「防衛大学校を選んだのは、やっぱり“かっこいい”という憧れみたいなものがあったんです」と語るのは、2025年11月にGMOインターネットグループの、グループサイバー防衛事業推進本部「6」(略称:GMO-6)本部長に就任した廣惠次郎氏だ。
防衛大学校第33期を卒業後、陸上自衛隊通信科の幹部としてキャリアをスタート。統合幕僚監部 指揮通信システム部長、陸上自衛隊通信学校長、教育訓練研究本部長など、通信・サイバー領域の中枢ポストを歴任した。2020年にはウクライナを訪問して同国のサイバー防衛能力を視察。陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波といったさまざまな領域を組み合わせて戦う「領域横断作戦」や「サイバー戦の統合運用」の重要性を訴えてきた。 その廣惠氏がいま、GMOインターネットグループという民間企業に参画し、新たな立場から“すべての人にインターネット”を安全に提供するために活動している。廣惠氏のこれまでの経験や、これから何を目指すのかを聞いた。
防衛大学校第33期を卒業後、陸上自衛隊通信科の幹部としてキャリアをスタート。統合幕僚監部 指揮通信システム部長、陸上自衛隊通信学校長、教育訓練研究本部長など、通信・サイバー領域の中枢ポストを歴任した。2020年にはウクライナを訪問して同国のサイバー防衛能力を視察。陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波といったさまざまな領域を組み合わせて戦う「領域横断作戦」や「サイバー戦の統合運用」の重要性を訴えてきた。 その廣惠氏がいま、GMOインターネットグループという民間企業に参画し、新たな立場から“すべての人にインターネット”を安全に提供するために活動している。廣惠氏のこれまでの経験や、これから何を目指すのかを聞いた。
私にはそれが“カッコイイ”と思ったから
——まず、国を守る自衛隊という道を選んだきっかけをお聞かせください。
防衛大学校を選んだのは、国立の学校でしたし、やっぱり「カッコイイ」という憧れがあったからです。入学の動機は人それぞれですが、学ぶうちに「国防」という尊い仕事に携わるんだという気持ちになっていきました。40歳くらいになったときには、本当に誇りを持っていました。国民からも支えられている大事な組織です。
——陸上自衛官の時代に、ウクライナにも行かれています。
2020年の2月にウクライナへ参りました。首都キーウのウクライナ軍参謀本部では、この盾を贈られました。その後、ウクライナ東部のドンバス地方まで足を延ばし、現場の指揮官からも盾をいただきました。ドンバス地方は2014年から親ロシア派武装勢力とウクライナ軍の間で紛争が続いていた地域です。
防衛大学校を選んだのは、国立の学校でしたし、やっぱり「カッコイイ」という憧れがあったからです。入学の動機は人それぞれですが、学ぶうちに「国防」という尊い仕事に携わるんだという気持ちになっていきました。40歳くらいになったときには、本当に誇りを持っていました。国民からも支えられている大事な組織です。
——陸上自衛官の時代に、ウクライナにも行かれています。
2020年の2月にウクライナへ参りました。首都キーウのウクライナ軍参謀本部では、この盾を贈られました。その後、ウクライナ東部のドンバス地方まで足を延ばし、現場の指揮官からも盾をいただきました。ドンバス地方は2014年から親ロシア派武装勢力とウクライナ軍の間で紛争が続いていた地域です。
ウクライナ訪問時に贈られた盾。左がドンバス地方で戦っている部隊から、右がウクライナ軍参謀本部からのもの
その時は、クラマトルスクからドネツク州のブフレダールまでウクライナ陸軍のヘリで行ったのですが、驚いたのはヘリにドアもなければシートベルトもない。離陸して安定飛行したかと思ったら、パイロットは計器ではなくスマートフォンで機体の状態を確かめながら操縦しているんですよ。高度を上げるとロシアのレーダーに引っかかるので、電線の高さギリギリに飛ぶ。これは怖かったですね。 2020年2月のウクライナ国防省の慰霊式に参加した際、同年1月に11人の戦没者が出ていることを知りました。現地メディアのみの報道で、世界にはほとんど伝わっていませんでした。ロシアとの開戦は2022年2月と広く認識されていますが、実際は2014年以降、年間50人ほどが亡くなっていたのです。
ウクライナ軍の死亡事案:2020年1月(廣惠次郎氏作成、以下の全スライドも同)
——「開戦」というのは、何か分かりやすいきっかけがあるとは限らないのですね。
世界に伝わらなかった背景には、偽情報の拡散や情報のコントロールを通じて相手国の世論や意思決定に影響を与える「認知戦」があると考えています。おそらくロシアは戦死者数を明示的に“抑えて”いた可能性があります。多数の死者が出ると世界に報道されてしまうため、死者が一定数に達したら攻撃をやめるよう指示されていたのかもしれません。その結果、報道されず、ロシアは非難されませんでした。
ウクライナ侵攻は「誰も予想しなかった」といわれますが、私は、ロシアは南側(ドンバス方面)からは確実に攻めてくると確信していました。ブフレダールを上空から見ると「攻撃しやすく、防御しにくい」地形だとわかります。いきなり開戦したというわけではなく、これら複数の文脈を見る必要があります。とはいえ、これらの見方についてはさまざまな分析があり、国際社会でもさまざまな評価がされています。
世界に伝わらなかった背景には、偽情報の拡散や情報のコントロールを通じて相手国の世論や意思決定に影響を与える「認知戦」があると考えています。おそらくロシアは戦死者数を明示的に“抑えて”いた可能性があります。多数の死者が出ると世界に報道されてしまうため、死者が一定数に達したら攻撃をやめるよう指示されていたのかもしれません。その結果、報道されず、ロシアは非難されませんでした。
ウクライナ侵攻は「誰も予想しなかった」といわれますが、私は、ロシアは南側(ドンバス方面)からは確実に攻めてくると確信していました。ブフレダールを上空から見ると「攻撃しやすく、防御しにくい」地形だとわかります。いきなり開戦したというわけではなく、これら複数の文脈を見る必要があります。とはいえ、これらの見方についてはさまざまな分析があり、国際社会でもさまざまな評価がされています。
ウクライナ軍参謀本部から贈られた盾を手に、認知戦について語るGMOインターネットグループ グループサイバー防衛事業推進本部「6」 本部長 廣惠次郎氏
陸上自衛官からGMOインターネットグループへ
——自衛官の経験を持つ廣惠さんが、民間企業であるGMOインターネットグループに参画しました。選んだ理由を教えてください。
一番大きかったのは、「ホワイトハッカーが最も集まる場所」という点です。世界最大級のセキュリティカンファレンス「DEF CON」などのハッキングコンテストで世界1位を3年連続で獲得するなど、技術力の高さも決め手でした。
私が日本で一番やりたかったのは、2025年に成立し2026年秋施行予定の「能動的サイバー防御」に関する取り組みです。攻撃の兆候を分析して、被害発生前に攻撃側のインフラを無効化する先手の手法には、ホワイトハッカーの力が不可欠です。日本に約400人いるといわれるホワイトハッカーの半数がGMOインターネットグループに所属していると聞き、実際に入社して数えてみたら、本当に200人くらいいました(笑)
また、代表の熊谷(GMOインターネットグループ 熊谷正寿 代表取締役グループ代表)が、企業向け(B2B)や一般消費者向け(B2C)だけでなく、政府向けの「B2G(ビジネス・トゥ・ガバメント)」に注力する方針を打ち出していたことも大きかったです。“すべての人にインターネット”を広げた側として、悪意ある者から守るセキュリティ事業の責任がある——そうした熊谷代表の考えと、私の退官のタイミングが重なりました。
一番大きかったのは、「ホワイトハッカーが最も集まる場所」という点です。世界最大級のセキュリティカンファレンス「DEF CON」などのハッキングコンテストで世界1位を3年連続で獲得するなど、技術力の高さも決め手でした。
私が日本で一番やりたかったのは、2025年に成立し2026年秋施行予定の「能動的サイバー防御」に関する取り組みです。攻撃の兆候を分析して、被害発生前に攻撃側のインフラを無効化する先手の手法には、ホワイトハッカーの力が不可欠です。日本に約400人いるといわれるホワイトハッカーの半数がGMOインターネットグループに所属していると聞き、実際に入社して数えてみたら、本当に200人くらいいました(笑)
また、代表の熊谷(GMOインターネットグループ 熊谷正寿 代表取締役グループ代表)が、企業向け(B2B)や一般消費者向け(B2C)だけでなく、政府向けの「B2G(ビジネス・トゥ・ガバメント)」に注力する方針を打ち出していたことも大きかったです。“すべての人にインターネット”を広げた側として、悪意ある者から守るセキュリティ事業の責任がある——そうした熊谷代表の考えと、私の退官のタイミングが重なりました。
国防の現場は、インターネットの中にもある
——これまでのキャリアと、GMOインターネットグループが向かう道で、大きな違いはありましたか?
意外なことに、これまでやってきたこととまったく違和感がないんです。生活ペースも気持ちも変わらず、本当にやりたいことに集中できるようになって、毎日が発見です。
陸上自衛隊で経験を積むと自分が上の世代になり、「やれ!」のひと言で統率できる環境があります。しかしGMOインターネットグループのパートナーは本当に若く、能力が極めて高い。エンジニアとして優秀な上にビジネスも理解しており、10代からホワイトハッカーとして活躍している人もいるなど、私より優れた人財がたくさんいます。そのため、「やれ!」ではなく、力を貸してもらっている気持ちでコミュニケーションしています(笑)。アプローチは違いますが、「人に動いてもらうにはどうするか」という本質は同じです。
——新しい立場になっても、最前線におられるのですね。
今回、グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長に就任しました。通常、自衛隊の将官(幹部)が防衛産業に行くと、権限を持たない「顧問」になるのが一般的です。私は再就職するにあたって、「ビジネスの最前線に立たせてほしい」と希望し、新たにサイバー防衛部署を立ち上げてもらいました。
意外なことに、これまでやってきたこととまったく違和感がないんです。生活ペースも気持ちも変わらず、本当にやりたいことに集中できるようになって、毎日が発見です。
陸上自衛隊で経験を積むと自分が上の世代になり、「やれ!」のひと言で統率できる環境があります。しかしGMOインターネットグループのパートナーは本当に若く、能力が極めて高い。エンジニアとして優秀な上にビジネスも理解しており、10代からホワイトハッカーとして活躍している人もいるなど、私より優れた人財がたくさんいます。そのため、「やれ!」ではなく、力を貸してもらっている気持ちでコミュニケーションしています(笑)。アプローチは違いますが、「人に動いてもらうにはどうするか」という本質は同じです。
——新しい立場になっても、最前線におられるのですね。
今回、グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長に就任しました。通常、自衛隊の将官(幹部)が防衛産業に行くと、権限を持たない「顧問」になるのが一般的です。私は再就職するにあたって、「ビジネスの最前線に立たせてほしい」と希望し、新たにサイバー防衛部署を立ち上げてもらいました。
生活ペースや気持ちに変わりなく、現在もサイバーセキュリティの最前線にいると話す廣惠氏

宮田 健
ライター
2012年よりITセキュリティのフリーライターとして活動するかたわら、個人活動として“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。テーマパークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。2020年、2022年には講談社「ディズニーファン」に短期連載も。
Webサイト:https://dpost.jp/
X:@dpostjp















