街に増える個性派書店──私が小さな本屋「葉々社」を開いた理由

長らく「街から本屋が減っている」と言われている一方で、ここ数年、小さな、いわゆる“独立系書店”と呼ばれる本屋が全国各地で生まれているのをご存じでしょうか?

それぞれの店主たちがこれまでに経験したことを財産にして、築き上げてきた人脈を使い、まずは小さく商売を開始してみる。本屋だけで食べることができなければ、ほかの仕事をすることもいとわない。そういうマインドセットの人たちが増えてきているように感じています。

店主に共通しているのは、本が好きということ。そして、本の多様な世界を通じて社会を少しでも良くしていきたいという考えを持っていることです。

かくいう私も、そんな独立系書店の開店を目指すようになり、16年間勤めた出版社を退職し、新刊と古本を扱う本屋「葉々社」を2022年春に開店させました。この記事では、なぜ、小さな本屋が魅力的なのか、なぜ出版社を辞めてまで小さな本屋を始めたのかについて、お話していこうと思います。

良書を埋もれさせたくない

総務省統計局の「第71回 日本統計年鑑」によると、2020年度の書籍新刊点数は約7万冊に及ぶそうです。コミックや電子書籍を含めた出版業界全体の売り上げで見ると、この紙書籍の売り上げは全体の40%程度ではありますが、それでも平均して毎月5700冊以上が新刊として世に出ているわけです。そこから自分の読みたい本を探し出すのが難しいことは、容易に想像できます。

実際にこのことを実感したのは、皮肉にも自分の企画立案のために行った市場調査がきっかけでした。当時、出版社でデジタルカメラに関する雑誌の編集部に長く在籍していた私でしたが、徐々に、より一般的な分野の書籍に取り組みたいと考えるようになりました。

企画を立案するときは類書を調べます。作りたい本と同様の内容の本がすでに世の中に存在するのかどうか。存在するなら、その本は売れているのか。よくよく探したところ、結論としては、その時私が作りたいと思っていたテーマの本はその大部分が過去に出版されていたことが分かりました。

しかし、本屋での調査でなぜ類書にたどり着けなかったのかというと、そもそも毎年大量に発売される新刊に良書が埋もれてしまうほか、「小さな出版社が作る本は、大手書店に並びにくい」という現実があるからだと知りました。

葉々社の店頭には、ひとり出版社である「夏葉社」の書籍も取り扱っています

前述のように、毎年約7万冊以上の書籍が新刊として登場する中で、すべての本屋がすべての新刊書籍を吟味するのは困難です。そのため、本屋に書籍を卸す「取次」という存在が必要になります。取次は取引を行う本屋の規模や売り上げ等によって、各本屋のランクを決めた上で、その本屋に合った書籍を一方的に選び、各本屋に書籍を配本しています。

しかし、たとえ書籍の内容がすばらしくても注目されなければ、小さな出版社が作った印刷部数の少ない良書が、減ったとはいえまだ全国に1万店程度存在する本屋の隅々にまで行き渡らせるのは難しく、出版社に直接注文が来る“指名買い”を待つことが多くなります。つまり、「本屋に読みたい本がない」と感じるのは、本が存在しないのではなく、店頭で出合えていないだけかもしれないのです。

当然ながら、本屋側もこれらの問題には気が付いており、取次による自動的な配本に頼らず、1冊1冊の内容を吟味してから仕入れる本を決める「セレクト書店」も増えてきました。店主による個性的かつ厳選された本が並ぶ「小さな本屋」が全国各地で誕生している背景には、自分の本屋で売る本は、自分で選び、責任を持ってお客さんにオススメするという、店主たちの強い意志がそこに存在するからなのです。

私の理想とする小さな本屋さん

そんな埋もれた良書に光を当てる役割を持つ、小さな本屋に引かれるようになった私は、自分でも小さな本屋の開店を目標にするようになり、まずは全国各地に点在している街の小さな本屋を訪ねてまわりました。その中から、特に魅力的だった小さな本屋をいくつかご紹介します。

「ひばりブックス&コーヒー」

選書のクオリティが高く、私が理想とする本屋に近かったのが、静岡県静岡市にある「ひばりブックス&コーヒー」です。店主の太田原さんが選んだ本は、そのどれもが知的好奇心をくすぐられ、店の奥には喫茶スペースがあり、その隣にギャラリーが設けられています。

静岡県静岡市にある 「ひばりブックス&コーヒー」https://hibari-books.com

店内には店主がセレクトした約1万冊の書籍や雑誌が並びます

店の奥には喫茶スペースやギャラリーも設けられています

ひばりブックス&コーヒー
〒420-0839 静岡県静岡市葵区鷹匠3-5-15 第一ふじのビル1F
TEL:054-295-7330
営業時間 11:00~20:00(定休日 毎週月曜日)

TOUTEN BOOKSTORE

愛知県名古屋市にある「TOUTEN BOOKSTORE」も魅力にあふれた街の本屋です。店主の古賀さんが丁寧に作ったこの店は、雑誌も小説も漫画もバランスよく並んでいて、「ひばりブックス」と同様、飲み物を提供し、ギャラリースペースを設けています。

「TOUTEN BOOKSTORE」https://touten-bookstore.net
(写真提供:shogo folk sakai)

こちらもカフェスペースがあり、ギャラリーを併設した作りです(写真提供:shogo folk sakai)

2階にもスペースがあり、イベントなどが開催されています(写真提供:shogo folk sakai)

TOUTEN BOOKSTORE
〒456-0012 愛知県名古屋市熱田区沢上1-6-9
営業時間 月~木曜日 8:30〜18:00、金曜日 8:30〜21:00、土・祝日 10:00〜18:00(定休日 毎週日曜日)

この2店からは、小さな本屋では書籍の新刊販売だけではなく、アイデアと工夫次第でお店が本来持つ魅力を2倍にも3倍にもパワーアップできることを学びました。

ほかにもまだある魅力的な小さな本屋さん

私が訪問した本屋の中では上記2店が特に感銘を受けましたが、全国にはまだまだオススメしたい小さな本屋がたくさんあります。その中から厳選して3軒をご紹介しましょう。

各店のホームページからも店舗の雰囲気が垣間見られますが、どの本屋も個性があって魅力的。こうしたオンリーワンの本屋が全国に増えているのです。皆さんの家の近所にもあるかもしれない、街の小さな本屋を、ぜひ行きつけの店にしてみてはいかがでしょうか。

本屋ウニとスカッシュ
長崎県長崎市にある「本屋ウニとスカッシュ」は、小さなスペースに新刊書籍が並んでいて、自分だけの隠れ家を発見したような気分が味わえます。

〒850-0013 長崎県長崎市中川2丁目15-15
営業時間 10:00~19:00(定休日 不定休)


「本屋ルヌガンガ」
香川県高松市にある「本屋ルヌガンガ」は、「これぞ!街の本屋さん」という印象で、老若男女が楽しめる、多彩なジャンルの本を手に取ることができます。

〒760-0050​ 香川県高松市亀井町11番地の13 中村第二ビル1F
TEL/FAX 087-837-4646
​営業時間 10:00~19:00(定休日 毎週火曜日)


「わおん書房」
福井県福井市にある「わおん書房」は、うなぎの寝床のような奥に細長い店で、壁の両サイドに設置された本棚をしばし眺めているだけで心が落ち着いていくことが分かります。

〒910-0006 福井県福井市中央1丁目14-9 堀江ビル1F
TEL/FAX 0776-43-6117
営業時間 12:00〜18:00
定休日 火曜・水曜

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葉々社 小谷輝之

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