語や語の一部を繰り返す「畳語」の世界
私たちは日常生活の中で、「わかわかしい」「たかだかと」「いろいろ」などの副詞、「きらきら」「さらさら」などのオノマトペ、「ひとびと」「われわれ」「かみがみ」などの名詞など、語や語の一部を繰り返す表現を用いています。
これらの表現を何と呼ぶのかご存じでしょうか? これは「畳語(じょうご)/reduplicated word」と呼ばれています。
この畳語について、中学入試の国語でこんな問題が出題されたことがあります。ぜひ解いてみてください。
これらの表現を何と呼ぶのかご存じでしょうか? これは「畳語(じょうご)/reduplicated word」と呼ばれています。
この畳語について、中学入試の国語でこんな問題が出題されたことがあります。ぜひ解いてみてください。
問:日本語には「畳語」と呼ばれる同じ音や単語を繰り返して使うことばがある(たとえば、「淡々(たんたん)」「散々(さんざん)」など)。次の各文の空欄に当てはまる畳語を〔 〕内の意味を参考にして答えなさい。ただし、□△○はそれぞれひらがな1文字分を示し、同じ記号には共通したひらがなが入る。なお、濁点がつくる場合にも同じひらがなと考えること。
➀あの先生のアドバイスはとても大事だから□△□△忘れてはいけないよ。〔決して〕
➁転校で友人と別れるのはつらいが、一方で新天地の生活に心躍るので悲喜□△□△だ。〔かわるがわる〕
➂彼は体を鍛えていて、□△○□△○とした筋肉をしている。〔力強い〕
【2019年度・慶應義塾湘南藤沢中等部より】
➀あの先生のアドバイスはとても大事だから□△□△忘れてはいけないよ。〔決して〕
➁転校で友人と別れるのはつらいが、一方で新天地の生活に心躍るので悲喜□△□△だ。〔かわるがわる〕
➂彼は体を鍛えていて、□△○□△○とした筋肉をしている。〔力強い〕
【2019年度・慶應義塾湘南藤沢中等部より】
では、早速、簡単な解説とともに答え合わせをしてみましょう。全問正解できている自信はあるでしょうか(プレッシャーですね)。
まず①。正解は「ゆめゆめ」ですが、これは「夢々」と書くのではなく、「努々」と書きます。禁止を表す言葉を修飾する場合は「決して」「断じて」の意味が、打ち消しのことばを修飾する場合は「少しも」「全く」の意味となります。
次に②の正解は「こもごも」。大人にとってこれはさほど難しくなかったのではないでしょうか? 「こもごも」は「交々」と書きます。「悲喜交々」とは「悲しいこと、嬉しいことを(個人が)かわるがわる味わう」という意味があります。ですから、たとえば「合格発表の掲示版の前では悲喜交々の光景が見られた」などといった「悲しむ人と喜ぶ人が入り乱れる」の意は誤用なのですね。あくまでも個人の心情変化を指しているのです。
最後の③に頭を悩ませた人も多かったのでは? 正解は「りゅうりゅう」です。「隆々」と書き表し、「力強く盛り上げる」「勢いのついた様子」を意味しています。入試問題の例文は前者のタイプ。たとえば、「彼は小説家として隆々たる名声を得ている」という例文の「隆々」であれば後者の意味となりますよ。
営業畑でなぜか多用される「聞き慣れない」畳語
さて、こうした中学入試にも登場するほど日常的に広く使われているこの畳語ですが、「聞きなれない」畳語が営業畑の人たちの中でいくつも誕生しているのをご存じでしょうか。
例えば、わたしが経営する塾にかかってくる「営業電話」で、こんなセリフを実際に聞いたことがあります。
例えば、わたしが経営する塾にかかってくる「営業電話」で、こんなセリフを実際に聞いたことがあります。
「はじめて電話する者です! いまいまお時間はございますか?」(広告代理店の営業)
「ええ、矢野さんにはすぐすぐにご検討をお願いしたいと思いまして連絡をいたしました!」(求人媒体の営業)
「ええ、矢野さんにはすぐすぐにご検討をお願いしたいと思いまして連絡をいたしました!」(求人媒体の営業)
ほかにも、以前ある塾生(小学生)の母親と面談していたところ、その方はこんな言い回しで愚痴っていたことを思い出しました。
「先生、もう私、仕事がふるふるで、子どもの様子をじっくり見ることができないんですよ!」
この時は、私の脳内で「ふるふる」が一瞬「降る降る」や「振る振る」に漢字変換されましたが、何だかピンときません。ああ、なるほど! これは「FULL-FULL」なんだと気づいたのはその直後。この方は営業職に就いていることが、後に判明しました。
なぜ、営業畑では新鮮な響きを持つ畳語が多用されるのでしょうか。ここで畳語の効果について立ち止まって考えてみましょう。
畳語が本来持っているさまざまな効果
畳語には主として以下の働きがあるとされています。
1.名詞の複数形
(例)人々、国々、日々、我々、など
2.動作の継続あるいは反復
(例)たびたび、きらきら、ひらひら、返す返す、転々、など
3.意味の強調
(例)ますます、寒々、いちいち、など
(例)人々、国々、日々、我々、など
2.動作の継続あるいは反復
(例)たびたび、きらきら、ひらひら、返す返す、転々、など
3.意味の強調
(例)ますます、寒々、いちいち、など
それでは、前述の「いまいま」「すぐすぐ」はどれに相当するのでしょうか。
「『いま』という時間軸の中でのこの『瞬間』」、「『すぐ』という時間軸の中でのこの「瞬間」」といった意味で使われていそうですよね。だとすれば、3.の意味を有していそうです。
でも、果たしてそうなのでしょうか。
ちょっと古い話になりますが、著名な予備校講師である林修氏の「いまでしょ!」というCMのセリフが流行語になったことがありますよね。
これを「いまいまでしょ!」に直してみましょう。
……何だかしっくりこないのではありませんか?
「『いま』という時間軸の中でのまさにこの『瞬間』」を表そうとすれば、「いまいま」より「いま」のほうがふさわしいとは思いませんか? こう考えるならば、営業畑で多用される「いまいま」も「すぐすぐ」も意味の強調で片づけてはいけない気がします。
ではいったいどんな意味で使われているのでしょうか?
スタジオキャンパス・博耕房代表 矢野耕平
スタジオキャンパス・博耕房代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。国語専科・博耕房代表取締役、学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)など。