「今日が人生最後の日」の覚悟で挑む本気のAI活用——“みんなのできる”を目標にした社内のAI学習コミュニティ

i4U編集部

AIGMOインターネットグループSpeciali4U業務効率化
生成AIの登場により、エンジニアではない人がアプリやツールを開発し、バックオフィスの業務効率化を実現するケースが増えています。

金融系業務のサポート領域でDX推進チームを率いるパク・チョンギュウさんは、エンジニアが1人もいない環境で業務改善のツール開発を進めてきました。現在では、パクさん以外の同部署のメンバーもツール開発に取り組むようになっています。

業務効率化ツールの開発や、生成AI活用を前提に学び合うコミュニティの立ち上げ。そうした実践を支えているのは、「今日が最後の日かもしれない」というパクさん自身の人生観でした。

「ちょっと面倒くさい」を放置しない

——現在の所属と仕事の内容を教えてください。

金融事業を営むGMOフィナンシャルホールディングスのオペレーション業務を受託するGMOビジネスサポートの業務部で、DX推進リーダーを務めています。現場のパートナー(従業員)が日々の業務で感じている「これ、ちょっと面倒だな」「時間がかかりすぎるな」といった課題を、生成AIを使ったアプリやツールで解決するのが主な仕事です。

「ちょっと面倒だな」というのは、例えば、手動でもできなくはないけれど、何度も繰り返さなければならない、明らかに非効率な作業です。そういう仕事が現場にはたくさんあります。

頻度や手間でいうと「年に数回しかないけれど、いざ発生すると完了までに数時間かかる」ような仕事だったり、「マネージャーが本来やるべき大事な仕事の時間を圧迫する、ちょっと面倒くさい業務」といった仕事です。

——絶妙に「ちょっと面倒くさい」ですね。

そうです。そういった仕事は、よくよく話を聞くと、意外と自動化できるケースが多いです。数日でツールが完成してしまうことも多い。

例えば「新旧データを突き合わせて、手作業で表を作る業務」も、生成AIを使ってツールを開発して、手作業をなくしました。みなさん「ダメ元」で相談に来るのですが、やってみたらちゃんと自動化できたので、現場の反応はかなり大きかったですね。

AIを活用し、数日で業務効率化ツールを開発しているというパク氏

属人化を防ぐには7〜8割の自動化で十分

——他にはどんな自動化を進めましたか。

GMOビジネスサポートは金融系のオペレーション業務を受託していることから、24時間365日稼働するチームを抱えています。その「シフト作成」が、実は大きな負担になっていました。非常に属人的で手作業が多かったのです。

——シフト作成はどのあたりが属人的だったのでしょうか。

「いつ、誰が、働くか」を決めるためには、それぞれのメンバーの事情をくんだり、思いやりやバランスも大切です。みんなが満足して働けるようにしたい。そうした細かな条件は数値化やマニュアル化が難しく、結果として属人化しやすいです。

シフト作成については今のところ完全な自動化には至っていませんが、7〜8割は自動化させて、作業時間を劇的に減らしました。「ボタン1つで誰でもシフトが作れる」状態にしたことで、特定の人に作業が依存しなくなりました。これはかなり大きな変化でしたね。

他には、全員対応が必須の業務の周知やリマインドも自動化しました。Slackと連携して「どのパートナーが、まだ対応していないか」などの状況を可視化しました。今までは各マネージャーが個別にリマインドをしていましたが、この自動化でマネージャーの負担はほぼゼロになりました。

自動化により、そもそものステップ自体がシンプルになるので、人による受け取り方の違いが大幅に減る点も大きなメリットだと思います。シンプルなマニュアルや手順なら、誰がやっても同じ結果に近づきます。

——現在使用しているAIツールは。

毎日使っているのはCursorとClaude Codeです。Cursorは1年前から年契約で使っていて、Claudeはそれよりも前から有料版を使っています。新しいAIツールが登場したらすぐに試しています。私が今、一番お金をかけているのはAI関連のサービスだと思いますね。

Cursorを開発するアメリカのAnysphereから「よければ勉強会で配ってください」と提供されたという“Cursorステッカー”など、お気に入りのAIステッカーを自慢し、この日一番の笑顔を見せるパク氏

「今日が人生最後の日」──価値観を変えた心臓手術

——どんどんツールを作っている印象ですが、そのスピード感の理由を教えてください。

2015年に心臓の手術を受けました。かなり大がかりな手術で、社会復帰まで6年以上かかっています。そのときに、「人はいつ何があってもおかしくない」と強く感じました。

それ以来、毎朝家を出る前に鏡を見て「今日が最後の日だ」と自分に言い聞かせています。

後悔しないように、やれることは全力で、前倒しでやる。この考え方は仕事にも影響していますね。締切や進捗がいつも気になって、少し焦っている感覚はあります。でも、それが結果的にスピードや実行力につながっているような気はします。

——開発はパクさんだけがしているのですか。

2025年2月くらいから私にどんどん難しいタスクが任されるようになってきて、時間がかかる開発が増えてきました。

すると、今まではすぐに対応してきた小さいサイズの開発の対応にどうしても影響が出てきます。

そこで「この仕事だったら、教えたらできるかもしれない」と、チャレンジしてみることから始めました。つまり、「つくる人」を増やすことを自分のミッションの1つに加えたのです。

そして「自分のできるを、みんなのできるへ」というスローガンを決めて、役割を変えました。

簡単なものはメンバー自身で作れるようにやり方を教え、私はそのサポートに回る。その分、空いた時間で私は自分にしかできない難しい開発に集中するようにしました。

学習コミュニティ「プロメテウスの火」立ち上げ

——AI活用やツール開発を進めながら、社内の学習コミュニティも立ち上げたそうですね。これもスローガン「自分のできるを、みんなのできるへ」と通じるものがあります。

以前から社内にDX系の情報交換をするためのSlackチャンネルはありましたが、どうしても「情報が流れるだけ」になりがちでした。ごく一部の人だけが発信をして、他の人はそれを受け取るだけ。それでは全体の技術の底上げはできないと感じていました。

そこで立ち上げたのが学習コミュニティ「プロメテウスの火」です。上司にも相談して「好きにやってみるといいよ」と言ってもらえて。今まで私がやってみたいと思ったことを反対されたことはなくて、自由に新しいものを試せています。

プロメテウスの火の特徴はシンプルで、「自らアクションを起こさない人は卒業(退室)」というルールを設けたことです。アクションを起こすまでの明確な期限はありませんが、「意志がないのでは?」と感じられる方には、参加から2週間くらいでお声がけしています。結果的に、本気の人だけがいる空間を保てています。

——社内コミュニティにしては、かなり厳しいルールにも見えます。

でも、ここが他と違う点だと明確にしたかったんです。本気のアクションというのは、質問でも、共有でも、小さなことでいい。とにかく自分から動くことを大切にしました。

日本では「こんなこと聞いていいのかな」「大したことじゃないし……」と、無意識にハードルを上げてしまう控えめな人が多い印象があります。自分が成し遂げたことすら、発信しない人がとても多い。

その“心のハードル”を下げることが、一番の課題だと思っています。参加者は全員エンジニアではありません。でも開発ができるんです。それを発信してほしかった。

どうすれば発信してもらえるだろうかと考えて、質問や共有以外にも、コミュニティ内でチャレンジ課題を提示して、それをみんなでやってみたりしています。これは難易度を2つに分けて、ノーマルモードとハードモードのお題を用意して、参加しやすさも調整しました。

最近だと、Geminiの「Gem」を使って年賀状を作って、その年賀状に2026年の目標を入れてもらって、Slackに投稿するお題を出しました。やってみると楽しいんですよね。とにかく、自発的なアクションを気軽に起こしてもらう環境を作っています。

——学習コミュニティを立ち上げて、どんな変化がありましたか。

目標としていた「自発的な発信力」が育ちました。今は私が依頼しなくても、パートナー自らがアクションを起こして、知見を共有してくれることが明らかに増えました。

自由にやってほしいからこそ、自ら動く意志のある人だけが残る仕組みにしていたのが良かったのだと思います。今では噂を聞きつけたグループ内の別の会社からの参加希望も増えています。

単に人数を増やして大きなコミュニティにするつもりはないので、厳しい基準は維持するつもりです。ゆくゆくは、グループ内で「え、あの『プロメテウスの火』のメンバーだったの?」と一目置かれるような、誇りを持てる場所にしていきたいです。

——ところで、どうして「プロメテウスの火」という名前なのでしょうか。

よくぞ聞いてくれました(笑)

プロメテウスの火は、ギリシャ神話で「文明、技術、知恵」の象徴とされています。先にお話しした病気を経験したことをきっかけに、神話や聖書、古典に興味を持つようになり、この名前を付けました。

神々から火(=知識や技術)を盗み、人間に与えたプロメテウスの物語は、知が一部の存在に独占されるのではなく、人びとのもとへ解き放たれて世界が前に進むことを示しています。私たちも、“特定の誰か”だけに知識がとどまるのではなく、GMOビジネスサポート全体に知識を広げる「火」をともしたい——そんな願いを込めた名前です。

最初は「ちょっと大げさな名前にしちゃったかもな」と思ったのですが、今では「このコミュニティはGMOビジネスサポートの『希望の灯』だよ」と言ってくれるパートナーもいます。

自分が作ったツールには必ず名前をつけているのですが、その中でも一番かっこいい名前ですし、つけてよかったなと思います。

『FINAL FANTASYシリーズ』などのRPGが好きだったというパク氏。他にも「ヤヌス」や「シシューポス」といった神話や映画の登場人物など、パク氏らしいネーミングセンスが光るツールが多い

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i4U編集部

i4U(アイ・フォー・ユー)は、新しい「情報」と「感動」と「笑顔」をお届けする、GMOインターネットグループのオウンドメディアです。有名メディアでの執筆・編集経験者による記事をお楽しみください。

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