空気を読むのは日本以上?海外CEOの前で何を歌う?とある外資系テック企業のカラオケ事情

花森 リド

Specialカルチャー映画・音楽

“カラオケ行こ!”はグローバルな共通言語か

この世のだいたいの「仕事の飲み会」は3次会あたりでグズグズになる。この原則はガバナンスの強固さや業績の良さなどとは一切連動しておらず、そこには“グズグズ”という名のリラックスと喜びと美学がある。

そうした3次会の“受け皿”として異様な安定感を発揮するのが「カラオケ」だ。少しばかりのノリと気合いさえあれば120分はあっという間に過ぎる。たとえバンド名なのか曲名なのかも分からない、誰かの入れた謎の曲が始まってもいい。タンバリン片手に応じれば“ワンチーム”への仲間入りだ。

ところで、カラオケはグローバルなビジネスパーソンとも相性がいいらしい。それは米国西海岸も例外ではなく、サンフランシスコの老舗カラオケバー「The Mint」は多くのテック企業に所属するビジネスパーソンから愛されてきた。ある企業には、この店を模したカラオケルームがオフィス内に存在したという話まである。

カラオケでチームのつながりを深めて、お互いをねぎらう。世界(というか宇宙)規模でむちゃくちゃな仕事に取り組む映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』にも非常に印象的なカラオケシーンがあった。つまり、そこが新橋であろうがサンフランシスコであろうが、「カラオケ行こ!」と肩を組みマイクを握れば、国を超えてトントン拍子で仲良くなれるのかもしれない。本当だろうか。

そこで、海外のビジネスシーンにおけるカラオケ事情を探るべく、とある外資系テック企業の日本支社で働くキャサリン氏(仮名)と都内某所のカラオケボックス「コート・ダジュール」に向かった。

まさかのVIPルーム。カラオケどころか何らかの集会も開けそうな勢いの広さだった

空気を読んでカラオケに行く外資系社員たち

キャサリン氏の会社にもカラオケ文化があり、特にCEOがカラオケ好きなのだという。そのため、社員の集いでは高確率でカラオケパーティーが発生する。

「CEOが来日した時はもちろんカラオケパーティーが催されますし、オフサイトミーティング(いつもの会議室を離れて開催される戦略合宿会議)のアジェンダ(時間割)にもカラオケパーティーが組み込まれています。電球やランタンで飾り付けた小さなステージに上がって、そこでおのおのが歌うんです。私たちのチームやクライアントには多様なバックグラウンドを持つ人がいます。だから、例えば同僚にビートボクサーがいて人間リズムマシンになり、一同が『ワーオ! アメージング』と感動して、一体感が生まれることもあります。大切な時間ですね」

カラオケパーティーは米国本社に限らず日本支社でも執り行われる。役員らが来日すると懇親会の2次会や3次会で必ずカラオケボックスが予約されるという。ここでキャサリン氏の頭を悩ませるのが「募集」だ。

「なるべく多くの社員をカラオケパーティーに集めたい本社側が、カレンダーインバイト(招待)を送ろうとするんです。しかも偉い人の名前で。でも、カラオケの開催はだいたい業務時間外なので、日本支社の私たちは『それはちょっと……』と本社に諭すことになります。『カラオケパーティーは会議ではないので、招待状を送って参加を促すのはハラスメントになりかねない。その日たまたま出社しているメンバーに声をかけて、オーガニックギャザリング(自然と集まる)くらいがちょうどいいよ』って」

海外のエグゼクティブは業務時間外のカラオケでもためらうことなくインバイト(カラオケのお誘い)を送ろうとするが、日本人にとってのカラオケはそのような集いではない。こうしたさまざまな配慮からは、カラオケ愛とともに外資系企業ならではの「ある事実」も透けて見える。

外資系企業には、日本や海外問わず、上司や役員からカラオケに誘われたら、空気を読んで参加する社員が大勢いるのだ。キャサリン氏いわく「楽しくて参加する人ももちろんいますが、空気を読んでカラオケに行く人も多いと思います。特にカラオケ主催者の直属の部下に当たる人は、3次会どころか4次会も5次会も、最後までついて行く人も多いと思います。私もカラオケまでは必ず参加します」とのこと。

外資系企業はドライで個人主義で実力主義、自分の意見をハッキリ表明できて、気の乗らない飲み会ならば当然パス……なんてのは幻想で、外資系企業の雇用形態を考えると、むしろ日本よりも用心深く空気を読む「暗黙の気づかい文化」が色濃い。上司と円満な関係を保ち、成果も出す。そうしないと立場が危うい——そんなサバイバル事情がカラオケシーンからも感じられる。

外資系の容赦ないサバイバル事情トークを和ませてくれた配膳ロボット。スーパードライのエクストラコールドと、コート・ダジュール名物「金のポテト」をオーダー

「歌本の“A”から“ABBA”を見つけて歌っとけ!」

では外資系カラオケの選曲事情はどうなのだろうか。日本でいう『Ultra Soul』のような「とりあえず全員がなんとなくブチ上がる定番楽曲」はあるのか。

「弊社の定番はバックストリート・ボーイズやオアシス、ボン・ジョヴィですね。あとはクイーンの『ウィー・アー・ザ・チャンピオン』を、目標を達成したチームをたたえる“替え歌”にして歌ったり」とキャサリン氏は説明する。替え歌をガッツリ入れるあたりに気づかい文化を感じる。

今では手慣れた様子でビートルズの『オール・マイ・ラビング』をカラオケの端末に入力し陽気に歌うキャサリン氏にも、戸惑いの時代はあったという。

「私が初めてアメリカの本社に行った時も、もちろんカラオケのことは心配していました。間違いなくカラオケ大会が催されることも、そしてそれをパスしないほうがよいこともわかっていました。ただ、何を歌えばいいのかわからなくて。で、現地に暮らす日本人の友人に相談したら『カラオケの“歌本”を開いて、目次の“A”から“ABBA”、“B”から“Bon Jovi”を見つけて歌っておけ! 百科事典みたいに分厚い本でも、ABBAならAの最初のページに並んでてスグに見つかるから!』とアドバイスされて、その通りにしました。あの頃は分厚い百科事典みたいな歌本から曲を入れていたんですよね」と当時を振り返る。

写真上から右回りで金のポテトのトリュフ、松阪牛、松茸。松阪牛が最も風味のパンチが強かった。食べる順番は松茸→トリュフ→松阪牛がオススメ

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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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