「テックファースト」「組込型金融」──GMOあおぞらネット銀が目指すバンキングの未来とは

ムコハタワカコ

DXインタビューテクノロジー金融・銀行・暗号資産

銀行の“ホワイトラベル”、インフラとしての銀行を目指して

2018年7月の事業開始以来、GMOあおぞらネット銀行は「裏方」に徹してきたと金子氏はいう。

「各社に使ってもらえるインフラとして、“ホワイトラベル”を提供するような銀行、黒子の銀行を基本的には目指してきました。2019年には銀行APIを提供開始して、オープンバンキングの世界でのナンバーワンを目指しています。スクレイピングのような手法ではない、本格的なAPIの提供により、お客さま企業のDX推進を支援し、デジタル社会におけるより良い生活の実現に貢献したいと考えています」(金子氏)

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銀行API公開から1年半が過ぎ、 2021年9月末には、API接続契約数が167社。およそ1週間に1~2社のペースで現在も増加し続けているそうだ。そのうち8割以上、9割近くが「プライベートアクセス」による接続だという。

銀行API等を通じてユーザーに代わって銀行口座情報にアクセスし、ユーザーに金融サービスを提供する業者を「電子決済等代行業者」(電代業者)という。国内の多くの銀行APIは、家計簿サービスや会計クラウドサービスなどを提供する電代業者が、預金者に代わって銀行口座にアクセスする接続をメインとしている。GMOあおぞらネット銀行では、この接続方法を「パブリックアクセス」と呼ぶ。

GMOあおぞらネット銀行は、このほかにも、企業が自社の法人口座に対してAPIでアクセスする方法を用意している。これを「プライベートアクセス」という。企業が自社の経理システムと連動させ、請求から入金消込までを自動化したり、新しいサービスの決済部分に組み込んで効率化したりと、自社のシステムとAPIを経由して連携させ活用する、プライベートアクセスの利用企業が非常に多い。そこが他行との大きな違いだという。
GMOあおぞらネット銀行へは、エンジニアによる利用や直接の問い合わせも多いという。これは、API開発者ポータルでAPI仕様を公開していたり、API国内銀行では初となる常時開放型で無償のAPIテスト環境「sunabar(スナバー)-GMOあおぞらネット銀行API実験場-」(sunabar)の存在など、APIの導入障壁を下げる取り組みが大きく影響している。

「我々の銀行APIは、実際に開発されるエンジニアの方にも使いやすいと評価いただいています」(金子氏)

また、銀行APIは、銀行業界内でのみ評価されることが多い。しかしGMOあおぞらネット銀行のAPIは「どちらかというと企業のDXパートナーやDXサービス提供者など、銀行以外の方からの評判が非常に高い」(金子氏)という。フィンテック企業や、APIを使ってビジネスを行いたい事業者が使いやすいAPI。それが同社のコンセプトだと金子氏は言う。

こうしたコンセプトや仕組みを支えるため、「銀行APIの“製造工場”(=銀行APIラインアップ圧倒的No.1プロジェクト)を設立する」といった考え方、あるいは「銀行エンジニア(GMOあおぞらネット銀行では、社員のエンジニア比率が40%超を占める)による直接サポート」などの取り組み姿勢も、ほかの銀行とは異なるのではないかという金子氏。「銀行のための銀行APIではなく、幅広い業種・業態の企業のDXや事業成長に貢献するAPIだ」と述べている。

組込型金融サービスの本格展開はコロナ禍がきっかけ

今年7月、中長期事業戦略で組込型金融サービスへの取り組みを本格化すると発表した、GMOあおぞらネット銀行。銀行APIはもちろん、その一部だが、より利用企業のサービスに付加価値を与えるサービスの展開を表明している。

そのきっかけとなったのは、やはり、コロナ禍だという。

「デジタル化社会への変貌は不可避。すべての企業がDXに真剣に取り組んで、本格的にデジタライゼーションを加速したいと思うようになったトリガーは、やはりコロナ禍です。銀行APIというのは、『我々の機能のインターフェースを公開するので使ってください』というものですが、新型コロナウイルスにより変化した世界では、それだけでは恐らく満足を得られない。

進化する企業のデジタルサービスの中に、我々ももっと入り込むべきではないか。もしくは(リモートワークなどで)恒常化したデジタル技術のユーザーに、新体験を提供できるような仕組みが可能なのではないか。現状でも銀行APIの国内トップランナーであることは確かですが、それに甘んじることなく、我々自身も変化し、サービスを拡大していこうと考えました」(金子氏)

組込型金融サービスは、オープンバンキング実現には欠かせない動きのひとつだ。組込型金融は、「プラグイン金融」「埋込型金融」「エンベッデッド・ファイナンス」などと呼ばれることもある。銀行などの金融機関が一式として提供してきた金融サービスの各機能を分解して、一般の事業者がパーツごとに自社のシステムやサービスに組み込み、自社サービスの付加価値を高めるようなかたちで提供することを指す。

組込型金融を構成する役割は大きく3つに分けられる。
1. 顧客接点を持っていて、独自のサービスを提供する「ブランド(Brand)」
2. 顧客接点を持つプレーヤー(ブランド)と、金融ライセンスを持つプレーヤー(ライセンスホルダー)をつなぐ「イネーブラー(Enabler)」
3. 銀行など許認可を受けて金融サービスを提供する「ライセンスホルダー(Licence Holder)」
先に挙げたネオバンクはブランドとイネーブラーの機能を持つ。またチャレンジャーバンクはイネーブラーに加えて、銀行免許を取得するので、ライセンスホルダーの立場でもある。金子氏は「まだまだイネーブラーが少ない」と話す。

「日本でもフィンテック企業として、ブランドは立ち上がってきています。しかし銀行ライセンスのホルダーによる銀行APIの提供が遅れているので、サービスをつなげられないでいる。まずは銀行が海外のようにAPI公開を進めることが重要。その上で、これを組み込めるようにイネーブラーが発展していくことが重要なんです」(金子氏)

金子氏は「GMOあおぞらネット銀行は、許認可を持つ銀行(ライセンス)でありながら、イネーブラーにもなろうとしています」と語る。

GMOあおぞらネット銀行では、これまでも「API連携サービス」「プラットフォーム銀行サービス」という名称でBaaS(Banking as a Service)を提供してきたが、これらも包含して「かんたん組込型金融サービス」とした。さらに提案を強化しているのが、APIのみならず、専用カード、専用支店のほか、銀行機能を細分化しパーツとして、各事業者(ブランド)のサービスに組み込めるよう進化したサービスだ。

金子氏は「銀行パーツで企業のサービスに付加価値をもたらし、その先にいるエンドユーザーの利便性向上に貢献していきたい。結果として、銀行のホワイトラベルを目指した究極のかたちになっていくのではないかと思う」と述べている。

7月に組込型金融サービスと同時に発表された「ichibar(イチバー)-組込型金融マーケットプレイス-」は、銀行機能をパーツとして組み込み、sunabarなども活用し開発されたプロダクトやビジネスアイデアを流通させるエコシステムとして機能する。
ichibarは、組込型金融関連サービスの企画・開発促進を目的とした、「コミュニティ機能」、「マーケットプレイス機能」、「ビジネスアイデア検証環境」の3つの機能を有する。8月30日にまずは、コミュニティ機能のサービスがスタートした。

金子氏は「ichibarの主役は事業者(ブランド)であり、さらに言えばブランドのサービスのユーザー(エンドユーザー)だ」という。

「我々はプロバイダーとしての役割を担い、銀行機能をパーツとしてご利用いただけるよう提案を強化しています。今までの銀行は、プロダクトを出して終わりでした。しかし、事業者やユーザーが社会で必要なものは何か、どういうものをつくったらいいかを一緒に考えるためには対話・コミュニティが必要です。銀行だけで考えていては、これまでと変わらず銀行からの一方的なサービスの押し付けになってしまいます」(金子氏)

金子氏はichibarを、日本の組込型金融のエコシステムと位置付けており、「ここでマネタイズしようとは思っていない」という。

「場所(エコシステム)を提供して、マーケティングツールとして使うもよし、あるいはコミュニティが広がるもよしとして、組込型金融の市場がなめらかに広がっていくことを期待しています。そのため、ichibarは、コンペティターも含めて誰でも自由に、オープンに利用が可能です。ichibarの趣旨に賛同いただける協賛パートナーとともに、ビジネスの検証やビジネスの種を育てていくような取り組み、ビジネスマッチングも可能なエコシステムをつくっていきたい。銀行機能だけでなく、サービスの埋め込みに必要な各種機能を開発・提供し続けていきたいと考えています」(金子氏)
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ムコハタワカコ

編集・ライター
書店員からIT系出版社、ウェブ制作会社取締役、米系インターネットメディアを経て独立。現在は編集・執筆業。IT関連のプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)、組織づくりや採用活動などにも注目している。

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