「TVは自宅のリビングルームに置くもの」──そんな固定概念を打ち破る、全く新しいTVが海外では登場している。これまでTVに求められる性能といえば画面の大きさや画質だったが、メーカー間の競争も限界に近づいている。今後8K TVなど、より高精細な製品も出てくるだろうが、TVの新しい使い方を提唱するモデルも各社から登場しているのだ。2023年9月頭にベルリンで開催された「IFA 2023」(国際コンシューマ・エレクトロニクス展)の会場で筆者が気になった最新TV製品を紹介する。
見た目はアタッシェケース、開けばTVの「StandbyMe Go」
TVの一番使いにくい点、それは外出先に持ち運べないことだ。そもそもブラウン管時代から、TVというものは固定して使うものだった。しかし固定電話がいつのまにか携帯電話を経てスマートフォンに進化したように、TVにもモバイルで使う製品がついに登場した。韓国LG Electronicsの「StandbyMe Go」はどこにでも持ち運ぶことのできるTVだ。旅行先に持っていくのはもちろん、フリマに出店するときに店先に置いたり、花見をしながらみんなで映画を見る、なんて使い方もできる。
LGのモバイルできるTV「StandbyMe Go」
自宅にあるTVを持ち運ぶにはスタンドを外したりケーブルを引き抜いたりと面倒なうえに、背面には意外とでっぱりもあるため持ち出しにくい。StandbyMe Goは27インチのTVをアタッシェケースの中に収納し、使わないときはそのまま持ち運ぶ形状にしている。アタッシェケースの大きさは縦433mm、横670mm、幅119mmで重量は12.7kg。電車の移動で持ち運ぶにはやや大きめだが、車でならトランクルームに入れて移動できる。
これがTVだと気が付く人はいないだろう
アタッシェケースを開くとTVが水平に収納されている。しかもケースを開けばそのまますぐ電源が入る簡単仕様だ。この水平な状態でもそのまま使うことが可能で、内蔵されているチェスなどのボードゲームを楽しむことができる。画面はタッチパネルなので指先で駒を動かすこともできるのだ。またケース上蓋の内側には20W、4チャンネルの高音質スピーカーが搭載されているので、映画観賞や音楽を聴く際もいい音を再生してくれる。
開けば電源ON、このままでも使える
TVの角度は自由に曲げられる上に、90度回転させて縦方向にすることもできる。HDMIやUSBの入力端子を備えているので、ポータブルゲーム機やスマートフォンを接続することも可能だ。今や主流の縦向きのショート動画をStandbyMe Goの大きい画面で楽しむこともできるのである。内蔵バッテリーで3時間使えるので映画1本をまるまる再生できるし、電源コードをつなげば普通のTVとしても長時間の使用が可能だ。最近はキャンプ用にコンセント出力を備えた大型バッテリーもさまざまなものが販売されているので、それと組み合わせれば内蔵バッテリーだけでより長時間の利用もできるだろう。ヒーリングモードと呼ばれる環境ビデオを流す機能もあるので、バーベキューをしながらStandbyMe Goで大自然の映像を流すのも楽しそうだ。
StandbyMe Goは999.99ドルでアメリカで販売中。約15万円と価格は高いが、1台で2役も3役もこなすTVとしては悪くない価格かもしれない。日本での販売はまだアナウンスされていないものの、LGは日本でTV事業を本格化している。数カ月後に電車の中で大きいアタッシェケースを抱えている人を見かけたら、それはStandbyMe Goを活用しているユーザーかもしれない。
StandbyMe Goは999.99ドルでアメリカで販売中。約15万円と価格は高いが、1台で2役も3役もこなすTVとしては悪くない価格かもしれない。日本での販売はまだアナウンスされていないものの、LGは日本でTV事業を本格化している。数カ月後に電車の中で大きいアタッシェケースを抱えている人を見かけたら、それはStandbyMe Goを活用しているユーザーかもしれない。
TVの角度は自在に動かせる
スマホの形に寄りそう回転式TV「FAME TV」
個人向けのTVはスマートフォンとの接続を考え、縦向きに回転させることのできる製品が次々と登場している。StandbyMe Goが縦向きになるのも、今や写真や動画を縦画面で見る人が増えているからだ。トルコの大手家電メーカー、VESTELは42インチの回転式TV「FAME TV」を展示した。
VESTELの「FAME TV」
一見するとどこにでもある普通のTVだが、ディスプレイに手をかけるとそのまま90度回転させることができるのだ。スマートフォンやタブレットは日常的に横画面、縦画面を切り替えて見ることができるのに、TVだけが横画面で固定されているのは考えてみればおかしいことなのかもしれない。
ディスプレイ部分が回転していく
画面を完全に縦方向にすると、背面からは横画面に合わせたフレームが現われる。このフレームにはLEDライトが内蔵されており、「クラブモード」とでも呼べる、音楽に合わせてライトが自在に点滅するモードも備えている。はやりの音楽をバッグに再生される縦動画をより盛り上げるかのように、TVの左右が派手に光ってくれる。お店のサイネージ用途に使うのもいいかもしれない。気になる価格は現時点では未定。2024年にヨーロッパで発売予定とのこと。
90度縦向きで動画再生しながら、背面フレームのLEDライトが盛り上げてくれる
リモートワークも楽しくなるコンセプトモデル「mono TV」「Oz」
実はVESTELはTVメーカーとしては大手だ。そのためTVの将来の姿を模索しており、コンセプトデザインのTVも海外展示会では発表している。IFA 2023の会場に展示されていたのは「mono TV」。リモートワークやリモート学習時代に合わせた新しいスタイルの1人向けTVだ。コンセプトモデルなので製品化は未定とのこと。
VESTELはさまざまなTVのコンセプトモデルを提案している。右が「mono TV」
mono TVのディスプレイ部分は使わないときは折りたたむことができる。TVを使いたいときだけ開き、使わないときは閉じることで、自宅で仕事や勉強をするときの心のONとOFF時間の切り替えができる。映画やゲームを楽しむこともできるが、たまにはTVを閉じてコーヒーを飲みながら読書をする時間があってもいいのかもしれない。
mono TVはディスプレイの手前にもスペースがあるが、ここには布で覆われた大型のパッドと、オレンジ色のバッテリーを置くことができる。パッド側にはワイヤレスキーボードが納められており、TVとBluetoothで接続できる。一方バッテリーはスマートフォンにつなぐことが想定されている。つまり自宅にノートPCがなくとも、mono TVにスマートフォンの画面を投影し、キーボードを使えば簡易的なPCとして仕事や勉強ができるというわけだ。
mono TVはディスプレイの手前にもスペースがあるが、ここには布で覆われた大型のパッドと、オレンジ色のバッテリーを置くことができる。パッド側にはワイヤレスキーボードが納められており、TVとBluetoothで接続できる。一方バッテリーはスマートフォンにつなぐことが想定されている。つまり自宅にノートPCがなくとも、mono TVにスマートフォンの画面を投影し、キーボードを使えば簡易的なPCとして仕事や勉強ができるというわけだ。
スマートフォンを接続して仕事や学習ができる設計
「Oz」もちょっと変わったTVのコンセプトモデルだ。普段は普通のTVとして使用できるが、TVを立てるスタンドが左右についており、そのスタンドを床の上におけばテーブルとしても使うことができる。StandbyMe Goのアタッシェケースを開いた状態のようにして使えるわけだ。テーブルゲームをするのもいいし、食事の時に料理に合わせた環境ビデオを流すのもいいだろう。子供の勉強机として学習アプリを表示したり、授業の様子を動画で流しながらノートに書き留めるという使い方もできそうだ。こちらは既存のTVに折り畳み式の足をつければ実現できるので、早い時期に製品化されるかもしれない。
TVの使い方の幅を広げる「Oz」
山根 康宏
香港在住携帯研究家
スマホとSIMを求めて世界各国を取材中。海外、特に中国の通信事情に精通している。大手メディアへの執筆も多数。海外スマホ・ケータイを1800台所有するコレクターでもある。