ふるさと納税がさらに充実するきっかけに! 返礼品事業者の資金繰りを助ける「ARLY」とは

安蔵 靖志

DXGMOインターネットグループインタビュー金融・銀行・暗号資産
地方自治体に寄付を行うことで返礼品をもらえる「個人版ふるさと納税」は、納税者にとっても地方自治体にとってもメリットが大きく、年々周知が進んで寄付の実績額や人数が増加しており、注目度が高まっています。しかし納税者側は、その年の収入等が確定するまで納税しにくいことから、年末に寄付が集中しがちです。そのため返礼品事業者は、大量の受注と自治体からの支払いサイクルによって資金繰りが悪化して倒産してしまう企業が出たケースがあるなど、問題になっていました。

こうした課題を解決するため、サイバーレコード、シフトセブンコンサルティング、GMOあおぞらネット銀行、カルティブの4社が協働で2022年10月6日、自治体およびふるさと納税返礼品事業者向けに「自動スグ払いサービス『ARLY(アーリー)』」の提供を開始しました。

このサービスは、ふるさと納税の返礼品が寄付者に到着すると、自動で返礼品代金が返礼品事業者に支払われるというもの。サービス利用料は導入した自治体が支払うため、返礼品事業者は基本無料で利用でき、返礼品事業者が返礼品代金の受取口座をGMOあおぞらネット銀行に設定した場合、振込事務手数料も無料となります。

では、どのような経緯でARLYをスタートしたのか。ARLYを導入することによって自治体や返礼品事業者にとってどのようなメリットが得られるのかなどについて、カルティブの池田清氏、サイバーレコードの合志祐哉氏、シフトセブンコンサルティングの小田原貴樹氏、GMOあおぞらネット銀行の細田暁貴氏の4人にうかがいました。

「自動で」「すぐに」ふるさと納税の返礼品代金を支払う「ARLY」

ARLYは寄付者のもとに返礼品が到着したタイミングで、「自動で」「すぐに」ふるさと納税の返礼品代金を返礼品事業者に支払うサービスです。

従来のふるさと納税の決済における問題点について、サイバーレコードの合志氏は次のように語ります。

「これまでのふるさと納税の返礼品代金のお支払いは、月末締めから2~3カ月かかることが多くありました。これは一般的な商慣習からすると遅いものです。そのため、ふるさと納税の業務を自治体から請け負っている我々中間委託業者は、返礼品事業者の方々が資金繰りに苦慮しているという話をよく聞いていました。返礼品代金の支払いを早くすることで、黒字倒産リスクを軽減したり、より一層ふるさと納税に注力できる環境を作りたいということで、今回の取り組みが始まりました」(合志氏)

サイバーレコード アカウントマネジメント局ゼネラルマネージャー 合志祐哉氏

返礼品事業者の負担が大きくなる理由は、ふるさと納税に時期的な理由があります。カルティブの池田氏は次のように語ります。

「ふるさと納税額は、所得によって2000円の負担で寄付の可能性が決まるため、所得が確定する12月に寄付が集中してしまい、その時期の負担が返礼品事業者にとって非常に大きいという問題がありました。作業も年末に集中するため、地域に貢献したくても人手が足りないといった理由で、返礼品を提供できない事業者もあります」(池田氏)

ARLYはカルティブの池田氏が発起人となり、支払いの立て替えや銀行APIの提供を行うGMOあおぞらネット銀行、ふるさと納税運営代行事業を展開しているサイバーレコード、自治体向けにふるさと納税関連システムを提供しているシフトセブンコンサルティングに声をかけて実現したとのことです。

カルティブ 代表取締役CEO 池田清氏

シフトセブンコンサルティングについて池田氏は、「給与所得者の『ワンストップ特例受付納税』をオンライン化するなどの先進的な取り組みを進めており、今回のステークホルダーである自治体や返礼品事業者の業務や作業の負担軽減をシステム化により取り組んでいるため、その知見を活かしていただきました」と語ります。

サイバーレコードは「多くの自治体のふるさと納税運営代行事業を行っており、運用スキームを組み立てていくうえでその対応力やノウハウを活かしていただきました」(池田氏)

GMOあおぞらネット銀行に声をかけた理由について池田氏は「規則等が厳しい銀行業界において、我々のニーズを汲み取って、非常に柔軟に対応していただけたからです」と語ります。

「今回の取り組みにあたっては、特に『銀行API』と『立替払いサービス』をARLYにどのように組み込むことが最適なのかといったサービス設計から一緒に試行錯誤をしていただきました。この機能がないから作ってほしいなど、お互い言い合える関係だったことも大きいです。みなさん柔軟性があり、業界を変えようとしていることも含めて一緒に新しいことができるのではないかと感じました」(池田氏)

現在はサイバーレコードがARLYの提供主体になっており、自治体への導入提案や返礼品事業者への導入サポートを行っています。

「我々は元々ECサイトの運営代行を行っており、そのノウハウを生かしてふるさと納税の業界に参入しました。返礼品の写真撮影やデザインの作成、商品開発、データ分析、請求など、多岐にわたる業務を代行しています。ふるさと納税では九州最大の事業者として自治体の業務委託を受けており、ARLYでは最も現場に近い立ち位置として現場の意見を多く出させていただきました。ふるさと納税は自治体、返礼品事業者、システム事業者、運営代行事業者などステークホルダーが多く、なかには全くパソコンを使えない方などもいます。そのなかでお金の流れも、請求や支払い、相殺など数十のパターンがありますので、そういったところを言語化してシステムに反映していただきました」(合志氏)

システムを担当するシフトセブンコンサルティングの小田原氏は、銀行DXを推進するGMOあおぞらネット銀行の「銀行API」の仕組みがARLYを実現する上で重要な鍵を握っていると語ります。

「請求や払い込みなどの業務のDXがうまく進まない理由の1つに、業務管理システムとインターネットバンキングやファームバンキングとの分断があります。多くの場合、業務管理システムから出力した一覧表を見ながら支払う相手や金額を手で入力したり、CSV形式のデータをアップロードして振り込むといった処理を行っています。今回はGMOあおぞらネット銀行の『銀行API』を使うことで業務管理システムと銀行のシステムを完全に連携させることができました。業務が分断されずにDXされれば元々の課題である入金サイクルの高速化ができますし、振込手数料が無料なので1回1回個別の支払いも行えます。このようにビジネスのスキームそのものを変えられるというのがARLYの重要なポイントだと思います」(小田原氏)

シフトセブンコンサルティング 経営戦略担当・リーダー 小田原貴樹氏

GMOあおぞらネット銀行の細田氏は、ふるさと納税の課題を解決するためにどのような支払いフローにすればいいのかを綿密に検討したと語ります。

「当社には既に『銀行API』がありましたが、ARLYでは当社にはないサービスを新たに作らなければなりません。そのためどのようなスキームで自治体からお金を支払っていただき、それをどう返礼品事業者に支払うのか。何をきっかけに支払いを行うのかなど、ARLYのサービス像や支払いフロー作り、与信をどのように行うかなどに時間をかけました」(細田氏)

それぞれの役割について細田氏は次のように語ります。

「カルティブは全体の企画に加えて、運営に関して助言をいただいています。ARLYは実際に自治体に導入していただいて初めて使えるものですので、自治体への営業に加えて、自治体や返礼品事業者のニーズをサイバーレコードが中心となって取りまとめていただき、シフトセブンコンサルティングにはそれを受けて開発していただいた形です。特に銀行APIとの接続や顧客管理画面などはサイバーレコードからのニーズを受けてシフトセブンコンサルティングが開発されました」(細田氏)

自治体・返礼品事業者のメリットは?

ARLYは自治体が導入することで、その自治体でふるさと納税の返礼品を提供する返礼品事業者が利用できるようになります。返礼品事業者にとってのメリットは先ほど紹介したように、返礼品が寄付者に届いた時点で支払いが行われることと、基本的に無料で利用できることにあります。

自治体のメリットについて池田氏は次のように語ります。

「地域内に100の事業者があれば、1カ月に最低でも100回以上は振り込みをしなくてはならなくなり、これを手で入力し、さらには確認も含めると大変な作業量になってしまいます。お金にかかわることであるため、ミスも許されないという心理的なプレッシャーもあります。ARLYを利用すると返礼品が届いたこともデジタル上で分かりますし、支払いも自動的に行われます。今まで人が行っていた業務がデジタルで自動的に行われるのが大きなメリットです」(池田氏)

合志氏も続けます。

「ふるさと納税の規模は年々右肩上がりになっており、2021年度に8000億円を超える規模になりました。自治体は地域の返礼品事業者に向けて積極的に提案している状況で、ほかの自治体に負けないように競争が激化しているところです。しかし事業者にとっては一般的な商慣習よりも支払いが遅いため、意外と参入障壁が高いのが現状です。ARLYがそれを緩和して素早く支払うことによって、結果として事業者が増えて返礼品も増え、寄付の増加につながるというのが自治体にとっては大きなメリットになると考えています」(合志氏)

ARLYは、2022年10月に熊本県高森町への導入が決定しており、「そのほかの自治体も非常に温度感が高く、サービスに対してのメリットを強く感じていただいています」と合志氏は語ります。

ARLYの利用料金は、導入した自治体が支払う形になります。

「導入にあたってクリアしなければならない課題としては、自治体の意思決定には議会の承認が必要だという点です。そのサポートも当社行っており、ここまでの導入提案でも悪い反応はありません。これまでの課題が解決するのであれば参入したいという事業者もいるため、寄付金額がアップするという期待も寄せられているようです」(合志氏)

GMOあおぞらネット銀行 執行役員 細田暁貴氏

「事業者への説明をしっかり行った上で、理解を得てARLYの導入を検討したいという声を多数いただいています」と合志氏は語ります。

「なぜ事業者の理解を得なければならないのかというと、支払いスパンが変わるだけではないからです。これまでは『出荷』をベースに請求書を上げてもらい、支払いを行うという流れだったのですが、今回から『着荷』がベースになります。品物が寄付者に届いたことを確認できたときに支払うため、事業者の経理の内容が変わってくるのです」(合志氏)

出荷ベースから着荷ベースに変更された理由について細田氏は次のように語ります。

「出荷ベースの場合、商品が到着していない場合でも支払いが発生してしまうため、今回の取り組みでは、よりリアルな支払いができるように着荷をフックにして銀行APIで自動で支払う仕組みにしました」(細田氏)

今後は全国1788自治体に広げていきたい

今回スタートしたARLYについて、4人は次のように語りました。

「返礼品事業者の資金繰りは、全国の自治体共通の課題だと思います。事業者にとって本当に苦慮している部分の解決になりますので、今後すべての自治体に導入してもらえると嬉しいですね。そのためなら北海道から沖縄までどこへでも飛んでいきたいと思います」(合志氏)

「大手企業や一部の業種・業務では、自動的な支払いや振り込み確認といった金融DXの取り組みが部分的に進んでいます。しかし地方の小さな事業者がそのテクノロジーを使えるところに至るまでには大きな壁がありました。今回の取り組みによって、大手だけでなく中小の法人が恩恵を得られるシステムができたのは、非常に大きなチャンスになると思います。ARLYを広げていくことはもちろんですが、こういった金融DXの取り組みも我々は積極的に進めていきたいと考えています」(小田原氏)

「全国には1788の自治体があり、すべての自治体への営業やサービス提供をサイバーレコードが行うのは実際のところ不可能です。しかし今のふるさと納税の業界においてほぼすべての事業者が11月、12月のキャッシュフローに課題を抱えています。九州を中心とした地域でサービスを開始しましたが、ほかの地域でも取り組んでくれる連携を増やしていき、地域の課題解決を進めていきたいと思っています」(池田氏)

「先ほど小田原さんが話されたように、金融とそれ以外のサービスはどうしても隔たりがありました。それを銀行APIを活用してエンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融)を実現したことで、シームレスにすべてがつながったのです。振込伝票の作成や振込先の入力などに人手がかかっていたことをシステムで自動化することによって、人的リソースを本業やほかの生産性の高いことに使うことができるようになります。さらにお客様、今回では自治体の負担低減にもつながっていくと思います。システム側の自動化による効果は大変すごく高いと思っており、我々銀行としてもいろいろな事業者に対して推奨しております。今回のARLYの取り組みはとても分かりやすい事例になるだけでなく、結果として地方創生の役に立てる、誰にとっても良いことしかないサービスだと本当に自信を持っています」(細田氏)


返礼品が寄付者に届いた時点で支払いが行われるARLYは、年末に注文が集中しがちな返礼品事業者にとって大きな魅力になりそうです。返礼品事業者がARLYを利用するためには、自治体の導入が必要です。

ARLYは返礼品事業者向けの申し込みページと、自治体向けの申し込みページを用意しています。ARLYを利用したい自治体の担当者はもちろんのこと、自治体に導入を検討してもらいたい返礼品事業者の担当者の方も、一度ARLYのWebサイトを訪問してみてはいかがでしょうか。

◆ふるさと納税返礼品事業者向け自動スグ払いサービス『ARLY(アーリー)』
https://cultive.co.jp/arly

安蔵 靖志

Techジャーナリスト/家電エバンジェリスト
家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ~ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演するほか、ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。

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