鉄道でのVISAタッチ決済導入で見えた、非接触型決済の新しい未来

池 紀彦

DXIoT・モビリティテクノロジー業務効率化金融・銀行・暗号資産
GMOペイメントゲートウェイと三井住友カード、VISAは、3社共同で構築した事業者向け次世代決済プラットフォーム「stera(ステラ)」において、距離に基づき変動する距離制運賃に対応した決済ソリューションの提供を2020年11月25日から開始した。第1弾として、高速バスのWILLERと京都丹後鉄道に導入されるという。
 
VISAのタッチ決済導入は、鉄道においては日本初となる。今やローカル線や高速バスなどにまで拡大した「stera」は、今後、どこまで普及を広げていくのだろうか? 「stera」の仕組みを解説しながら、決済の今後の姿を考えていきたい。

次世代の名を冠する「stera」の実力は?

「stera」は、三井住友カードとVISA、そしてGMOペイメントゲートウェイが3社共同で開発した次世代決済プラットフォームだ。1台で全ての決済手段に対応する事業者向け端末「stera terminal」は、三井住友カードが提供する。
 
「stera terminal」は、事業者側と顧客側の双方で情報を確認できるデュアルスクリーンを搭載。顧客側には4インチタッチスクリーンを搭載することで、電子マネー・QRコード・バーコードの読み取り、電子サイン、PIN入力など、幅広い決済手段を実現する。店舗側には7インチタッチスクリーンのほか、オートカッター付きのプリンタを標準で装備することで、レシートなどの出力にも対応。日本の商慣習に即した装備は、国内事業者からの評価も高く、普及の促進にも繋がっているようだ。

またOSには、汎用性の高いAndroidを採用しており、機能追加なども、オンライン上の操作だけで完結できる利便性を備える。
 
steraが次世代決済プラットフォームと呼ばれる理由は、リアル店舗とネット店舗の決済データを統合したオムニチャネル化によるところが大きい。オムニチャネルとは、リアル決済とネット決済が別々の運営事業者により行われていた従来のセンター機能を一元化し、一体運営できる仕組みの構築により実現したという。
 
センター機能の構築は、三井住友カードとGMOペイメントゲートウェイ連結企業集団との共同開発で実現。これまでリアルやネットなど、あらゆる決済手段を提供してきたGMOペイメントゲートウェイのノウハウが活かされているだろう。
 
こうして開始されたsteraだが、今やVISAのタッチ決済は、国内ではコンビニ、スーパー、飲食店など、さまざまな商用施設で利用可能になっている。さらに国内にとどまらず、世界レベルでの普及が加速中だ。それを裏付けるのが、現段階でのタッチ決済比率で、全世界のVISAの対面取引のうち既に43%にもなるという。世界中で手軽にタッチ決済できる便利な未来は、すでにそこにあるというわけだ。

決め手はQUADRACの公共交通機関向けシステム

実は高速バスでは、2020年7月にsteraを導入済みだったが、この時点では均一運賃の決済にのみ対応していたという。その理由は、高速バスの多くは、あらかじめ距離や料金が決まっていたためだ。しかし鉄道となると、話は変わってくる。乗客ごとに乗った場所から降りた場所までの距離が異なるため、料金もバラバラになるからだ。

距離による料金判定のために行われたのが、QUADRACの公共交通機関向けシステムとの連携だ。プレスリリースによれば、連携により運賃計算のほか、リスク管理や企画券などのサービス実施までもが、クラウド経由で提供可能になったという。クラウド経由でのシステム連携といった柔軟な対応が可能な点もsteraの強さと言えるだろう。

これがまさに「次世代決済プラットフォーム」と呼ばれる理由だ。
また利用時は、VISAのタッチ決済に対応したカード(クレジット、デビット、プリペイド)やスマートフォンなどを、車内・駅構内に設置された決済端末にかざすだけで乗降が可能となるのことで、乗客の利便性が高いのも魅力的だ。

決済手段をユーザーが選択できる「自由な未来」

steraの普及において今後期待したいのは、鉄道やバスなど、より広範な交通事業との連携だ。今回行われた鉄道へのタッチ決済導入の発表で、“第一弾”と表現されていることから、今後もローカル線を中心にさまざまな交通手段への導入が検討されていると予想される。

一般的に鉄道やバスでのタッチ決済は、現状、JR各社主導の「Suica」と「PASMO」の2種類(もしくはそれらの互換ICカード)しか利用できない。これら全てが入れ替わることはないだろうが、今後もし、JRや私鉄、市内バスなどでもsteraによる決済が使えるようになれば、交通系ICカードがなくとも、手軽にタッチ決済の恩恵にあずかれるようになる。

利用距離に応じた料金算定のできなかった従来の非接触型決済では導入が難しかった交通事業でも、steraであれば、採用される可能性は高いと思われる。今後、交通事業での利用が広まり、認知度が高まっていけば、続いてリアルやネットを問わず多くの店舗や事業者が採用するという、ポジティブスパイラルが生まれていくだろう。

昨今は非接触型決済も、複数の決済手段からユーザーが自由に選べるようになっている。柔軟性の高いシステムを持つsteraの普及が進めば、より多くのユーザーが場面に応じた決済を自由選択できるできるようになる。そんな便利で、自由な未来も、すぐそこまで来ているのかもしれない。

池 紀彦

ゲーム&ガジェットライター
自ら触れて得た体感を形にする兼業ライター。ソフトウェア事業のディレクションと検証を行なう傍ら、パソコン雑誌編集部やAV機器メディア編集部を経て得た経験を活かし、パソコン、ガジェット、ゲーム、おもちゃなどのレビューを日夜各所で執筆。ThinkPadと程よい懐古物を好み、懐かしのゲームやパソコン、アニメ、漫画などをこよなく愛します。「やってみた」には定評あり。

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