NewJeans、村上春樹、骨伝導イヤホン、ブルーバックス──2023年毎朝のランニング習慣化に効いた4つのこと

花森 リド

Specialスポーツライフスタイル健康・美容本・書籍

NewJeansの音楽でユルく走る

ゆっくりゴキゲンに走るようになって唯一困ったことが、ランニング中のBGMでした。それまではBPM140以上のダンスミュージックばかり聞いていましたが、これと「ゆっくり走る」との相性がすこぶる良くない。とはいえ、牧歌的な音楽も失恋ソングもなんだか合わない……。

ガツガツしたくないが、それなりに応援してほしい。でも激しいエンパワーメントは遠慮したい。

私のユル〜いランに伴走してくれるような、そんないい感じの音楽はないかしら……と考え、ためしに韓国のアイドルグループ「NewJeans」の全曲をランダムで再生してみると、これが最高に合う。ドリーミーで、可憐で、最新なのに90年代のキッチュな香りも漂う。なにより「抜け感」がすばらしい。これならニコニコ走れる!

NewJeansを我がランニングテーマソングとして愛聴するうちに、とうとうNewJeansを聞くと走りたくなるカラダになってしまいました(そしてNewJeansの歌を耳にする機会はとても多いので、そのたびにランニングを思い出す)。

なお、どうしてもやる気がでなくてNewJeansにすらたどり着けない朝は、起床すぐにベートーベンの交響曲第9番をかけています。第1楽章でノロノロと支度して表に出て、派手な第2楽章あたりで「走ってる私えらい!」みたいな自画自賛モードに入り、ロマンチックな第3楽章でランニングハイに。そして第4楽章の大合唱が始まったあたりで達成感と共にランニング終了。心の中では両腕を天に突き上げガッツポーズ。年末に“第九”を聞きたがる人たちの気持ちはこれかと納得。自分の頑張りをベートーベンが1000倍くらいに増幅して褒めてくれるんです。サウナ後の水風呂と外気浴みたい。

骨伝導イヤホンで爽やかに走る

ランニングテーマソングが決まったら次に考えたいのがイヤホン。もともとは外音を取り込めるカナル型(耳栓タイプ)を使っていましたが、走りまくりライフに突入してからは骨伝導タイプの耳を塞がないイヤホンに変えました。

いくら楽しく走れたとて、夏の朝は33度のまま。で、とにかく全身の通気性を上げたい一心で、ペラッペラで通気孔とスリットだらけのタンクトップを着てみたり、あれこれ工夫を重ねるうちに、耳穴の風通しにも着目したわけです。耳穴がフルオープンになれば自動車や自転車の音を明瞭に聞き取れ、より安全に走れることもわかっていました(小鳥の声も聞こえて楽しいし)。

そこで数年前にWeb会議のために買って仕事で愛用してきたShokzのOpenCommをランニングにも駆り出すことに。でも「OpenCommよ、こんなことまで頼んじゃって、ごめんな」って気が引けたことも事実。なにせOpenCommはコミュニケーション用に作られた骨伝導ヘッドセットで、立派なマイクも付いてます。ランニングにおけるコミュニケーションといえば工事現場の交通整理員さんに「おはようございまーす!」とバカでかい声で言うくらいで、あとは無言。しかも汗だく。そんなやりがいのないハードな現場に連れ出していいものか。

ただ、OpenCommの防水・防塵規格は「IP55」なので、砂埃にも水にもそれなりに強い。とくに防水の程度は「全方向噴流水からの保護」とのことなので、さすがの私の滝汗だって噴流じゃないしな……と自己責任で使っています(いつかは、Shokzのスポーツ用が欲しいんですけどね)。数カ月経った現在、私のOpenCommは故障もなく、Web会議とランニングの両方で活躍中です。

市民ランナー・村上春樹の魅力を知る

私が毎朝走りまくっていることを知った人がオススメしてくれたのが、村上春樹のエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』です。文句なしに面白かった! 走る喜びがじわじわ伝わってくる名著。

毎日10km走り、世界各地のあらゆるフルマラソンどころかウルトラ・マラソン(100kmも走るエクストリームなマラソン)、そしてトライアスロンに出場するくらいの市民ランナーである村上春樹の生き方が、あらゆる年代における「走ること」と共に語られています。もうひたすら走りまくってる。クタクタに疲れて「うんざりだ」と思いながらも、足を引きずってでも、ずーっと走って、小説を書いてる。

村上春樹の文章がいかに素晴らしいかなんて、ここで書くまでもないお話ですが、誰かの肌に手を置いたときのような、あの誰にもマネできないデリケートな身体性をもつ小説たちは(それがどんなに現実離れしたストーリーだとしても、私は必ずそれらと手をつなげるんです)、彼のこんな日常から編み出されているのだと感じます。そして自分がいかに村上春樹を大好きであるかを思い出しました。

寝る前に読むと明日が楽しみになるんです。「明日も走ろう」と心の底から思える。

走ることがいいことなのかは、正直わからない

習慣化とは強烈かつ奇妙なものです。「今年頑張ったこと」や「残念だったこと」なんていう明快なエピソードがかすむくらいの底知れなさを持っています。なぜなら「なんでそんなに走ったんだっけ」ということについて、私には何も説明がつかないからです。

「健康にいいから」や「体重をコントロールしたかった」、あるいは「記録にチャレンジしたかった」なんて理由はいくらでも挙げられます(『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』にも健康上のメリットは目いっぱい挙げられていましたし)。

ただ、それらは言い訳にすぎず、私の“内なる犬”が「今日も、もちろん走りますよね?」と曇りない目でアピールしてくる原因とは一切結びついていません。メリットはもはやオマケ。ケガをしないように走る工夫だって、日焼け止めクリームを念入りに塗ることだって“内なる犬”のためなんです。ひたすら不思議。それでも今回書いた4つのことが、私の2023年を愉快なものに変えてくれたのは間違いありません。来年もそんな説明のつかない愉快なことが待っているといいなと楽しみにしています。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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