NHK大河『豊臣兄弟!』秀長の選択— 秀吉と柴田勝家が主導権を争った賤ヶ岳、前線を守った秀長

小林 啓倫

Specialカルチャー映画・音楽
2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』。おなじみ戦国時代を舞台にしながら、豊臣秀吉(演:池松壮亮さん)の弟・秀長(演:仲野太賀さん)の視点から物語を描くという、新しい試みとなっている。

秀長は、天下人・秀吉の陰に隠れがちな存在だが、「彼なしでは秀吉は天下を取れなかっただろう」と評されるほどの人物だ。ドラマで描かれる秀長の姿を手がかりに、史料などを踏まえながら、彼がどのような選択を重ねていったのかを考えてみたい。

今回は、秀吉と柴田勝家が天下の主導権を争った「賤ヶ岳の戦い(しずがたけのたたかい)」を取り上げる。

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清洲会議が生んだ新しい勢力図

天正10年(1582年)6月2日、本能寺の変で織田信長(演:小栗旬さん)とその嫡男・信忠(演:小関裕太)が横死する。秀吉は備中高松城から驚異的な速度で軍を返し、6月13日の山崎の戦いで明智光秀(演:要潤さん)を討った。前回の記事でも触れた「中国大返し」だ。このとき秀長は天王山の東峰に着陣し、戦局を左右する要衝(ようしょう)を押さえることで兄の大勝利に貢献したと伝えられている。

その約2週間後、尾張の清洲城に織田家の宿老たちが集まった。世にいう「清洲会議」である。出席したのは柴田勝家(演:山口馬木也さん)、丹羽長秀(演:池田鉄洋さん)、羽柴秀吉、池田恒興(演:堀井新太さん)の4人。信長の後継者と遺領の配分を決めるこの会議は、通俗的には「秀吉が幼い三法師(織田信忠の嫡男、つまり織田信長の孫)を担いで、信長の三男である信孝(演:結木滉星さん)を推す勝家を出し抜いた場」として知られている。ただ近年では、三法師の家督相続はそもそも既定路線であり、実際の争点は遺領の配分と幼主の「後見」を誰が握るかにあったとする見方も示されている。このあたりは諸説あるが、いずれにせよ確かなのは、会議の結果として織田家中の序列が大きく塗り替わったことだ。

主君の仇を討った秀吉の発言力は宿老筆頭であった勝家を上回り、織田家内部の力関係は事実上逆転した。一方の勝家には、秀吉の旧領であった北近江の長浜領が割譲され、信長の妹・お市の方(演:宮﨑あおいさん)が嫁ぐという「花」が持たされた。勝家自身がどう感じていたかは分からないが(この辺りも今回の大河ドラマの見どころのひとつとなるだろう)、表向きはメンツが保たれたわけである。

では、このとき秀長はどのような立場となっていたのか。当時、秀吉46歳、秀長43歳。秀長は宿老たちの会議に列する立場にはなかったが、山崎で武功を挙げ、但馬平定や鳥取城攻めでも主力を担うなど、秀吉軍団の軍事的中核を占める存在になりつつあった。兄の地位の急上昇は、そのまま弟の立場の上昇でもあった。

しかしいくら事実上の序列が入れ替わったとしても、勝家は信長の父・信秀の代から織田家に仕えたと伝わる宿老中の宿老である。「成り上がり者の集団」と侮られてきた羽柴家が、譜代の重臣団を正面から相手にできるのか。それが問われる戦いが、目前に迫っていた。

深まる対立、引き金となった長浜

均衡は半年も持たなかった。同年10月、秀吉は京都で信長の葬儀を盛大に執り行う。このとき秀長は軍を率いて警固を務めた。織田家の「弔い」を秀吉が主宰したことは、勝家や信孝の側から見れば、主家の権威の横取りに他ならなかっただろう。

そして12月、事態は一気に動く。雪で越前から動けない勝家を見越して、秀吉は大軍を北近江に進め、清洲会議で勝家に割譲されたはずの長浜領を実力で奪還してしまう。長浜城を守っていた勝家方の柴田勝豊は降伏し、続いて秀吉は岐阜の信孝も屈服させた。清洲会議の「落とし所」だったはずの長浜領が、対決の発火点になったのである。年が明けた1583年(天正11年)正月には、勝家方の滝川一益(演:猪塚健太さん)が北伊勢で挙兵し、秀吉はその対応に追われる。そして3月、雪解けを待ちかねた勝家がついに越前から南下し、北近江の柳ヶ瀬周辺に布陣した。冬の間に周囲の敵を各個撃破し、決戦の条件を自ら整えていく秀吉の手際は、外交と軍事を一体で動かす彼の真骨頂といえるだろう。

余呉湖畔の対陣と秀長の「田上山」

賤ヶ岳の戦いというと、天正11年(1583年)4月21日の決戦が語られることが多い。しかし、実際には3月中旬から羽柴・柴田両軍が余呉湖周辺に多数の砦を築いて対峙しており、決戦に至るまで約1カ月に及ぶ陣地戦・持久戦であった。柴田軍約3万、羽柴軍約5万と伝わる両軍は、余呉湖周辺の山々に砦を連ねてにらみ合った。勝家は越前との国境に近い内中尾山に本陣(玄蕃尾城)を置き、羽柴方は賤ヶ岳、大岩山、岩崎山などの峰々に砦を築いて、これに対抗した。北国街道を挟んで山塊全体が要塞化された、戦国期でも屈指の大規模な陣地戦だ。

賤ヶ岳の戦いで秀長が本陣を構えたのが、現在の長浜市木之本町に位置する田上山砦である。羽柴軍全体の本陣は秀吉が陣取った木之本宿に置かれていたが、田上山砦は秀長が担当する陣地の中核として機能した。秀長はここに布陣し、羽柴軍の防衛線と戦局を支える役割を担ったと考えられている。砦を築き、兵糧を回し、持ち場を守る。華々しい合戦絵巻の中では省略されてしまう仕事だが、持久戦の勝敗を決めるのは、まさにこうした日常のオペレーションだ。横山城時代に「軍政」の経験を積んだ秀長にとって、これは最も得意とする種類の仕事だったのではないだろうか。決戦は一瞬で勝負が決まるが、それを左右するのは事前の数週間、時には数カ月に及ぶ仕込みだ。その仕込みを管理する責任者が秀長だった。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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