帰りにカフェにも立ち寄りたい、三菱一号館美術館「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」
三菱一号館美術館は2010年生まれの“歴史建造物”
丸の内の三菱一号館美術館で「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで(以下、カフェに集う芸術家展)」が開催中です。期間は2026年9月23日まで。その後、10月3日から2027年1月11日まで広島県のひろしま美術館へ巡回します。
本展は、19世紀後半のパリとバルセロナを舞台に、芸術家たちの交流の場だった「カフェ」に着目した展覧会です。三菱一号館美術館が誇るロートレック・コレクションをはじめ、マネやゴッホ、ピカソら約130点の作品を通して、当時のカフェが近代美術に果たした役割をたどります。
ところで三菱一号館美術館は、建物そのものもすばらしい美術館です。そもそもの話、どんな美術館の建物も美しい存在ではありますが、なかでも三菱一号館美術館には、特に語りたいポイントがいっぱいあります。
2010年に開館した三菱一号館美術館は、1894年(明治27年)に英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計し、三菱が丸の内に建築した初の洋風事務所建築「三菱一号館」を、当時の設計図や資料をもとに忠実に復元した建物。お隣に並ぶ明治生命館(1934年竣工の重要文化財)に負けないくらいクラシックなたたずまいなのに、完成してまだ20年にも満たない“若いビル”なんです。
本展は、19世紀後半のパリとバルセロナを舞台に、芸術家たちの交流の場だった「カフェ」に着目した展覧会です。三菱一号館美術館が誇るロートレック・コレクションをはじめ、マネやゴッホ、ピカソら約130点の作品を通して、当時のカフェが近代美術に果たした役割をたどります。
ところで三菱一号館美術館は、建物そのものもすばらしい美術館です。そもそもの話、どんな美術館の建物も美しい存在ではありますが、なかでも三菱一号館美術館には、特に語りたいポイントがいっぱいあります。
2010年に開館した三菱一号館美術館は、1894年(明治27年)に英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計し、三菱が丸の内に建築した初の洋風事務所建築「三菱一号館」を、当時の設計図や資料をもとに忠実に復元した建物。お隣に並ぶ明治生命館(1934年竣工の重要文化財)に負けないくらいクラシックなたたずまいなのに、完成してまだ20年にも満たない“若いビル”なんです。
バラやあじさいが咲く中庭を抜け、赤レンガが目印の美術館へ向かう
19世紀の英国で広まった「クイーン・アン様式」と呼ばれる重厚な意匠が特徴で、小手先のレトロ演出とは一線を画す上品さと存在感が魅力。しっくいの壁も幅木の細工もとても美しい。展示室の一部では屋根裏の木造小屋組なども公開されているので、ぜひ360度ぐるっと見渡して堪能してください。なかなか見られるものじゃないですよ、屋根裏なんて!
展示室から展示室へ移動する間も、館内のちょっとした意匠にほれぼれ
石階段のひんやりと滑らかな手すりに見とれる人は多い
そして三菱一号館美術館は、声の大きさを気にせず鑑賞できる「トークフリーデー」を定期的に設けています。本展開催中では6月29日、7月27日、8月31日がトークフリーデーです。格調高い雰囲気ながら小さな子どもや赤ちゃんにもフレンドリーな空間ですし、もちろん、私たち大人も作品や建物について友だちとあれこれおしゃべりしながら歩けます。
美術館は、そもそも「静かに鑑賞しなければならないところ」ではないものの、どうしても気を遣っちゃうんですよね。なので美術館側があえて“トークフリー”を示してくれるのは、個人的にはうれしいです。
美術館は、そもそも「静かに鑑賞しなければならないところ」ではないものの、どうしても気を遣っちゃうんですよね。なので美術館側があえて“トークフリー”を示してくれるのは、個人的にはうれしいです。
芸術家たちが新しい価値観を語り合った「カフェ」
第1章「カフェを描く──レアリスムから印象派へ」では、それまで「サロン(官展、フランス政府が主導していた美術展覧会)」への出品を前提としていた画家たちが、新しい価値観へ向かっていく過程が紹介されます。
当時の芸術家たちは、サロンで求められるような古典をもとにした物語の絵や宗教画ではなく、「現代の生活」を描こうとしていました。
例えばベルト・モリゾが1875年に描いた『黒いドレスの女性(観劇の前)』は、ドレスアップした女性が両手に白いグローブをはめ、右手にオペラグラスを持って劇場に「おでかけ」している肖像画。ドレスの複雑な黒やデコルテの美しさ、そして曖昧な表情が目を引きます。ちなみに1875年はパリのオペラ座(ガルニエ宮)が開場した年でもあるので、当時の女性の社交の雰囲気も伝わってくる絵です。
劇場といえば、こちらのジャン=ルイ・フォラン『舞台裏——青のシンフォニー』もとても好きでした。舞台に当たる照明と、対照的に暗い舞台袖で出番を待つダンサーらの息づかいが美しい。ちなみに、よーく見るとこの絵には5人います。
当時の芸術家たちは、サロンで求められるような古典をもとにした物語の絵や宗教画ではなく、「現代の生活」を描こうとしていました。
例えばベルト・モリゾが1875年に描いた『黒いドレスの女性(観劇の前)』は、ドレスアップした女性が両手に白いグローブをはめ、右手にオペラグラスを持って劇場に「おでかけ」している肖像画。ドレスの複雑な黒やデコルテの美しさ、そして曖昧な表情が目を引きます。ちなみに1875年はパリのオペラ座(ガルニエ宮)が開場した年でもあるので、当時の女性の社交の雰囲気も伝わってくる絵です。
劇場といえば、こちらのジャン=ルイ・フォラン『舞台裏——青のシンフォニー』もとても好きでした。舞台に当たる照明と、対照的に暗い舞台袖で出番を待つダンサーらの息づかいが美しい。ちなみに、よーく見るとこの絵には5人います。
ジャン=ルイ・フォラン『舞台裏——青のシンフォニー』(1900〜23年頃)公益財団法人 大原芸術財団大原美術館(Ohara Museum of Art, Ohara Art Foundation, Kurashiki)所蔵
観劇や舞台芸術などの「19世紀パリの現代生活」が絵画の題材となった背景には、芸術家たちの議論があります。マネやルノワール、ピサロ、作家のゾラらが集ったパリの「カフェ・ゲルボワ」は、こうした新しい芸術をめぐる議論の場でもあったことが本展で紹介されています。カフェは、ただお茶を楽しむ場所ではなく、芸術家たちが「何を描くべきか」を語り合い、新しい美意識を育んだ創造の場だったようです。
そして本展では「風車」も大切なキーワードです。会場のあちこちで風車をモチーフにした作品を目にします。もともと製粉に使われていた風車は、近代化とともにレストランやカフェ・コンセール(食事やお酒を楽しみながら歌手や踊り子の舞台を鑑賞する場)へと姿を変え、芸術家たちが集う場となりました。カフェ・コンセールについては、現在もパリのモンマルトルにある観光名所のキャバレー「ムーラン・ルージュ」をイメージするとわかりやすいかもしれません。
そして本展では「風車」も大切なキーワードです。会場のあちこちで風車をモチーフにした作品を目にします。もともと製粉に使われていた風車は、近代化とともにレストランやカフェ・コンセール(食事やお酒を楽しみながら歌手や踊り子の舞台を鑑賞する場)へと姿を変え、芸術家たちが集う場となりました。カフェ・コンセールについては、現在もパリのモンマルトルにある観光名所のキャバレー「ムーラン・ルージュ」をイメージするとわかりやすいかもしれません。
構図が豪快!ロートレックのパリ
芸術家たちがカフェで育んだ新しい美意識は、やがてカフェ・コンセールやキャバレーといった夜の街へも広がっていきます。
2章「夜のカフェ──シェレ、ロートレックの世紀末」では、三菱一号館美術館が多数所蔵するロートレックのリトグラフ作品を中心に、カフェやキャバレーの文化を紹介。キャバレーの歌手や観客を描いたポスターの構図が大胆で楽しい! 街で貼られていたら、そりゃ見ちゃうよねと思います。
2章「夜のカフェ──シェレ、ロートレックの世紀末」では、三菱一号館美術館が多数所蔵するロートレックのリトグラフ作品を中心に、カフェやキャバレーの文化を紹介。キャバレーの歌手や観客を描いたポスターの構図が大胆で楽しい! 街で貼られていたら、そりゃ見ちゃうよねと思います。
ロートレック『アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレーにて』(1893年)。黒いマントに赤いスカーフがトレードマークのシャンソン歌手、アリスティド・ブリュアンのさまざまなポスターが本展では多数展示されている。彼が“モンマルトルの顔”だったことがうかがえる
アンリ=ガブリエル・イベルスの『パントマイム』(1897−99年)は当時の版画誌『レスタンプ・モデルヌ』に掲載された作品。展示室のマントルピースと相まって美しい
ところでこちらは「夜」と題しているエリアでもあるので、当時のカフェ文化の、あまり“お上品”とはいえないような雰囲気が匂い立つ作品もたくさんあります。
ロートレック『快楽の女王』(1892年)。でっぷりとした銀行家と高級娼婦がカフェでなんだかネットリ楽しげだが、隣のヒゲの紳士は見て見ぬフリ、というか慣れっこなのかもしれない。本作は小説の宣伝ポスター。当時のカフェがどんな空間だったかが伝わるはず

花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori












