AI時代に生き残る真のカスタマーサポートとは?

カラクリ 小田志門

AIDXSpecialビジネス

カスタマーサポート部門の戦術変更に必要なこと

カスタマーサポート部門で重要な変革は、部門が対象とする「顧客」の枠を広げることです。カスタマーサポート部門が対象とする顧客の定義は、狭い範囲だと「問い合わせをしてくれる顧客」だけとなります。しかし、問い合わせをしなくても困っている人はいます。困っているのに問い合わせをしない顧客を「サイレントカスタマー」と呼びますが、企業によってはサイレントカスタマーが問い合わせをする人の何倍も多いケースがあります。

顧客の幅を広げない限り、「問い合わせをしてくれる顧客以外」の解像度が上がってこないことも問題です。

さらにカスタマーサポートのタッチポイントがあれば、もっと顧客価値を引き出せる可能性がある顧客もいます。ですから顧客の定義を広げることは、投資対効果の高いカスタマーサポートへの第一歩となります。

顧客の定義を広げると、それに連動して、カスタマーサポート部門で扱う顧客データ・顧客関連データも広がることになります。

今までは問い合わせをしてくれる顧客のデータだけだったものが全顧客のデータを扱い、問い合わせ履歴データレベルの範囲だったものが顧客の購買履歴や利用履歴などの広い顧客データや、アプリ・WEBサイト等の行動履歴なども扱うことになります。

これが戦略を支える現場レイヤーの基盤になります。AI時代のカスタマーサポートには、AIよりもデータが重要です。今まではカスタマーサポート部門にはなかったデータ、他部門のみが扱っていたデータを横串で連携して、活用していくことが求められます。

カスタマーサポートにおける、さまざまな既存データの活用余地の例

経営レイヤーで顧客ロイヤリティを重要指標に置くという意思決定をし、顧客の枠を広げ、扱うデータを増やす準備ができたら、いよいよAIを実装し、オペレーションでの本格的な活用が始まります。

顧客の問い合わせを減らすのではなくコンタクトを増やし、顧客の問題解決をAIによって自動化し、24時間365日いつでも対処できるようにします。
さらにAIを活用して、顧客が問い合わせしてくる前にAIで顧客のボトルネックを予測し、問題解決体験の提供も可能になります。
ここで重要なことは、「精度と効率の時代」で求められていたような正確で一律な回答ではありません。スムーズな問題解決は、顧客自身が望む場合においてはすべて、AIで自己解決できる仕組みを用意しておくことです。AIで、と書きましたが、AIだけではもちろん実現不可能で、さまざまなデータ連携・システム連携で実現できる、少しタイムスパンの長い施策になろうかと思います。

加えて、AIは人間(オペレーター)の仕事も変革します。すでに、AIの活用で新人オペレータの戦力化が数倍ものスピードになったり、1人あたりの生産性が数十%も向上する事例が出てきています。投資対効果の高いカスタマーサポートにおいては、どのような顧客に、誰が、どんな応対をすると効果的かをAIがサポートすることなります。

例えばあるECサイトで、ベテランオペレーターをそのサイトのヘビーユーザーかライトユーザー(初めてのユーザー)の応対に当てて、応対後の購買金額で比較した例があります。直感的には、ヘビーユーザーにベテランオペレーターを当てたほうが良い結果が出そうですが、結果は真逆で、ライトユーザーにベテランオペレーターを当てた結果がもっとも効果が高くなりました。逆にヘビーユーザーには、ベテランオペレーターでも平均的なオペレーターでも差が出なかったようです。このように、データを見ると直感とは逆の効果を発見することにもつながります。

まとめると、顧客の枠を広げること、データ基盤を整えること、データをもとに効果的な自動化/人の対応をバランスしていくことが、AI時代に生き残るカスタマーサポート部門の戦略といえます。

現場レイヤーで意識すべきポイントは1つ

最後に、カスタマーサポートの現場レイヤーで意識することですが、それは1つ。AIの活用を楽しむこと、といえます。ある企業でChatGPTの法人環境での利用率を調査した結果を共有いただいたことがあるのですが、会社全体では数十%前半なのに対して、カスタマーサポート部門では100%に近い利用が見られたとのことでした。現場の期待感が現れているなと思ったエピソードです。

遅かれ早かれ、現場の実務には必ずAI活用がやってきます。逆に、今後もなかなかAIが活用されない現場にいる方は転職を考えたほうがいいでしょう。これからは1人1台のAI活用が当たり前になるはずです。

生成AIの登場が「効果の時代」への変換を加速

カスタマーサポートのすべての業務フローにAIは影響を及ぼします。まずは現在の業務フローをベースに、各タスクの効率化のためのAI活用が今後も続いていきます。例えば電話対応の通話ログ(音声データ)のテキスト化や、そのテキストを要約して顧客対応管理システムに登録するなどの効率化がこれにあたります。ただし、これらはあくまで現在の業務フローの改善に留まり、抜本的な改革とはいえません。

本当の改革は、本記事で紹介したように緩やかに、しかし根底からスタートします。生成AIはカスタマーサポートの各種のタスクと非常に相性が良く、変革のスピードを5年以上早めたといっていいと思います。

投資対効果の高いカスタマーサポート、地味ではありますが、それがAI時代に生き残る真のカスタマーサポートです。重要なのは、AIの活用の土台となるデータ基盤を整えることです。カスタマーサポートの部門単体ではなく、経営レイヤーでの意思決定を促し、他部門と連携してカスタマーサポートの新しい顧客体験を描き、それに沿ったオペレーションフローを実現する仕組みやシステムを構築するためのデータを整えましょう。AIの活用で、もっとも重要なことは良質なデータを整えているかどうかです。データ自体は社内に散らばっているケースが多いので、まずはそこから着手しましょう!
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カラクリ 小田志門

カラクリ代表取締役CEO
1980年京都府生まれ。2003年から、イー・ガーディアン(東証一部)の創業メンバー(取締役)として、SNS監視・コンタクトセンター事業の立ち上げに従事。2017年から「カスタマーサポートをエンパワーメントする」ためのAIソリューション「KARAKURI digital CS series」の開発・提供を開始。GMOメディアやGMOペイメントゲートウェイにもAIチャットボットを提供する。

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