Netflix配信でブーム再来、平成の名ドラマ『古畑任三郎』シリーズはなぜ32年たっても面白いのか

花森 リド

Specialカルチャーネットサービスライフスタイル映画・音楽

全身真っ黒&むちゃくちゃ執念深いアノ男がネトフリにやって来た

1994年からフジテレビ系で放送された高視聴率ドラマ『古畑任三郎』のほぼ全シリーズがNetflixで配信中だ。脚本は三谷幸喜、プロデューサーは三谷との名コンビで知られる関口静夫、そして主演は田村正和。エピソードごとに大物ゲストが殺人犯役で登場する推理ドラマで、SMAPや当時現役のメジャーリーガーだったイチローが「本人役(しかも犯人)」で出演するスペシャル版も制作された。

“ネトフリの古畑”の評判は、放送時の勢いを知る私のような人はもちろん、当時まだ生まれてもいなかった人にもSNS伝いに広がったようで、配信されるやいなやNetflixの国内視聴ランキング1位に躍り出た。

残念ながら一部のエピソードは欠番で、スペシャル版も今回の配信ラインアップからは外れているが、それでもシーズン1から3までをNetflixで気ままに視聴できるのはうれしい。

あらためて『古畑任三郎』を見返すと、どのエピソードからもタイムレスな魅力を感じる。当時の画質の荒さなど何も気にならない。

倒叙(とうじょ)ミステリーと呼ばれる本作では、「犯人は誰であるか」が物語のド頭で明かされる。そして田村正和演じる刑事の古畑任三郎(階級は警部補、会社でいったら係長クラス)も、捜査開始の30秒後くらいには「アイツだ」と爆速で目星を付け、ドラマの残り時間の大半を使って犯人の尻尾をつかみ、自白に追い込む。

彼の捜査スタイルは「度を超えたつきまとい」だ。

古畑は非常に低姿勢で物腰柔らかな紳士だが、「えぇ〜、すいません〜〜〜」「すいません〜、あと1つだけ教えてください〜」と犯人に終始ベッタリ張り付き、お構いなしにしゃべり倒す。どんなに相手が迷惑そうな顔をしても絶対に目をそらさず「んフフフ〜」と笑うだけ。ペコペコ謝っているが腹の底では何一つすまないと思っていなさそうでとても良い。「慇懃無礼」と「執念深さ」に「幼児性」をトッピングしてヒトの姿にしたような男だ。

週に1度のペースで地上波放送をゆっくり見ていた子ども時代は、古畑の圧迫ネットリ捜査を「スゴい!」と応援していたのに、32年後の今になってNetflixで一気見すると、3話目あたりでドラマの印象が変わり、古畑のしつこさにイラつく犯人たちの方に大変共感するようになった。ウワァまだ話してる!と感心する。

服も靴も全部真っ黒の古畑が怪人に見えてくるし、犯人役のゲストが大物であればあるほど彼らの身に起こる悲劇っぷりが際立つ。この見るからに体温が低そうで、手ぶらなのにチャリンコだけは謎に30万円もするセリーヌに乗っている、全身黒ずくめのおしゃべり紳士さえ来なけりゃ、みんな完全犯罪だったのに……。

つまりゲストは古畑の対戦相手かつ生け贄だ。そんな彼らが罪を認めた後の展開も美しい。古畑は犯人に手錠をかけるでもブン殴るでもなく(ただし一度だけ犯人をビンタしたことがある。しかもキムタクを!)、説教じみたことも言わず「さあコチラへどうぞ」と舞台の外へ退場を促すだけ。アバンタイトルでの古畑の意味深な独白からラストまで、とても巧みな会話劇だ。

そうした様式美の良さに加えて、2026年の今だからわかる魅力もあった。懐かしくも新しい『古畑任三郎』シリーズのあれこれを紹介する。

「神回」&「神キャスティング」を挙げるとキリがない

『古畑任三郎』の大半のエピソードは、古畑と、西村まさ彦演じる相棒の今泉慎太郎、そしてゲストが演じる犯人役を中心にドラマが進む。1話完結なので気になるゲストの回から見ても何ら問題はなく、ファンがそれぞれの「神回」を語りやすい。

例えばシーズン1の第1話「死者からの伝言」のゲストは中森明菜。若くして成功した少女コミック作家・小石川ちなみを演じた。小石川ちなみは担当編集者と恋仲になるも、その編集者は絵に描いたような遊び人のクセして小ざかしいクズで……という悲しい物語だが、古畑は彼女の罪を追求しつつも、なんだかんだで小石川ちなみの才能や人柄に心を寄せまくる。被害者も今泉もそっちのけの愛情深い回だ。

シーズン2の第1話「しゃべりすぎた男」は明石家さんまがゲストだった。当て書きとしか思えないタイトルや脚本といい、文字通りしゃべりすぎる弁護士役の明石家さんまといい、とにかく目まぐるしくて愉快な回だ。そして古畑が珍しく今泉のためにひと肌脱ぎ、ヘタクソな関西弁まで駆使して犯人をあおって「私はあなたが殺したんだと思っています。必ず尻尾をつかんでみせます」と宣言する熱い回でもある。とんだとばっちりを食らった今泉が愛猫の名前「おしゃまんべ」を叫ぶシーンも忘れがたい。

シーズン3の第7話「哀しき完全犯罪」は、田中美佐子が非常に大ざっぱで忘れっぽい犯人役で登場する。偽装や証拠隠滅が雑すぎて古畑にはイージーモードなのか「今度やるときはもう少し細かいところに気をつかってほしいですね」とダメ出しまでしてしまう謎回だ。被害者を演じるのは小日向文世。犯人とは正反対の超絶細かくイヤミっぽい男だが……見る人や時代によって感想がまるで違う良いドラマだと思う。

ちなみにゲスト以外にも見どころが多い。シーズン2第8話「魔術師の選択」には、当時デビューして間もない松たか子が登場する。松たか子は殺人犯役ではなく、『古畑任三郎』シリーズには珍しい「犯人でもないのに視聴者に印象を残す役」だ。みずみずしいったらない(ゲストの犯人役は山城新伍。ギラギラで最高だ)。ほかには劇団・第三舞台出身の池田成志がシーズン1と2でそれぞれ別の役で登場し、かわいそうなことに2度とも殺されていた。しかもどちらも遊び人の設定で、殺害やむなしのジゴロぶりに笑ってしまう。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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