堂のような、見ず知らずの人と自然に場を共有する空間があるだけで、他人と縁が生まれていく。立派なものでなくていい、ゆるくつながることのできるリアルな共有地や共同体について学べる、オススメの書籍5選を紹介したい。
「共有」という資本主義社会とのグラデーション
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コロナ禍を経て「共有」という概念が拡大、浸透しつつあるものの、依然として、社会は右肩上がりの経済成長を前提としたままだ。消費主義社会に行き詰まっても、我々はすべてを手放す必要はない。何も持たないのではなく、私有を減らして共有を増やすことはできる。
本書は、社会を安定的に持続させていくために、無制限な私有化をやめて、本来社会の共有物だったものをあるべき場所に戻すという考えを実践する著者による、私小説的評論。個人的体験を随所に盛り込み、専門書からの引用や高度経済成長の数値データから古典文学や韓国ドラマまで、著者が築き上げた哲学と思想の集大成のような1冊だ。
「欲しいから集めるのではなく、集めるから欲しくなる」というメカニズムから脱却し、人を大切にして、成長だけを目的としない「人資本主義」と、機嫌良く暮らしていける「共有地」を提唱する。資本主義の完全否定や贈与経済との二者択一でなく、私有することを程度の問題として論じているので、著者の実体験を通して自分なりの共有地を構築するヒントを得られるだろう。
本書は、社会を安定的に持続させていくために、無制限な私有化をやめて、本来社会の共有物だったものをあるべき場所に戻すという考えを実践する著者による、私小説的評論。個人的体験を随所に盛り込み、専門書からの引用や高度経済成長の数値データから古典文学や韓国ドラマまで、著者が築き上げた哲学と思想の集大成のような1冊だ。
「欲しいから集めるのではなく、集めるから欲しくなる」というメカニズムから脱却し、人を大切にして、成長だけを目的としない「人資本主義」と、機嫌良く暮らしていける「共有地」を提唱する。資本主義の完全否定や贈与経済との二者択一でなく、私有することを程度の問題として論じているので、著者の実体験を通して自分なりの共有地を構築するヒントを得られるだろう。
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『共有地をつくる』
発行:ミシマ社
著者:平川克美
定価:1980円(税込)
発行日:2022年2月25日
判型:四六判
頁数:224P
ISBN:978-4-9093-9463-7
https://mishimasha.com/books/9784909394637/
発行:ミシマ社
著者:平川克美
定価:1980円(税込)
発行日:2022年2月25日
判型:四六判
頁数:224P
ISBN:978-4-9093-9463-7
https://mishimasha.com/books/9784909394637/
「国家なき社会」でも秩序は保たれるのか?
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国は何のためにあるのか? 本当に必要なのか? その存在を疑ってこなかった国家とは、先にあったものではなく、暮らしの中にあとからやってきたものだ。国家に頼らなくても秩序が保たれている社会を知るヒントは、人類学に見い出せるかもしれない。
本書は、人類学の視点から国家とは何かを考察した著者が、国家なき状態を目指したアナキズムを手がかりに、現状を問い直した1冊。革命家による従来のイメージとは異なり、自分たちの暮らしを守ってきた無名のアナキストたちの試みに焦点を当てている。
人類学が研究対象としてきた「未開社会」は、蓄積につながる無用な過剰生産と労働を拒否し、きわめて民主主義的だという。国家について再考することは、民主主義について考えることでもあるといえるのだ。
問題が起きたら、行政や公的組織など、人任せにして秩序を保つのでなく、どうしたら身のまわりの問題を自分たちで解決できるのか考えていく必要がある。災害やパンデミックという非常事態下では、国家が機能しない現実を思い知った今こそ、誰かが決めた制度に無批判に従うのでなく、生活者としてそれぞれの暮らしを立て直そうと奮起させてくれる良書だ。
本書は、人類学の視点から国家とは何かを考察した著者が、国家なき状態を目指したアナキズムを手がかりに、現状を問い直した1冊。革命家による従来のイメージとは異なり、自分たちの暮らしを守ってきた無名のアナキストたちの試みに焦点を当てている。
人類学が研究対象としてきた「未開社会」は、蓄積につながる無用な過剰生産と労働を拒否し、きわめて民主主義的だという。国家について再考することは、民主主義について考えることでもあるといえるのだ。
問題が起きたら、行政や公的組織など、人任せにして秩序を保つのでなく、どうしたら身のまわりの問題を自分たちで解決できるのか考えていく必要がある。災害やパンデミックという非常事態下では、国家が機能しない現実を思い知った今こそ、誰かが決めた制度に無批判に従うのでなく、生活者としてそれぞれの暮らしを立て直そうと奮起させてくれる良書だ。
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『くらしのアナキズム』
発行:ミシマ社
著者:松村圭一郎
定価:1980円(税込)
発行日:2021年9月24日
判型:四六判
頁数:240P
ISBN:978-4-9093-9457-6
https://mishimasha.com/books/9784909394576/
発行:ミシマ社
著者:松村圭一郎
定価:1980円(税込)
発行日:2021年9月24日
判型:四六判
頁数:240P
ISBN:978-4-9093-9457-6
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開かれた場所・誰もが集まれる場所
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実生活で社会的インフラを利用したり、その存在を意識したりしたことはあるだろうか。例えば、地域の図書館。あなたはどのくらい足を運び、その様子を知っているだろうか。
本書は、多くの人が孤立や孤独、SNSの有害な影響の下にさらされていることを懸念して、社会的インフラという物理的な場の存在意義について論じたもの。社会的インフラとは、図書館や公園、学校など集団生活を条件づける場のことだ。幸福度は人間関係が大きく作用し、リアルに集える社会的インフラを整備することでコミュニティが作られ、セイフティネットとしても機能する。こうした社会的インフラに投資することで、現代社会が抱える問題をどのくらい緩和できるかが多数の実例とともに提示された、非常に論理的な内容だ。
中でも、図書館の存在はいきいきとしたインフラの典型例として、可能性に満ちている事例が多い。日本は個々が本を利用する目的にとどまっているが、アメリカでは子どもや高齢者向けのイベントや助けを必要とする人たちを結びつける場としても機能している。そうしたつながりを体感した人は、社会意識が高まり市民活動にも参加していくという。国が手掛ける大型インフラでなく、身近にある居場所をあらためて見直してみたくなるだろう。
本書は、多くの人が孤立や孤独、SNSの有害な影響の下にさらされていることを懸念して、社会的インフラという物理的な場の存在意義について論じたもの。社会的インフラとは、図書館や公園、学校など集団生活を条件づける場のことだ。幸福度は人間関係が大きく作用し、リアルに集える社会的インフラを整備することでコミュニティが作られ、セイフティネットとしても機能する。こうした社会的インフラに投資することで、現代社会が抱える問題をどのくらい緩和できるかが多数の実例とともに提示された、非常に論理的な内容だ。
中でも、図書館の存在はいきいきとしたインフラの典型例として、可能性に満ちている事例が多い。日本は個々が本を利用する目的にとどまっているが、アメリカでは子どもや高齢者向けのイベントや助けを必要とする人たちを結びつける場としても機能している。そうしたつながりを体感した人は、社会意識が高まり市民活動にも参加していくという。国が手掛ける大型インフラでなく、身近にある居場所をあらためて見直してみたくなるだろう。
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『集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』
発行:英知出版
著者:エリック・クリネンバーグ/藤原朝子訳
定価:2640円(税込)
発行日:2021年12月23日
判型:四六判
頁数:352P
ISBN:978-4-8627-6307-5
https://eijipress.co.jp/products/2307
発行:英知出版
著者:エリック・クリネンバーグ/藤原朝子訳
定価:2640円(税込)
発行日:2021年12月23日
判型:四六判
頁数:352P
ISBN:978-4-8627-6307-5
https://eijipress.co.jp/products/2307
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葉々社 小谷輝之
本屋と出版社
2社の出版社勤務を経て、2022年4月に東京・梅屋敷で本屋「葉々社」を開店。ひとりで本屋の運営を切り盛りしながら、出版社としての本作りにも取り組み中。Twitter:@youyousha_books