「×最期(後編)」カワイイ棺桶に「入棺体験」タマキの人生観は変わっちゃうのか?:河崎環のタマキ✕(カケル)

河崎 環

Specialカルチャークリエイターライフスタイル

いよいよ入棺、そして……

さて、弔辞を布施さんに渡して、棺桶や花が備えられた隣の部屋へ移動。いよいよ入棺体験である。参加者全員「可愛すぎでしょ」と破顔一笑するほど、黄色基調のオリエンタルなパターンに包まれ、蓋にはバービー人形までいるKawaii棺桶。葬儀、なんて湿っぽさとは無縁だ。そうそう、全力で走り抜ける人生なんだからさ、最後はこういう「終の棲家」にご機嫌でダイブしたいよね。

河崎は2番目。入棺すると全員で「綺麗よ〜」「可愛い!」「いい人生だったね」「おつかれさまでした」と言いながら、棺の隙間へふんだんにアートフラワーを詰めてくれる。お花に盛られ囲まれ、まず目を開けた状態、閉じた状態、蓋から顔がのぞく状態と、みんなで笑いながらバシバシ写真撮影。

花に囲まれていざ、入棺!

「ではゆっくりお休みください」と完全に蓋の扉を閉められ、隙間から微かな光が漏れてくる中で、さっきの弔辞が布施さんの声で読み上げられるのを聞く。すると、私の中にフツフツと湧き起こる感情があった。

それは「いやーいい人生だったなー、もう後悔ないわー、幸せやー、欲しいものちゃんともらって生きられたわー」という、「自己肯定感の爆発、いや暴発」。私は、まるで母の胎内のような棺桶の中で、溢れ漏れてヒッタヒタ、もはや溺れるレベルの自己肯定感の羊水に包まれて「生まれてきてよかったー」「あきらめないで生きてよかったー」「頑張ってよかったー」「自分的に合格」「ここからはもうなんでも来いや、負ける気せえへん」「生きるっていいもんだな」と噛み締めたのである。

根拠のない自己肯定感に浸ってウルウルツヤツヤになった私は、「おかえりなさーい」と棺の蓋が開いたとき、「いやー私、自分大好きだなって思いました」と口走った。ヤバいくらいの万能感、躁状態、無敵の人。ええ、根拠なんて1ミリもないです。あの瞬間、棺桶からヨイショと出てくる私はスターマリオのように全身が黄金に光っていたと思う。

希死念慮を持つ若者を救ってあげたかった

参加者の中には、棺桶の蓋が開いた瞬間涙でグショグショの人もいた、今回のワークショップ。実はこの「入棺体験」には、布施さんにとって切実な、若年層の希死念慮を救いたいとの思いも裏テーマとして流れているのだという。

この入棺ワークショップには、いわゆるゴスロリと呼ばれるファッションを好む若者の参加が少なくない。

「20代から80代まで、こんなに参加者の年齢層が幅広いのは、このアトリエみけらのワークショップだけではないかと思います。以前、ラフォーレ原宿にGRAVE TOKYOのポップアップショップを出したとき、114人ものお客さんがいらっしゃって」(布施さん)

カラフルな「デザイン死に装束」も用意されている

ゴスロリを愛する彼女ら、彼らの中には、生きづらさに悩み、自傷行為や自死など観念としての死をもてあそんでしまう人もいる。

「死って若い人にとっても身近ですよね。実は死について考えることがあっても、そんなことは家の中で言えない。だからネットの中で死というワードで繋がり、閉ざされた空間の中だけで話して、いつか死が憧れになってしまうんです。でも入棺体験をしてみると、死が現実のものとして 腑に落ちる。今死んだらこのまま焼かれるんだなというリアリティを感じて、棺桶の中でいろいろな気づきがあるんです。頭の中で死にたいと思っていても、心は違うことに気づく。まだやりたいことがあった、いつ死んでもいいと思っていたけれどそうじゃなかった、って」(布施さん)

今年もまた、有名人が自ら命を絶つ事件が続いている。布施さんはある有名人の死について、SNSで哀悼の意をつづった。

「実際の死を選ぶ前に仮の死を体験してほしい。踏みとどまれる可能性がとても高いです。やりたかったこと、夢や希望を思い出し、蓋が開いた時、生き返った気持ちになります。うちで入棺体験してほしかった」(布施さん)

布施さんは「『このかわいい棺桶に入ると、盛れるSNS写真が撮れるよ』なんていうのを入り口にして、仮死体験によって死と生を前向きに捉え直して欲しいんです」と語る。来たる8月12日、8月19日にも「アトリエみけら」で入棺体験ワークショップが開催されるので、「何それ、ちょっと面白そう」と思った方はぜひ体験してきてほしい。また、GRAVE TOKYOでデザインした棺桶や骨壺などの葬儀具は、布施さんのInstagramでも紹介されている。
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河崎 環

コラムニスト・立教大学社会学部兼任講師
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌などに多数寄稿。ワイドショーなどのコメンテーターも務める。2022年よりTOKYO MX番組審議会委員。社会人女子と高校生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)など。

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