優秀な編集者が作った本を売る
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出版社「インプレス」在籍時に制作したカメラ関連の書籍は、葉々社の店頭でも販売しています
前述の通り、雑誌編集から書籍の制作に興味の対象が移った私ですが、その理由は、書籍は著者と向き合う時間が長く、1冊を通じて読者にメッセージを伝える、書籍の制作過程に心を強くつかまれたためでした。
しかしその時、私が作りたいと思っていた本はすでに存在していると判明。重箱の隅をつつけば、企画できないわけではないものの、わざわざ紙の資源を使ってまで作る必要があるのか。この点はよく考えました。そして、いつしか私は「優秀な編集者が作った本を売る場所を作る」ことを目標にするようになりました。
こうして私が「本屋を作ろう」と思ったのは、2020年ごろのことでした。この時すでに50歳という節目の年に合わせて、2022年3月に会社を辞めることを決めていました。開店までの準備期間としては、2年間の時間があったことになります。
当たり前のことですが、予備知識もなく本屋を開店させることはできないので、まず初めに本屋について書かれている本をたくさん読みました。
それと並行してお金の本も読み、手持ちの資金を投資信託に移動させました。新刊の利益だけでは生活していくことが厳しいことが分かってからは、古本や雑貨類も販売すること、飲み物を提供すること、「ひと箱本棚」という形で一般のお客さんにリンゴ箱ひと箱分のスペースをレンタルすることを検討し始めました。いろいろなことを組み合わせることで、少しでも売り上げが増えるよう工夫したわけです。
しかしその時、私が作りたいと思っていた本はすでに存在していると判明。重箱の隅をつつけば、企画できないわけではないものの、わざわざ紙の資源を使ってまで作る必要があるのか。この点はよく考えました。そして、いつしか私は「優秀な編集者が作った本を売る場所を作る」ことを目標にするようになりました。
こうして私が「本屋を作ろう」と思ったのは、2020年ごろのことでした。この時すでに50歳という節目の年に合わせて、2022年3月に会社を辞めることを決めていました。開店までの準備期間としては、2年間の時間があったことになります。
当たり前のことですが、予備知識もなく本屋を開店させることはできないので、まず初めに本屋について書かれている本をたくさん読みました。
それと並行してお金の本も読み、手持ちの資金を投資信託に移動させました。新刊の利益だけでは生活していくことが厳しいことが分かってからは、古本や雑貨類も販売すること、飲み物を提供すること、「ひと箱本棚」という形で一般のお客さんにリンゴ箱ひと箱分のスペースをレンタルすることを検討し始めました。いろいろなことを組み合わせることで、少しでも売り上げが増えるよう工夫したわけです。
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店内の小上がりスペースに設置した「ひと箱本棚」。リンゴ箱ひと箱分をレンタルし、その借り手がセレクトした本を並べて販売できる仕組みです
東京・梅屋敷に小さな本屋「葉々社」を開店
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「葉々社」は京浜急行電鉄、京急蒲田駅の隣り「梅屋敷駅」から徒歩3分。商店街から道を1本入ったところにあります
店舗物件を探す際に私が重要視していたことが2点あります。1つは自宅から自転車で通える範囲であること、もう1つが店舗内に小上がりのスペースがあることです。
前者は字面どおり、会社員を辞めるのにストレスがたまる通勤電車には乗りたくないと思ったから。後者は近所の子どもたちがゆっくりとくつろげる安心・安全な場所を、地域に作りたかったからです。
広さは最低10坪、賃料は月10〜15万円を想定していました。なぜ、梅屋敷なのかについてもよく聞かれるのですが、前述した要件を満たしている物件が、偶然、梅屋敷に存在したからという単純な理由です。
前者は字面どおり、会社員を辞めるのにストレスがたまる通勤電車には乗りたくないと思ったから。後者は近所の子どもたちがゆっくりとくつろげる安心・安全な場所を、地域に作りたかったからです。
広さは最低10坪、賃料は月10〜15万円を想定していました。なぜ、梅屋敷なのかについてもよく聞かれるのですが、前述した要件を満たしている物件が、偶然、梅屋敷に存在したからという単純な理由です。
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店内奥にある、小上がりのスペース
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小上がりではクラフトコーラやりんごジュースなども販売しています
ちなみに葉々社は、ちょうど10坪(土間が5坪、小上がりが5坪)で、賃料は月7万7000円です。これ以上、広くなると、自分の目が隅々まで行き届かず、お客さんに寄り添えない店になると感じていました。
商売的には取り扱う本の数が増えれば増えるほど、売り上げも上がることが予想されるのですが、その分、1冊の本を知るために必要な時間が膨大になり、自分が仕入れたことすら覚えていない本が売れた、というような事態に陥りかねません。小さな本屋を始めるにあたり、そういう状況だけは避けたいなと思っていました。
本はいうまでもなく、複製品であり、北海道で購入しようが、沖縄で購入しようが、アマゾンで購入しようが、その内容に違いがあるわけではありません。では、お客さんはなぜ、葉々社で購入してくれるのか。その答えこそが、商売を長続きさせる一番の理由であると感じています。
葉々社の陳列数は、新刊が2000冊、古本が600冊ほど。すべての本を自分で選んで仕入れています。選書の基準は「自分が読んだ本」「自分が読みたい本」「お客さんに読んでもらいたい本」の3つ。原則、ベストセラーは置かず、流行を追うような本も並べていません。
商売的には取り扱う本の数が増えれば増えるほど、売り上げも上がることが予想されるのですが、その分、1冊の本を知るために必要な時間が膨大になり、自分が仕入れたことすら覚えていない本が売れた、というような事態に陥りかねません。小さな本屋を始めるにあたり、そういう状況だけは避けたいなと思っていました。
本はいうまでもなく、複製品であり、北海道で購入しようが、沖縄で購入しようが、アマゾンで購入しようが、その内容に違いがあるわけではありません。では、お客さんはなぜ、葉々社で購入してくれるのか。その答えこそが、商売を長続きさせる一番の理由であると感じています。
葉々社の陳列数は、新刊が2000冊、古本が600冊ほど。すべての本を自分で選んで仕入れています。選書の基準は「自分が読んだ本」「自分が読みたい本」「お客さんに読んでもらいたい本」の3つ。原則、ベストセラーは置かず、流行を追うような本も並べていません。
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葉々社の店内。蔵書数は、新刊が2000冊、古本が600冊ほど
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いちばんオススメの本を置いているスペース
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韓国や台湾の小説も充実の品ぞろえ
このぐらいの規模だと、どこに何が並んでいるかはおおよそ把握が可能で、お客さんからの質問や要望にも対応しやすく、常に街行く人々の気持ちに寄り添いながら商いができます。大規模店舗になると、自分たちが「売りたい本」を並べるのではなく、「売れる本」を優先して並べることが多くなるかもしれませんが、小さな本屋の場合、「売りたい本」だけに集中できます(「売りたい本」だけで商売を続けていけるかはまた別の話ですが……)。この点も小規模店の大きなアドバンテージでしょう。
八百屋さんみたいな本屋さんになりたい
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近所の方はもちろん、作家や校正者、遠くからわざわざ電車に揺られ来る方もいらっしゃって感謝しきりです
私の現在の目標は魚屋や八百屋のような本屋になること、もうひとつはラジオ局のような本屋になることです。前者はオススメの本をお客さんにきちんと案内ができるように、本についてもっと詳しくなりたいと思っています。ただ並べているだけでモノが売れる時代はとうの昔に過ぎ去りました。
お客さんとの何気ない会話から得た情報をもとに、これまでは仕入れてこなかったジャンルの本を取り寄せてみたり、新刊が入荷したら、その情報をTwitterで発信してみたりと、一人一人のお客さんの顔を思い浮かべながら日々の商いを続けていくつもりです。
お客さんとの何気ない会話から得た情報をもとに、これまでは仕入れてこなかったジャンルの本を取り寄せてみたり、新刊が入荷したら、その情報をTwitterで発信してみたりと、一人一人のお客さんの顔を思い浮かべながら日々の商いを続けていくつもりです。
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店内奥の定位置で作業していることもありますが、ぜひ気軽にお声がけを
後者は、お客さんとの情報のやりとりを双方向に行いたいという意味です。私が好きなラジオ番組に、Tokyo FMの「Blue Ocean」があります。元NHKアナウンサーの住吉美紀さんがパーソナリティを務める番組です。
この番組では、ファンの方々のことを“オーシャンヌ”と呼んでいるのですが、会話が一方通行ではなく、常に双方向で行われています。ときには住吉さん自らがオーシャンヌの方々に呼びかけ、意見を求めるような場面も。
住吉さん自身は中立的な立場でありながら、番組に寄せられたメッセージに対して、心を砕き、優しい言葉を投げかける。情報伝達が基本的に一方通行であるテレビとは異なり、リスナーのいまの気持ちに寄り添いながら番組づくりを行う、その姿に私が理想とする本屋の未来があります。
私は自分の夢をかなえるために2年間の準備期間を設けました。その間、人に会い、選書リストを作成し、古本を買い集めて、文具類の仕入れ先を探し、少しずつ自分が描く理想の本屋の実現へと行動を移していきました。もし、本屋の開店に興味がある方がいらっしゃいましたら、葉々社に遊びにおいでください。お待ちしております。
この番組では、ファンの方々のことを“オーシャンヌ”と呼んでいるのですが、会話が一方通行ではなく、常に双方向で行われています。ときには住吉さん自らがオーシャンヌの方々に呼びかけ、意見を求めるような場面も。
住吉さん自身は中立的な立場でありながら、番組に寄せられたメッセージに対して、心を砕き、優しい言葉を投げかける。情報伝達が基本的に一方通行であるテレビとは異なり、リスナーのいまの気持ちに寄り添いながら番組づくりを行う、その姿に私が理想とする本屋の未来があります。
私は自分の夢をかなえるために2年間の準備期間を設けました。その間、人に会い、選書リストを作成し、古本を買い集めて、文具類の仕入れ先を探し、少しずつ自分が描く理想の本屋の実現へと行動を移していきました。もし、本屋の開店に興味がある方がいらっしゃいましたら、葉々社に遊びにおいでください。お待ちしております。
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葉々社のオリジナルしおりは全16色。ブックカバーとしおりは好きな色から選んでいただけます
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定休日 月曜日・火曜日
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葉々社 小谷輝之
本屋と出版社
2社の出版社勤務を経て、2022年4月に東京・梅屋敷で本屋「葉々社」を開店。ひとりで本屋の運営を切り盛りしながら、出版社としての本作りにも取り組み中。Twitter:@youyousha_books