「世界一有名な頭骨」が初来日するらしい
そして2025年夏、国立科学博物館のテーマは「氷河期」。7月12日〜10月13日まで、特別展「氷河期展 〜人類が見た4万年前の世界〜(以下、氷河期展)」が開催中です。
なんでもドイツのライス・エンゲルホルン博物館からケナガマンモスの生体復元模型や全身骨格などが来てくれたのだそう。氷河期といえばマンモスですもんね。
さらにフランスのパリ国立自然史博物館からは、ネアンデルタール人の頭骨「ラ・フェルシー1号」とクロマニョン人の頭骨「クロマニョン人1号」が初来日。これらは「世界一有名な頭骨」と呼ばれています。会ってみたい! ……ということで7月の猛暑日にかはくへ行ってきました。
ところで、実は現代も氷河時代の一時期で、「間氷期(かんぴょうき)」というそうです。こんなに暑いと名前負けしている気がしないでもありませんが、間氷期はあと1万年くらいは続くのではと考えられています。そんなダイナミックな気候の世界にも触れられる特別展でした。
暑さ対策をお忘れなく

上野動物園へ向かう人も多く通る道にあった看板。「こっちにも動物がいますよ」と呼びかけているようなポスターでとてもイイ

博物館内に入るまでの通路にすだれがセットされていたり、屋外のあちこちで大きな扇風機やミスト冷却が出迎えてくれたり、少しでも暑さが和らぐように……という心遣いを感じます
音声ガイドはお笑い芸人のあばれる君が担当しています。価格は1台650円で会場レンタルのみ。アプリ版音声ガイドのように会期中何度も自分のスマホで聞けないのが惜しいですが、絶対に解説つきで展示を見た方がいいです。わかりやすくて面白かった!
4万8000年前の骨
で、よーーーーーく見ると、刺し傷がついています。

「え、そこ!?」と思うくらい細かな刺し傷。よく見つけるなあ……
ネアンデルタール人はどんな道具で狩りをしていたの? 今はもう絶滅しているホラアナライオンはどんなライオンなの? ……といった感じで、この1本の小さな骨が、4万年以上前の世界へいざなってくれるわけです。
何を食べたらそんなに大きくなるの?
第1章「氷河期 ヨーロッパの動物」では、直近の氷河期である「最終氷期」のステップ・ツンドラ(寒冷な草原と永久凍土地帯)に適応した巨大動物群(「メガファウナ」とも呼ばれます。かっこいい言葉ですね)の骨格標本と生体復元模型がたくさん展示されています。
こちらはケナガマンモス。全長は約3mでマンモスの中では比較的小型な種です。

その名にたがわぬ毛深さ。寒かったのでしょうね。氷河期展のおみやげコーナーで「マンモスの体毛」が売られていました。お値段は数千円。絶滅動物の毛と考えるとお手頃価格かもしれません

ケナガマンモスの子ども。やっぱり小さなお耳の持ち主。足元がどろんこなのがリアルでかわいらしい

骨格標本も立派。パネルにプリントされた人間のシルエットのおかげでケナガマンモスのサイズがよくわかります。それにしてもキバが本当に長い。この長さが便利だったのでしょうか
そもそもケナガマンモスたちが展示されている室内のパネルが草原なんですよ。そう、氷河期のユーラシア大陸の中央部にはステップ・ツンドラが広がっていました。で、ステップ・ツンドラの草原を構成するのはイネ科やハーブなどの草本植物。草本植物の光合成様式は樹木の葉っぱとは異なり効率がよいので、過酷な環境にも強いのだそう(草本植物は、その光合成様式から「C4植物」と呼ばれています。樹木は「C3植物」)。
ケナガマンモスは、そんなステップ・ツンドラに茂るゴワゴワと硬い草をたくさん食べるから、奥歯が大きくて頑丈だったと解説されています。ケナガマンモスの奥歯の化石を観察すると、確かに厚底のぞうりのよう。

ケナガマンモスの歯の化石に触れるコーナー。ざらざら! パーカッション楽器のギロみたい
さて、メガファウナの名にふさわしい動物がどんどん登場します。

ギガンテスオオツノジカ。名前負けしてませんね

生体復元模型もすばらしい迫力。ギガンテスオオツノジカは最終氷期の森林で生きていたと考えられています。それにしても、どれだけ食べたらこんなに大きくなるのでしょう

ステップ・バイソンはアメリカバイソンやヨーロッパバイソンのご先祖。やっぱり大きい

ツンドラに生息していたケサイ。「毛深いサイ」ということで直球なネーミング。ツンドラは夏になると氷が溶けて湿地帯となりコケが広がり、ケサイはそのコケを食べて命をつないでいたそう

ホラアナライオンも現在のライオンより大きめ。そしてたてがみがありませんね

ホラアナライオンのおちびちゃん。頭が大きくてかわいい

実物の骨もたくさん展示されています。美しい

ホラアナグマの親子。眉間のボリューム感が独特

今は高山地帯で生息する、毛深い足がチャームポイントのライチョウも氷河期の頃は平原にいたそう

ちなみに高山植物も氷河期時代の生き残り。氷河期展では植生についても紹介されています。2万年前の日本では「意外な場所」が針葉樹林だったそう

花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori