「×最期(前編)」デザイン骨壷・棺桶に話題沸騰「死んだらこれに入りたい!」:河崎環のタマキ✕(カケル)

河崎 環

Specialカルチャークリエイターライフスタイル

「棺桶って、自分らしさを最後に表現する場なんです」

「人生の最後って、自分のゴールじゃないですか。私たちはゴールに向かって走っている。死はゴールなんだと考えると、それは忌み嫌われて寂しいものではなくて、楽しいものであってほしい。棺桶って、自分らしさを最後に表現する場なんです。死んだらこれに入れるんだと思うと、ちょっとした楽しみだったりもする。もちろん、『何もしない』自分らしさもあります。その対極で、ファッションやデザインにこだわりがあって、すごいドレスアップして生きてきた人が自分の最後の瞬間を彩るものとして購入できるような、そんな棺桶を作ろうって思ったんですよね」

GRAVE TOKYO主宰のデザイナー、布施美佳子さんの言葉に首がもげるほど強くうなずき続けた私。そうだそうだ、おっしゃる通り! こんなに毎日ファッションやら趣味やらにうつつを抜かして生きている私たちが、どうして自分が最後に入る箱のデザインをあらかじめ決めておけないことがあろうか。

だって、死んだ後は自分で決められないんだよ? テキトーな量産型の棺桶に入れられて燃やされて、みんな同じ白い骨壷に入っちゃうんだよ。でもその棺桶って(火葬場の基準を満たせば)本当はみんな同じでなくてもいい。骨壷も、自宅に置く「手元供養」のためなら、みんな同じ白い骨壷である必要はなくて、どんな何に入っていたっていい。私たちはそれを知らないだけ。最後まで自己表現、したくない?

布施さんは、少女時代の自分自身を「希死念慮の強い子どもだった」と振り返る。秋田県出身だが、「秋田って、日本で自殺率ナンバーワンなんです」(布施さん)。20代から友人・先輩・後輩を亡くす経験が続き、死が常に身近にある環境だった。

「若くして亡くなった彼らの葬儀に行くと、喪主がご両親で、悲しみが強すぎて葬儀に気を回せない。そうすると、亡くなった子の『人となり』が見えてこないんです」。自分がよく知る友達や先輩・後輩なのに、生前の故人がどういう人生を歩んでいたかが全然伝わってこないことに、布施さんは強い違和感を覚えた。

「死んだ時に、こんな真っ白な骨壷に入るのが嫌だ、って強烈に思いました。死が身近になって具体的に見えれば見えるほど、自分なりに気になって。自分が死んだ時もこんな感じになる。もしいま自分が死んだら、家族は私のことを部分的にしか知らないから、自分の生き方や人生の道のりを全部反映した葬儀にはならないんだろうな、早く亡くなった時を考えて準備しないと、と」(布施さん)

GRAVE TOKYOのデザイン棺桶にはリボンとレースがふんだんにあしらわれたものも

「散骨→骨壷で少量手元供養」がトレンド!?

玩具メーカーに勤務していた布施さんは、子会社である文具メーカーに出向。新規事業として30もの立案をした中から、2015年にデザイン骨壷のブランドを立ち上げた。

「ライフスタイルを反映した骨壷で、インテリアの中に置いても馴染むことを意識しました。よそのお家にお邪魔すると、リビングに遺影と骨壷があって、独特の空気を生んでいることがありますよね。ご本人たちには生活の一部になっているから気にならないのかもしれないですが、訪れる側としては違和感。生活の中にあっても自然に見えるような骨壷をデザインしました」(布施さん)

さまざまなデザイン、サイズの骨壺

デザイン骨壷のブランドを引っさげ、布施さんチームは葬儀・埋葬・供養・相続などに関連する国内最大の“終活産業”専門展示会である「エンディング産業展」に勇んで参加する。そこで出会ったのが、葬祭関連商材の輸出入などを手掛けるYOMI International代表取締役CEOの村田ますみさんだった。

村田さんは散骨事業会社を経て起業している。

「日本は散骨文化が成熟しているんです。かつては刑法の遺骨遺棄罪に引っかかるのではないかという懸念もありましたが、ニーズが大きく、実態の方がずっと増えていきました。とうとう一昨年には厚生労働省で正式な『散骨に関するガイドライン』が発表され、一層の広がりを見せています。

散骨という方法が支持される背景には、お墓を維持できない“墓問題”があるんです。お墓を誰が守るのか、これは日本の家制度がベースになっているシステムなのですが、いま“家”という価値観も家族も多様化しているので、お墓自体をもう持たないという選択をする人も多い。するとメインは散骨にして、少しだけ分骨して手元供養用に残し、自宅供養をするというスタイルが一種のトレンドのようになっています」(村田さん)

終活産業の展示会で布施さんが「あえて浮かせました」とデコレーション感満載に出展したデザイン骨壷を見て、村田さんは「浮いていたので声をかけました」という。布施さんの骨壷は、同業他社の女性が「こういうのが欲しかった」と自分や家族の分を複数買っていくほど評判が良かった。

「葬儀業界ってデザイナーがいないんです。おじさんがなんとなくこれまで通りに作ってきたものばかり。私のデザイン骨壷を見て、男性客は『香水瓶ですか?』と言うし、20代の女性は『私これに入りたい!』と、狙い通りの反応を見せてくれました。そうか、若い女性がこれに入りたいと思っているんだ、と商品としての実現性、市場の可能性を強く感じましたし、媒体からも取材を受けるようになりました」(布施さん)
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河崎 環

コラムニスト・立教大学社会学部兼任講師
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌などに多数寄稿。ワイドショーなどのコメンテーターも務める。2022年よりTOKYO MX番組審議会委員。社会人女子と高校生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)など。

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