「いまいま」も「すぐすぐ」も実は縮小義を表すのではないか?
もう一度、営業電話の2つの例に目を向けてみましょう。
「はじめて電話する者です! いまいまお時間はございますか?」
「ええ、矢野さんにはすぐすぐにご検討をお願いしたいと思いまして連絡をいたしました!」
「ええ、矢野さんにはすぐすぐにご検討をお願いしたいと思いまして連絡をいたしました!」
この言葉が向けられている対象は顧客(顧客候補)、すなわち自分が下手に出るべき人間です。
そう考えるならば、「いまいま」「すぐすぐ」が強意を示すなら、それは相手を急かしているような響きを持つことになり、相手に対して無礼な言葉になってしまいます。
私はこれらの畳語には「縮小義」に似た働きがあるのではないかと睨んだのです。
畳語は世界中で使われる表現方法ですが、日本語で一般的に定義されているような複数や強調の働きのほか、主にインドネシア語族では「縮小義」としても使われます。
この「縮小義」は、同じ音を反復することで元来そこには含まれていない「時間や事物の量や程度がわずかである」という意味を持たせることとされています。
「いまいま」や「すぐすぐ」も、これと似たようなものと考えればしっくりくるのではないでしょうか。
「はじめて電話する者です! お忙しいとは思うのですが、ほんの少し『いま』というお時間をお借りできませんか」
「ええ、矢野さんにはすぐ動いてもらうのは恐縮ですが、できるだけ早急にご検討お願いしたいと思いまして……」
「ええ、矢野さんにはすぐ動いてもらうのは恐縮ですが、できるだけ早急にご検討お願いしたいと思いまして……」
このように、「いまいま」も「すぐすぐ」も相手(顧客)に対しての配慮を働かせる役割を有しているのだとわたしは考えます。営業畑でこの手の畳語が生まれやすいことにも合点がいきます。
日常生活の中で新鮮な響きを持つ畳語に出会ったら、そこには一体どのような意味が込められているのかをじっくり考えるのも楽しいかもしれませんね。
<参考資料>
斎藤純男・田口善久・西村義樹(編)2015『明解言語学辞典』;三省堂
森山卓郎(編)・渋谷勝己(編)2020『明解日本語学辞典』;三省堂
松本純一(2009)『日本語における畳語複数形の生成可能性について』東洋学園大学紀要 (17), pp.243-249
大里彩乃(2013)『畳語の研究』東京女子大学言語文化研究(22),pp.1-16
禹 旲穎(2015)『畳語の諸機能』学習院大学人文科学論集(24),pp25-57
斎藤純男・田口善久・西村義樹(編)2015『明解言語学辞典』;三省堂
森山卓郎(編)・渋谷勝己(編)2020『明解日本語学辞典』;三省堂
松本純一(2009)『日本語における畳語複数形の生成可能性について』東洋学園大学紀要 (17), pp.243-249
大里彩乃(2013)『畳語の研究』東京女子大学言語文化研究(22),pp.1-16
禹 旲穎(2015)『畳語の諸機能』学習院大学人文科学論集(24),pp25-57
スタジオキャンパス・博耕房代表 矢野耕平
スタジオキャンパス・博耕房代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。国語専科・博耕房代表取締役、学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)など。