中国EC最大手であるアリババグループのフィンテック子会社「アント・グループ」が、中国当局の横やりによって上場延期に追い込まれたのは2020年11月だった。それから1年、中国政府は産業界への規制を広げている。
なかでも今夏に発表された教育業界とネットゲーム、エンタメ業界への規制は消費者の生活に直接関わるため、日本でも大きく注目された。規制の背景と具体的な内容、そして関連産業の動向を前後編で解説する。
前編は、いまだ混乱が続く教育規制「双減」政策について紹介しよう。
なかでも今夏に発表された教育業界とネットゲーム、エンタメ業界への規制は消費者の生活に直接関わるため、日本でも大きく注目された。規制の背景と具体的な内容、そして関連産業の動向を前後編で解説する。
前編は、いまだ混乱が続く教育規制「双減」政策について紹介しよう。
「宿題より睡眠を優先する」「塾は非営利組織に」
今年7月24日、中国共産党弁公庁と国務院弁公庁が「小中学生の宿題と塾・習い事の負担を軽減するための意見」を発表した。保護者と子どもに重い負担となっている「宿題」「学習塾」を減らす政策であることから通称「双減」と呼ばれるようになった。
規制の内容はかなり細かいが、一例を挙げるとこんな感じだ。
<宿題の軽減>
・小学1、2年生には筆記の宿題を出してはいけない。反復練習など知識の定着などは学校で行う。小3~6年生の筆記の宿題は1時間以内、中学生は90分以内に終わる内容にする
・機械的、非効率な宿題、あるいは過度な反復、懲罰的な宿題をやめる
・宿題はできるだけ学校内で終わるようにする
・家庭で宿題が終わらなくても、睡眠を優先する
……と、これだけ読むと至極真っ当なことを書いている。ただし、もう1つの「学習塾の負担軽減」は波紋を呼んだ。
<塾通いの負担軽減>
・各地方政府は、小中学校の児童・生徒向けの学習塾を新たに認可してはならない。既存の塾は非営利組織として登記する。オンライン学習塾も許可制にする
・学習塾以外は上場を禁じ、資金調達は厳格に制限する。
・塾や習い事の教室は、祝休日や夏季休暇、冬期休暇に集団授業をしてはならない。また、高給で学校の教師を引き抜いてはならない
・オンライン教育機関が海外の外国人を雇用することを厳しく禁じる
・学習塾、習い事スクールなどの宣伝広告を規制する
・学習塾の授業料は、政府がガイドラインを策定し管理する。高額化を抑制する
規制の内容はかなり細かいが、一例を挙げるとこんな感じだ。
<宿題の軽減>
・小学1、2年生には筆記の宿題を出してはいけない。反復練習など知識の定着などは学校で行う。小3~6年生の筆記の宿題は1時間以内、中学生は90分以内に終わる内容にする
・機械的、非効率な宿題、あるいは過度な反復、懲罰的な宿題をやめる
・宿題はできるだけ学校内で終わるようにする
・家庭で宿題が終わらなくても、睡眠を優先する
……と、これだけ読むと至極真っ当なことを書いている。ただし、もう1つの「学習塾の負担軽減」は波紋を呼んだ。
<塾通いの負担軽減>
・各地方政府は、小中学校の児童・生徒向けの学習塾を新たに認可してはならない。既存の塾は非営利組織として登記する。オンライン学習塾も許可制にする
・学習塾以外は上場を禁じ、資金調達は厳格に制限する。
・塾や習い事の教室は、祝休日や夏季休暇、冬期休暇に集団授業をしてはならない。また、高給で学校の教師を引き抜いてはならない
・オンライン教育機関が海外の外国人を雇用することを厳しく禁じる
・学習塾、習い事スクールなどの宣伝広告を規制する
・学習塾の授業料は、政府がガイドラインを策定し管理する。高額化を抑制する
教育のプレッシャーは妊娠中から!?
規制の文面を読むと、中国が抱えている問題がうっすら見えるだろう。
中国は日本とは比較にならない「学歴社会」だ。企業が求職者を学歴で門前払いする「学歴フィルター」は当たり前で、地方の中小企業の初任給が今も6~8万円程度なのに対し、メガIT企業のエンジニアの初任給は日本企業より高い。通信機器大手のファーウェイは「天才少年プロジェクト」で採用した新卒エンジニアや研究者に年収数千万円を出している。
格差が固定し、年を取るほど逆転が困難になるため、親は妊娠時から子どもの教育プランを描く。
1970年代に始まった「一人っ子政策」で、今の30代の多くは自分も一人っ子で、子ども一人っ子。日本だと、きょうだいでタイプや性格が全然違うことも珍しくないが、子どもが1人しかいないと、「失敗は許されない」的なプレッシャーも強くなる。子どもたちは物心ついたころから、両親と祖父母の期待、そして投資を背負って勉強漬けの生活を送る。
その結果、親、学校、社会全体が「教育沼」にはまって身動きが取れなくなっているのが、今の中国社会だ。
国が豊かになると海外留学の選択肢も増えるし、中国人自身も暗記一辺倒の自国の教育に辟易としているから、ネイティブの教師に英語を習う子どもも多い。「ノーベル賞の受賞者が少ない。創造性がない」「勉強はできるが、教養に欠ける」「IQだけでなくEQも必要」という風潮を受け、レゴブロックのような知育教育、プログラミング、芸術、スポーツといった習い事も活況だ。
土日に4つの習い事を詰め込む家庭は普通にあり、親は送り迎えで、子どもたちは勉強と習い事でたしかに疲れきっている。
中国は日本とは比較にならない「学歴社会」だ。企業が求職者を学歴で門前払いする「学歴フィルター」は当たり前で、地方の中小企業の初任給が今も6~8万円程度なのに対し、メガIT企業のエンジニアの初任給は日本企業より高い。通信機器大手のファーウェイは「天才少年プロジェクト」で採用した新卒エンジニアや研究者に年収数千万円を出している。
格差が固定し、年を取るほど逆転が困難になるため、親は妊娠時から子どもの教育プランを描く。
1970年代に始まった「一人っ子政策」で、今の30代の多くは自分も一人っ子で、子ども一人っ子。日本だと、きょうだいでタイプや性格が全然違うことも珍しくないが、子どもが1人しかいないと、「失敗は許されない」的なプレッシャーも強くなる。子どもたちは物心ついたころから、両親と祖父母の期待、そして投資を背負って勉強漬けの生活を送る。
その結果、親、学校、社会全体が「教育沼」にはまって身動きが取れなくなっているのが、今の中国社会だ。
国が豊かになると海外留学の選択肢も増えるし、中国人自身も暗記一辺倒の自国の教育に辟易としているから、ネイティブの教師に英語を習う子どもも多い。「ノーベル賞の受賞者が少ない。創造性がない」「勉強はできるが、教養に欠ける」「IQだけでなくEQも必要」という風潮を受け、レゴブロックのような知育教育、プログラミング、芸術、スポーツといった習い事も活況だ。
土日に4つの習い事を詰め込む家庭は普通にあり、親は送り迎えで、子どもたちは勉強と習い事でたしかに疲れきっている。
学校の登下校では、親の送り迎えが当たり前(著者撮影、中国大連市内)
浦上 早苗