インセンティブでも止まらない少子化
勉強漬け、ストレスにさらされてきた青春を送ってきた20代は、「圧力(プレッシャー)が大きい」とよく口にする。社会に出ても昇進のための競争が続き、子育ても課金ゲーム。
結婚して子供を産むことが修行のようになっており、日本のような「産みたくても産めない」を通り越して、「結婚も出産もしたくない」という女性がスタンダードになりつつある。
事実、中国は一人っ子政策を廃止してからも、出生数が減り続けている。
中国政府は2015年に一人っ子政策を廃止し、政策を大転換した。政府は当時「政策見直しによって(2015年に1655万人だった)出生数は2000万人に増える」と試算していたが、2020年の出生数は1200万人に落ち込んだ。
中国政府は5月31日、第3子の容認を発表した。だが、これについても世論の反応は冷ややかで、「教育費の負担を考えると、1人がやっと」との声がほとんどだ。
政府は今回の第3子容認にあたって、産休・育休の延長や児童手当など経済的インセンティブを付与する方針を打ち出した。また、格差縮小を目標にする「共同富裕」や親の経済負担軽減を考慮し、「双減政策」を導入したわけだ。
結婚して子供を産むことが修行のようになっており、日本のような「産みたくても産めない」を通り越して、「結婚も出産もしたくない」という女性がスタンダードになりつつある。
事実、中国は一人っ子政策を廃止してからも、出生数が減り続けている。
中国政府は2015年に一人っ子政策を廃止し、政策を大転換した。政府は当時「政策見直しによって(2015年に1655万人だった)出生数は2000万人に増える」と試算していたが、2020年の出生数は1200万人に落ち込んだ。
中国政府は5月31日、第3子の容認を発表した。だが、これについても世論の反応は冷ややかで、「教育費の負担を考えると、1人がやっと」との声がほとんどだ。
政府は今回の第3子容認にあたって、産休・育休の延長や児童手当など経済的インセンティブを付与する方針を打ち出した。また、格差縮小を目標にする「共同富裕」や親の経済負担軽減を考慮し、「双減政策」を導入したわけだ。
北京の学習塾は年内に非営利化
子どもの教育にかかる負担を減らすことそのものは、中国人のニーズに沿っている。
とは言え、学習塾の非営利化、夏休みと週末の授業禁止など規制の中身は、長い期間をかけてつくられてきた中国教育のエコシステムを根本から破壊する強硬策で、政策の発表後、教育関連企業の株価は大暴落し、「教育界のブラックフライデー」となった。
秋学期(中国は9月に学校の新年度がスタートするので日本の1学期に相当)に入ると、各地方政府は学習塾規制の細かなルールを整備し始めた。
北京の学習塾は年内に全て非営利化が完了する予定で、授業料も当局の基準に沿って設定されることになった。週末に授業を行っていないか、あるいはオンライン授業を実施していないかをパトロールする制度も始まった。
大手学習塾の多くは10~11月にかけて、小学校から高校までの「K12」に学校の主要教科の授業や受験対策をカバーする事業から完全撤退すると発表し、「入試とは関係のない芸術・スポーツ分野」「社会人教育」「留学指導」に注力し始めた。
規制前に学習塾約1100拠点を運営していた大手の「好未来教育集団」は、大学院進学指導、社会人向けの語学教育、子どもの送り迎えや食事の世話などを含む学童保育を始めると発表した。オンラインマンツーマン授業で業績を急拡大し、2019年にニューヨークで上場したエデュテック企業の「高途」は、留学エージェントとヘルスケア、番組制作などを事業内容に追加した。
これらの規制を導入することで、中国の格差は縮小し、少子化に歯止めがかかるのか。
自らも1歳の子がいる中国・河北省の中学校英語教師(28歳)は、「私たちが中学生だったころに比べて、今の中学生が勉強する内容は倍以上に増えている。中国の教育がおかしいと思っても、周りがやるなら自分もやるしかない状況で、強制的にブレーキをかけるのは理解できる」と話す。
一方で、「富裕層はこっそり家庭教師を雇ったり留学させることができるので、格差是正の効果はあまりないと思う。結婚して出産するのが幸せという価値観が薄れているので、私もすぐに2人目を産もうとは思わない」と語った。
学習塾の規制は教育産業を徹底的に破壊する大改革である。壊した結果、政府の狙い通りに格差が縮小し少子化問題が解決に向かうのか、あるいは後に「天下の悪政」と評価されるのか、規制発表から4カ月余りが経過したが、当事者の反応も賛否割れている。
後編では、中国のゲーム規制についてご紹介したい。
とは言え、学習塾の非営利化、夏休みと週末の授業禁止など規制の中身は、長い期間をかけてつくられてきた中国教育のエコシステムを根本から破壊する強硬策で、政策の発表後、教育関連企業の株価は大暴落し、「教育界のブラックフライデー」となった。
秋学期(中国は9月に学校の新年度がスタートするので日本の1学期に相当)に入ると、各地方政府は学習塾規制の細かなルールを整備し始めた。
北京の学習塾は年内に全て非営利化が完了する予定で、授業料も当局の基準に沿って設定されることになった。週末に授業を行っていないか、あるいはオンライン授業を実施していないかをパトロールする制度も始まった。
大手学習塾の多くは10~11月にかけて、小学校から高校までの「K12」に学校の主要教科の授業や受験対策をカバーする事業から完全撤退すると発表し、「入試とは関係のない芸術・スポーツ分野」「社会人教育」「留学指導」に注力し始めた。
規制前に学習塾約1100拠点を運営していた大手の「好未来教育集団」は、大学院進学指導、社会人向けの語学教育、子どもの送り迎えや食事の世話などを含む学童保育を始めると発表した。オンラインマンツーマン授業で業績を急拡大し、2019年にニューヨークで上場したエデュテック企業の「高途」は、留学エージェントとヘルスケア、番組制作などを事業内容に追加した。
これらの規制を導入することで、中国の格差は縮小し、少子化に歯止めがかかるのか。
自らも1歳の子がいる中国・河北省の中学校英語教師(28歳)は、「私たちが中学生だったころに比べて、今の中学生が勉強する内容は倍以上に増えている。中国の教育がおかしいと思っても、周りがやるなら自分もやるしかない状況で、強制的にブレーキをかけるのは理解できる」と話す。
一方で、「富裕層はこっそり家庭教師を雇ったり留学させることができるので、格差是正の効果はあまりないと思う。結婚して出産するのが幸せという価値観が薄れているので、私もすぐに2人目を産もうとは思わない」と語った。
学習塾の規制は教育産業を徹底的に破壊する大改革である。壊した結果、政府の狙い通りに格差が縮小し少子化問題が解決に向かうのか、あるいは後に「天下の悪政」と評価されるのか、規制発表から4カ月余りが経過したが、当事者の反応も賛否割れている。
後編では、中国のゲーム規制についてご紹介したい。
浦上 早苗