米大統領選にも影響を与えたエレクトロ、2000年代J-POPの再評価ほか、2024年重要だった5つの音楽トレンド

Jun Fukunaga

Specialカルチャー映画・音楽
AIの台頭やTikTokからの音源削除、バイラルヒットによって一夜にしてスターになった新人アーティストの登場など、2024年もさまざまなことが起きた音楽シーン。本稿では、そんな音楽シーンを日々注視しながら、音楽ライターとしても活動する筆者が、2024年の音楽シーンを振り返り、特に注目した5つのトレンドを紹介する。

今やポップミュージックとしての人気を確立したジャングル/ドラムンベース

ここ2〜3年間で急速にリバイバルが進み、今やポップスの1ジャンルとしての人気も確立したジャングル/ドラムンベース。

もともとジャングル/ドラムンベースは、90年代のイギリスで勃興したレイヴカルチャーをルーツとするクラブミュージックのサブジャンルだが、2021年、その要素を“ベッドルーム・ポップ”に取り入れたイギリス人アーティスト、PinkPantheressの登場により、人気が再燃。90年代〜Y2Kレイヴ/クラブミュージックにインスパイアされたポップスが、2023年ごろからTikTokを中心に活動する多くのZ世代アーティストが取り入れ始めるなど、“新たなポップス”としてのフォーマット化が進行した。

そんな中、2023年に登場したイギリス人アーティスト、Kenya Graceのシングル「Stranger」は、Billboardのダンス/エレクトロニックソング・チャートで5週連続1位を獲得。全世界で5億7800万回以上のストリーミングも記録した。TikTokなど、300万以上のUGCからの楽曲再生回数は合計で1000億回を超え、Spotifyグローバルチャートで3位、Shazamダンス・チャートでも1位を獲得している。

さらにイギリスの音楽チャートで3週連続首位を獲得。80年代に活躍したイギリス人大御所アーティストのKate Bush以外で唯一、“作曲家、プロデューサー、パフォーマーとして1位を獲得した女性アーティスト”となった。その成功をきっかけにKenya Graceは、2024年4月にアメリカで開催されている世界的音楽フェス「コーチェラ 2024」に初出演。さらに2024年7月には日本の人気音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL 2024」にも出演するなど、グローバルな活躍を見せている。

Kenya Grace - Strangers (Official Lyric Video)
また、同じ音楽性を持つ、イギリス人アーティストNia Archivesも2024年は世界各地の有名音楽フェスに出演したほか、8月にはここ日本で開催された「SUMMER SONIC 2024」や「SONIC MANIA 2024」に出演。一方、ジャングル/ドラムンベースを取り入れた斬新なK-POPで知られるNewJeansも2024年6月に開催した初の日本単独公演が話題になったことは記憶に新しい。これらの出来事は、日本でも“ポップスとしてのジャングル/ドラムンベース”が広く受け入れられつつあることを物語っている。

NewJeans (뉴진스) 'Super Shy' Official MV
*ジャングル/ドラムンベース
ジャングルは、1990年代初頭にイギリスで生まれた電子音楽の1ジャンル。レゲエやダブの影響を受けたサウンド、高速なブレイクビートが特徴。ドラムンベースはジャングルから派生し、高速なビートを維持しつつも、より洗練された音作りや重低音のベースラインを特徴とする。

社会現象にもなった2000年代エレクトロの復権

ジャングル/ドラムンベースの次のトレンドとして、2024年に台頭しつつあるのが、2000年代に流行したエレクトロだ。

2024年はこのジャンルのパイオニアとして知られるフランスのアーティスト、Justiceが約8年ぶりに再始動。最新アルバム『Hyperdrama』を引っ提げ、先述のコーチェラ 2024を皮切りに世界各地でライブを行ったことが大きな話題となった。

Justice - Neverender (Starring Tame Impala) (Extended)
また、そうしたオリジナル世代のレジェンドの復活に呼応するように、ポップスターのCharli xcxが同年6月にエレクトロを取り入れたアルバム『Brat』をリリース。同作はSNSを通じて、Z世代の女性や“クィア”の間で人気を博し、今夏は音楽の枠を超え、ファッション方面で大きな注目を集め、"Brat Summer"と呼ばれる社会現象を巻き起こした。

ちなみにCharli xcxは、この"Brat"という単語を「ありのままの自分」「飾らない自分」「やりたいことをやる」「好きをあきらめない」というポジティブな価値観の象徴として使用。また、カジュアルに使えるユーモアやポジティブなニュアンスも含まれており、それを受けて、ファンの間では「かっこいい」「いけてる」「(いい意味で)やばい」といった意味合いで日常的に使われている。

2024年7月、現職のバイデン大統領の撤退後に次期米大統領候補となったカマラ・ハリス副大統領は、Charli xcxからSNSで「kamala IS brat」(カマラはbratだ)と投稿されたことを受け、自身の選挙キャンペーンをサポートするネットミームとしてこの言葉を使用。これにより"Brat Summer"ムーブメントはさらに加速することになった。

2024年11月に発表された2025年のグラミー賞ノミネーションでCharli xcxは、主要部門を含む9部門にノミネートされ、さらに大きな注目を集めた。2025年のグラミー賞の結果次第では、エレクトロ人気がさらに高まる可能性があり、現在、世界中の音楽ファンがその結果を注視している。

Charli xcx - Von dutch (official video)
*エレクトロ:
2000年代初頭に人気を博したダンスミュージックのサブジャンル。ディストーションがかかったシンセサイザーやダンサブルなビートを特徴とする。また、インディロックとの親和性の高さもあり、のちにフレンチエレクトロやオージーエレクトロなど、世界各地でこのジャンルのシーンが確立されていった。

トランスは成長ペースで最も勢いがあるジャンルに

ドラムンベース/ジャングル、エレクトロと同じく、Y2K〜2000年代に人気を博したトランスも、2024年は再評価の傾向が見られた。

2010年代、このジャンルはEDMのサブジャンルという位置付けで主にEDMファン層から支持されていた。しかし、ここ最近の再評価により、別のダンスミュージックのサブジャンルであるハウス/テクノとの結びつきも強まり、主にトランスのサブジャンルであるユーロトランスを楽曲に取り入れるアーティストが増加している。例えば、人気テクノプロデューサー/DJのAmelie Lensは、かねてから“フェス・バンガーな未発表曲”として人気を博していた「Falling For You」を2024年10月にリリースし注目を集めた。

Amelie Lens - Falling For You
また、ここ最近はハイパーポップや、ポップスとして解釈したドラムンベース/ジャングルを手がけるZ世代アーティストの中にも、トランスを取り入れる若いアーティストが増えている。

一方、ここ日本ではLDHに所属するガールズポップグループのf5veが、2024年7月にトランスを取り入れたシングル「Underground」をリリースしている。2000年代に流行したパラパラを取り入れたダンスや「デコトラ」をフィーチャーしたMVがSNSでバイラルヒットし、ほぼ日本語の歌詞であるにもかかわらず、広く話題になった。

f5ve - Underground (Official MV)
なお、音楽プラットフォーム「SoundCloud」が2024年10月に発表したデータによると、トランスは同プラットフォームにおけるリスナー数で2位、再生数と視聴時間で3位のジャンルとなっている。また、過去1年間で視聴時間が24%、リスナー数が11%増加しており、2024年において最も成長のペースが速いジャンルであることが報告されている。

*トランス:
ハウスから派生したEDMジャンル。125〜145BPMの速い四つ打ちのビート、繰り返されるシンセサイザーの短い旋律が特徴。高揚感や陶酔感を生み出し、クラブやフェスティバルで人気を博する。
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Jun Fukunaga

ライター・インタビュワー
音楽、映画を中心にフードや生活雑貨まで幅広く執筆する雑食性フリーランスライター・インタビュワー。最近はバーチャルライブ関連ネタ多め。DJと音楽制作も少々。

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