編集者・ライターはAIとどう働いている?メディア関係者の生成AI活用事情

i4U編集部

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テキスト、画像、動画、もはやなんでも作ってくれそうな生成AIですが、メディアのプロたちは生成AIとの仕事をどう捉えているのでしょう。どう使っていますか? そもそも役に立っていますか? そんな“実際のトコロ”の話を、誰かに赤裸々に語ってもらいたい。どこかにいないかな……と思ったら、i4Uにいるじゃないですか! よし、聞いちゃおう。

ということで、生成AIとメディアとのつき合い方の最前線と本音について、i4U編集長の岩崎綾、編集主幹の鷹木創、そして編集者のムコハタワカコが語ります。

ウェブメディアの編集長がAIに任せたい仕事

—— メディア関係者の皆さんは、2024年7月時点で生成AIをどんなふうに活用しているのでしょう。

<鷹木>
まずメディアの編集長や経営者を務める者の視点からお話しすると、おそらく多くのメディア関係者が「これをAIがやってくれたら、いいぞ」と思ってチャレンジしているのは、取材した内容をマルチにアウトプットすることだと思います。マルチというのは、つまりウェブメディア以外のSNSや動画といった複数の領域です。

人間が自分の視点で取材した内容を記事化して、同時にその記事をAIに読ませて、YouTubeやX(旧:Twitter)でもフルに展開したい。

というのも、僕らは「ウェブメディア」と名乗りつつも、もうすでにウェブサイトのテキストだけでは戦えない状況になっているんです。マルチに展開して、メディアとしての存在感をいろんな場所で出していかないと生き残れない。だからSNSもやらないといけないし、動画も出したい。しかも動画のプラットフォームなんてたくさんあります。そんな複数の場所に、とにかくどんどん出したい! でも2〜3人の編集者だけで運営している小規模なメディアだと、そんなこと全然対応できないんですよね。人手が足りません。

—— 生成AIが動画を作る時代に入っていますが、クオリティはいかがでしょう。

<ムコハタ>
マルチモーダルAIが登場しつつありますが、今はまだ、こちらが求めるクオリティの出力ではないのが現状ですね。音声とテキストの組み合わせならギリギリいけるかな……というレベルです。画像や動画はまだまだ難しい。

<鷹木>
難しいですね。そしてこれ(画像や動画の制作)は人間にも難しい。例えば記者はテキストを作ることは得意です。取材して、どんどん記事化できる。でもそこで「じゃあ、その記事の内容で、Xでの発信や動画配信も一緒にやってほしいなあ」と記者に相談すると、ピタッと手が止まっちゃうんですよね。

—— 手が止まっちゃうということは、つまり……?

<鷹木>
得意分野ではないから手が止まっちゃうんです。もしウェブメディアがテキスト中心の時代のままだったら、今のような「生成AIをどんどん使わなきゃ、メディアは淘汰されてしまう!」という空気にはならなかったかもなあ、と思ったりしています。記者は、文章だけだったら得意ですし、どうにかなっちゃうので。

テキストを動画に変換するAIツールや、Xで読みやすい投稿を生成するAIツールを使って、すごい勢いでマルチ展開していけたら、うれしいなあと常に考えています。仮に人間がマルチに展開できるとしても、1日に5本とかのペースで出したいので、となるとやはりAIじゃないと無理だなと思いますね。

<岩崎>
鷹木さんが編集長を務めていた「エンガジェット日本版」では、Xでの発信は積極的に行っていましたよね?

<鷹木>
たしかに取材の実況中継をやってましたね! あれはAIじゃなくて人力です(笑)。記者が頑張って書いていました。

Xでの発信は、読者とのコミュニケーションの側面もあります。だから勢いやクオリティが必要です。例えば「質の低い投稿」なら、AIであっという間に作れます。でも僕らが求めているのはそういうポストじゃない。

—— 「質の高い投稿」というのはどういうものですか。

<鷹木>
Xでいうなら、エンゲージメントが高いポストを指します。エンゲージメントが高いポストをAIを使って生成するには、お金や時間が必要です。で、低コストで何も考えずにAIを使って低エンゲージメントのポストをバンバン出しても、僕らの望む効果はないんです。むしろ逆効果で「このアカウント、何なの!?」って嫌われてしまって、しまいにはタイムラインにも出てこなくなります。

ということでXの投稿をAIに任せることには、今も試行錯誤しています。例えば僕と岩崎さんの古巣であるインプレスは、生成AIが登場してすぐに「記事の要約」や「(記事の内容の)3行まとめ」などのAIを、ボタン形式で記事に実装していました。ボタンをポンとクリックすると、記事をいい感じに要約してくれる。そういった要約機能をもとに、質の高いポストを生成するのを試してみたり。ですから、他のメディアさんのAI活用の動向はいつも細かくチェックしていますよ。

AIのカルチャーは欧米寄り?

—— では、記者目線のAI事情についても教えてください。記事を書くときにAIは使いますか。

<岩崎>
AIをメディアで使うことを考えると、絶対に避けて通れないのが「ハルシネーション」の問題です。今のAIは事実じゃないことも言っちゃう。だから「記事を書く」ことをAIに全部任せるのは、まだできないのが実情です。

<鷹木>
記事のソース(元となる情報)は、しっかりしていないといけないんですよね。今後も、人間が取材することは大前提だと思います。

<岩崎>
ニュースサイトだと、正確な事実を用意すれば、それをベースにAIが一定のクオリティで記事を書くことはできますね。

—— 取材に基づいた記事以外の、創作やコラムを書く場合は、AIは使えるでしょうか。

<岩崎>
ネタを考えるときに使えると思いますよ! ただ「一般的な日本人の価値観」をAIに求めるとね、ちょっと難しいんです。例えば日本の生活様式や文化に関わる内容についてAIに質問しても、回答から漂う“カルチャー”が、どことなく欧米なんですよ(笑)。日本の生活スタイルや住環境や食生活に根ざしていないから、日本の読者が重視することが、欧米カルチャーにどっぷり漬かったAIにはどうでもよかったりする(笑)。

だからAIに相談する前に、実際のSNSのショート動画をチェックしたほうが、リアルな日本のトレンドを感じ取れて、そこから企画の切り口が見つかったりしますね。

<ムコハタ>
反対に、シリコンバレーというか、IT系の有名なソフトウェアやサービスについては、ピタッと的を射た、いい感じの内容を答えてくれますね。とても有能です。AIの出力はテーマによって得手不得手がはっきり分かれているなと思います。

AIの中に「答え」はない

—— 生成AIを「壁打ち相手」にすることはありますか。

<ムコハタ>
私はフリーランスの編集者なので、基本的に1人で仕事をしています。だから1人で記事の企画を考えるときにAIと壁打ちしていますね。例えば「今度こういう人にインタビューするんだけど、どんな質問がいいかな?」とか。ただ、厳密にいうと、AIは別に最初から答えは持っていなくて、私が求める答えは私の中にあるんです。

—— 自分の中にある答えを、AIと壁打ちしながら一緒に見つける感じでしょうか。

<ムコハタ>
そうですね、人間同士が対話によって答えを探すように、AIに壁打ち相手になってもらいます。

<鷹木>
文章表現のバリエーションを増やすためにAIに相談するのも、一種の壁打ちに近いかもしれません。編集部で集まって仕事しながら、隣の席の人に「ねえ、ここどういうふうに表現したらいい?」ってちょっと声をかけるような使い方です。

そういう表現のバリエーションは、辞書を引いても見つけられないんですよ。表現したいイメージだけがあるから、見出し語を眺めてもピンとこない。

<ムコハタ>
単語の言い換えは辞書やネット検索で見つけられるんですが、文脈も含めたフレーズを探すときは人やAIに相談するといいですね。

有料AIツールの使い分け

—— よく使っているAIツールは何でしょうか。

<ムコハタ>
ChatGPTとClaude、それからGeminiをよく使っています。Chromeの「タブのグループ保存」機能を使って、この3つはすぐに呼び出せるようにしています。

—— その中で有料で使っている生成AIツールはありますか。

<ムコハタ>
ChatGPTとClaudeは有料版を使っています。Geminiも便利なんですが、今はまだ無料版に留めています。というのも、私はGoogle Workspaceを事業者として使っているのですが、Geminiの有料版は企業の機密情報を学習しないように限定されているからなのか、個人向けのGeminiと比べると使える機能がまだ少ないんです。今のところは使える機能に見合った価格だとは思えなくて、Geminiは無料版のままで使っています。
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i4U編集部

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