「自治」の領域を広げると社会は変わる
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新自由主義が席巻する現代では、自己責任と自助が要求され、公共によって担われた役割は縮小する。逆に、規制緩和による競争原理は強化される一方だ。
本書は、『人新世の「資本論」』の著者である斎藤幸平を筆頭に、さまざまな分野で活躍する7名の論客たちが、共有財である「コモン」や「自治」の再生を提唱している。そのテーマと現場は精神医療や大学、店舗、ケアシステム、食と農など、多岐にわたるが、どれも市民レベルでの連帯について現状の問題点を指摘。そのうえで、どうやって市民が参画して自治をしていけるのかについて、斎藤氏は「自治」をめぐる2つの困難を解説している。
1つ目はそもそも具体的に「自治」の道筋を思い描く力を失っていること。2つ目は、目指すべき「自治」の定義が定まらないこと。本書ではこの2つについて考察しつつ、未来へのステップを提示している。
「自治」は、我々の生活そのものに直結している。地味でわずらわしく、非効率かもしれないが、民主的プロジェクトなどへの参加型「自治」の領域を広めていくことでしか育てられない。その第1歩を踏み出すための実践的な提案が詰まった1冊だ。
本書は、『人新世の「資本論」』の著者である斎藤幸平を筆頭に、さまざまな分野で活躍する7名の論客たちが、共有財である「コモン」や「自治」の再生を提唱している。そのテーマと現場は精神医療や大学、店舗、ケアシステム、食と農など、多岐にわたるが、どれも市民レベルでの連帯について現状の問題点を指摘。そのうえで、どうやって市民が参画して自治をしていけるのかについて、斎藤氏は「自治」をめぐる2つの困難を解説している。
1つ目はそもそも具体的に「自治」の道筋を思い描く力を失っていること。2つ目は、目指すべき「自治」の定義が定まらないこと。本書ではこの2つについて考察しつつ、未来へのステップを提示している。
「自治」は、我々の生活そのものに直結している。地味でわずらわしく、非効率かもしれないが、民主的プロジェクトなどへの参加型「自治」の領域を広めていくことでしか育てられない。その第1歩を踏み出すための実践的な提案が詰まった1冊だ。
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『コモンの「自治」論』
発行:集英社
著者:斎藤幸平/松本卓也/白井聡/松村圭一郎/岸本聡子/木村 あや/藤原辰史
定価:1870円(税込)
発行日:2023年8月25日
判型:四六判
頁数:288P
ISBN:978-4-0873-7001-0
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-737001-0
発行:集英社
著者:斎藤幸平/松本卓也/白井聡/松村圭一郎/岸本聡子/木村 あや/藤原辰史
定価:1870円(税込)
発行日:2023年8月25日
判型:四六判
頁数:288P
ISBN:978-4-0873-7001-0
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-737001-0
観察とリクエストでコミュニケーションは変わる
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自分の居場所作りにおいて、他者との連帯や交流は必要不可欠だ。コミュニティや仲間内にいる人を敵として見なさず、つながりを築くためには、相手のニーズを聞き取ることが鍵。そのうえで、相手と自分の双方のニーズが満たされる平和なコミュニケーションを取り続けることが重要となる。
本書は、NVC(非暴力コミュニケーション)というコミュニケーション手法の基本概念と、事例を踏まえた実践的なポイントを解説したもの。NVCを考案した著者は「与えることへの喜びが人間本来の姿だ」と考え、NVCは「すべての行動は、他者と自分自身との幸福に自らの意思で貢献する」という目的と言語の組み合わせであると説く。
NVCの基本的な考え方は、起こった出来事に対して、頭で分析したり診断したりするのではなく、自分の中で何か息づいているか(観察)、相手の振る舞いに自分がどんな感情を抱くか(感情)、何を必要としているか(ニーズ)を経て、相手にしてほしいことを促す(リクエスト)という4つのプロセスから構成されている。
ミニエクササイズや過去のワークショップ、トレーニング事例が多数収録されているので、実践するための具体的なイメージがつかみやすい。大半の人がいかに頭で考えた「こうあるべき」に縛られているのか、自分の感情やニーズをないがしろにしてきたかを痛感するだろう。地道で根気のいる作業だが、まずは自分の内面に息づくものを言語化してみることから始めてみよう。
本書は、NVC(非暴力コミュニケーション)というコミュニケーション手法の基本概念と、事例を踏まえた実践的なポイントを解説したもの。NVCを考案した著者は「与えることへの喜びが人間本来の姿だ」と考え、NVCは「すべての行動は、他者と自分自身との幸福に自らの意思で貢献する」という目的と言語の組み合わせであると説く。
NVCの基本的な考え方は、起こった出来事に対して、頭で分析したり診断したりするのではなく、自分の中で何か息づいているか(観察)、相手の振る舞いに自分がどんな感情を抱くか(感情)、何を必要としているか(ニーズ)を経て、相手にしてほしいことを促す(リクエスト)という4つのプロセスから構成されている。
ミニエクササイズや過去のワークショップ、トレーニング事例が多数収録されているので、実践するための具体的なイメージがつかみやすい。大半の人がいかに頭で考えた「こうあるべき」に縛られているのか、自分の感情やニーズをないがしろにしてきたかを痛感するだろう。地道で根気のいる作業だが、まずは自分の内面に息づくものを言語化してみることから始めてみよう。
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『「わかりあえない」を越える』
発行:海士の風
著者:マーシャル・B・ローゼンバーグ/今井麻希子・鈴木重子・安納 献訳
定価:2090円(税込)
発行日:2021年12月6日
判型:四六判
頁数:272P
ISBN:978-4-9099-3401-7
https://eijipress.co.jp/products/5037
発行:海士の風
著者:マーシャル・B・ローゼンバーグ/今井麻希子・鈴木重子・安納 献訳
定価:2090円(税込)
発行日:2021年12月6日
判型:四六判
頁数:272P
ISBN:978-4-9099-3401-7
https://eijipress.co.jp/products/5037
「生きていくことは面倒くさい」を受け入れる
紹介した5冊の書籍に共通しているのは、「居場所を作る」こと。近所の行きつけのお店やコミュニティなど、個人的にすでに持っている人も多いだろう。
ただ、それらが不特定多数やオープンな場にあると、国や自治体の領域だと無関心になっていないだろうか。知らない人とかかわるのは面倒で荷が重い。しかし、当事者でない人たちに任せてきたから自分たちでは何も決められないという無力感が形成されてきたともいえる。
そもそも、人は社会的動物であり、生きていくこと、それ自体が面倒くさいこと。自分たちで決める領域を増やし、小規模でも安全な生活を確保できる居場所が今、求められている。
ただ、それらが不特定多数やオープンな場にあると、国や自治体の領域だと無関心になっていないだろうか。知らない人とかかわるのは面倒で荷が重い。しかし、当事者でない人たちに任せてきたから自分たちでは何も決められないという無力感が形成されてきたともいえる。
そもそも、人は社会的動物であり、生きていくこと、それ自体が面倒くさいこと。自分たちで決める領域を増やし、小規模でも安全な生活を確保できる居場所が今、求められている。
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葉々社 小谷輝之
本屋と出版社
2社の出版社勤務を経て、2022年4月に東京・梅屋敷で本屋「葉々社」を開店。ひとりで本屋の運営を切り盛りしながら、出版社としての本作りにも取り組み中。Twitter:@youyousha_books