「×最期(後編)」カワイイ棺桶に「入棺体験」タマキの人生観は変わっちゃうのか?:河崎環のタマキ✕(カケル)

河崎 環

Specialカルチャークリエイターライフスタイル

一種の仮死体験をすることで、視線を逸らさずに自分の死を考える

GRAVE TOKYO主宰の棺作家・布施美佳子さんがYOMI International代表の村田ますみさんと共同で開催する「アトリエみけら 入棺体験ワークショップ」(江東区北砂)。それは、同世代の葬儀にいくつも出席するという多感な時期を過ごし、死を身近に感じてきた布施さんが「棺桶こそ、その人の最後の自己表現の場、終の棲家(すみか)」との強い思いから、「自分の死から視線を逸らさずに考えてほしい」「あらかじめ自分の死を想定し、心の準備をしてみてほしい」といざなう、一種の仮死体験でもある。

もちろん、本当に仮死状態になってしまうわけではない。だが、人間にとって最後の居場所となる小さな棺桶に入り、蓋を閉め、目を閉じる、そういう「仮の死」。棺の外で「自分が書いた弔辞」が読み上げられ、そこからさらに3分間、参加者たちが「故人(自分)」についてめいめいに思い出を語り、ついに棺の蓋が開けられて「お帰りなさい」と迎えられる。模擬葬儀という形で「仮の死」を体験したあなたは、私は、何をどう感じるだろう?

それは恐怖だろうか、それとも泣き出したくなるほどの孤独だろうか。もしかして安らぎや、不思議な浮遊感や、ひょっとして恍惚感だろうか。死生観がそこで少し変わってしまったりするのだろうか。

布施さんはさまざまな人の入棺体験を見てきた立場から、こう説明する。

「入棺の経験は100人いれば100通りの感情が生まれます。ワークショップは参加者のケミストリーのようなものもあって毎回カラーが違い、全員ものすごくポジティブな回もあれば、全員が泣く回もありました。共通するのは、恐怖ではなく瞑想感や没入感。母親の胎内にいるようだ、と不眠症の方が爆睡してしまうなんてこともありました。仮の死を体験することで、死を強く意識し、翻って、生きることの喜びが生まれる方も多いです。長年ヨガをやっている方は、これ自体がヨガですねと言ってくださいました」

ヨガと同じ、精神と肉体の同期を体験して整う、ということか。布施さん自身は「私の場合は、入棺すると普段より重力を感じるんです」と語る。「私自身も初めて入棺を体験したとき、まるで生まれ変わるような意識の変化を感じました。単なる木の箱なのに、入っただけで周囲と隔絶されるような、別世界に入ってしまったような気持ち。そしてふたを開けられた時には生き返ってきたような気持ち。それまでは死への恐怖が強かったけれど、恐怖が軽減されました」。

生まれ変わるような意識の変化すら起こりうる入棺体験ワークショップに、友人と共に参加してみた私。果たして、タマキの人生観は変わっちゃうのだろうか?

位牌だってデザインされている

ワークショップは、まず自分を語ることから始める

その日の体験者は、私を含めて3人。40〜50代の、それぞれに専門性の高い仕事を持つ女たちだ。目の前に置かれた紙には、表に「Work 1. Who are you? あなたは誰ですか?」、裏には「Work 2. 弔辞のワーク あなたのお葬式に参列した人からの弔辞を書きましょう」とある。

入棺体験ワークショップで自分を言語化していく

ワークショップを始めるにあたり、まずはそれぞれ軽く自己紹介。そして2人1組に分かれ、「Work 1. あなたは誰ですか?」に取り掛かった。2人組の一方が、ただひたすら「あなたは誰ですか?」と問い続け、他方は聞かれるたびに「私は女です」「私はスポーツが好きです」など、短い文章で自分を言語化していく作業だ。
 
ところが、これがなかなか難しい上に、何を語るかの個人差が驚くほど大きい。まさにその人本人がありのまま顕在化し、AR(拡張現実)とかアクリルスタンド的に“立ち上がる”と言っていいほどの結果になるのだ。自分を「サラリーマンです」「身長が○センチです」と、表層的な条件を並べていく人もいれば、「こういう性格です」と自分の内面をひたすら掘っていく人もいる。そんな回答が20や30並ぶと、自分が自分という人間の人生をどう見て、何を評価し何を後悔しているのかが一目瞭然となってしまうから、このワークが与える気づきったら相当である。

私の場合はどうしたことか、いきなり自分の半生を母親が産んでくれたところに遡って語り始め、若き日のめちゃくちゃダークな苦悩まで告白し、挙げ句に祖父の代にさかのぼってDNAの話までしようかというところで時間切れになった。聞き手となってくれた布施さんが「こんなにはじめから突っ込んだ話をしてくれる人はなかなかいないです」と苦笑したほどである。なんかたぶん、私は私という人間を家族や遺伝子の系譜で見ているのだと気づき、あらためて「面倒くさいやつだな、私」と苦笑したが、なぜだろう、不思議とすがすがしかったのだ。

誰かに読んでもらう弔辞を自分で書く

次は「Work 2」である。家族でも伴侶でも恋人でも友人でも、なんなら赤の他人でもいい。まず自分のために弔辞を読んでくれる人を決めて、その弔辞を想像して書くのだ。

これまた極めて非日常の脳の使い方で、普段使わない脳の部分が初めての角度から刺激される感覚がある。想定する他者から見た自分を、自分で描く。誰を選ぶかにも自分自身が繋いできた人間関係が出るし、どう語らせるかにはもはや「この人にこう言ってもらえたらアタシ成仏できる」みたいな、願いを通り越して極私的欲望が滲むどころか溢れるといっていい。

自分の母親を想定する人、弟を想定する人もいた。私が選んだのは息子だった。いちおう物書きなんで、スイッチオンしたらものも言わず、一気呵成(かせい)に書き進める。「河崎さん、書けましたか」と布施さんに声をかけられてハッと気づいたら、私がいちばん最後に書き上げるのをみんなが待ってくれていた。

息子による弔辞は、「母はお酒が好きでした。でも酒で命を落としたならきっと本人は後悔がないのでしょう」「母は周囲に笑われるくらい僕を溺愛しました」「私が会いたくてこの世に産み出した男だから、と」「自分自身を好きでいろ、カッコいい男になれとずっと教えられた」「でもそう言い続けていた母が一番カッコよかった」と絶賛させるものになっていた。どんなマザコンだよ、何書いてんだ、母。恥ずっ。内面ダダ漏れである。だがここでもまた、なぜか不思議と「書いたった」とのすがすがしさだけがあったのだった。

自分で書いた弔辞を棺の中で読んでもらう

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河崎 環

コラムニスト・立教大学社会学部兼任講師
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌などに多数寄稿。ワイドショーなどのコメンテーターも務める。2022年よりTOKYO MX番組審議会委員。社会人女子と高校生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)など。

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