寒い・痛いと無縁の快適な「避難用寝具・寝袋」はどれか、家族で実際に試してみた。

2023.7.5

2月に起きた「トルコ・シリア地震」の衝撃

真冬を想定し用意しても実際に快適かは不明？

2023年2月6日トルコ東南部を震源に発生した「トルコ・シリア地震」を覚えているでしょうか。5万人を超える方が亡くなり、多くの建物が倒壊した大災害に心を痛めた方も多いと思います。2月に発生したこともあり、現地の最低気温はマイナス6度とも報道され、地震で命を落とさなくても、被災後に凍死する可能性もあるということでした。

2018年に「北海道胆振東部地震」を体験している筆者は「トルコ・シリア地震」がまったくひとごととは思えません。「北海道胆振東部地震」は9月でしたが、多くの友人・知人が「もし、これが冬だったら死んでいたね」と口にしていたことをよく覚えています。

最近は災害が多いこともあり、多くの方がある程度の水や食糧を備蓄しているでしょう。しかし、真冬に被災して電気や暖房が使えない真っ暗で冷え切った自宅で眠ることや、避難所に指定された体育館や公民館などで眠ることを想定していますか？　筆者もあまりしっかりと考えていなかったことに気が付きました。

「1日や2日ならなんとか我慢できる」と思っていたわけです。しかし大規模災害時は、避難所暮らしが1日や2日で終わるとは思えませんし、自分だけではなく2歳の息子や妻はどうするのでしょうか？　地震なら余震の恐怖におびえ、寒さで熟睡もできないなど、たった2日間でも想像もしたくありません。

そこで水や食料にプラスして、長時間使うことになる被災時の「寝具」に関しても、今一度見直してみることにしました。

札幌を除いた4大都市圏の1、2月の平均気温はあまり変わらない

今回のテストでは、4月の北海道千歳市で暖房を切ったキャンピングカーで寝てみました。外気温はだいたい最低が0度、最高が10度程度です

冬の避難所を想定して零下数度に耐えられる寝具でテスト

漠然と「真冬に災害が起きたらどうしょう」と思っていても仕方ないので、多くの方が住んでいるであろう東京の平均気温を調べてみました。東京がもっとも寒いのは1月と2月でだいたい最低気温が2度、最高気温が10度程度だそうです。ちなみに筆者の住む北海道千歳市は最低気温がマイナス12度、最高がマイナス2度前後と半端じゃなく寒いです。しかし、大阪は意外なことに東京とほぼ変わらず、名古屋もほとんど一緒です。さらに福岡も実はあまり変わりません。

実は札幌市を除く5大都市圏の総人口約5650万人で、日本の人口の約45％を占めています。そしてこれらの都市圏では、真冬の1、2月でも0度を少し下回る程度、最高気温は10度前後くらいに対応できる寝具を用意しておけば、少なくても凍死といった最悪の事態は回避できるといえるようです。

とはいえ、実際に災害があったことを想定しても、さすがに屋外で眠ることはないと思います。近くの避難所の体育館であったり、公民館的な場所といった場所で眠ることになるのではないでしょうか。もしかすると暖房は動いていないのかもしれません。

そこで平均気温の最低が0度を下回る程度、最高気温が10度前後である4月の北海道千歳市で、断熱性の低いプレハブ住宅を想定し、暖房を切ったキャンピングカーの車内で実際に寝袋を使って寝てみました。

寝袋の中は暖かいが、積極的に行動したいと思う室温ではない

実験に使用したキャプテンスタッグの「フォルススリーピングバッグ 3」。快適温度：約−3度、使用限界温度：約−9度の製品です

ちょっと大げさに感じるが使用限界温度約−9度の「フォルススリーピングバッグ 3」を用意

筆者が実際に暖房を切ったキャンピングカーのなかで寝袋・キャプテンスタッグの「フォルススリーピングバッグ 3」を使って就寝してみた日の気温は最高気温が10度、最低気温が−1度。まさに札幌以外の5大都市圏の真冬の気温とほぼ同じでした。

用意した寝袋、キャプテンスタッグの「フォルススリーピングバッグ 3」（実勢価格9500円前後）での快適温度は約−3度、使用限界温度は約−9度です。−9度は少し大げさだと思う方もいるでしょうが、使用限界温度なので実際にこの気温で使用すると寝袋の中でガタガタと震えることになるでしょう。

また、平均気温から想定しているので、実際には東京などでも−3度くらいまでは快適に過ごせないと、被災時に頼りになりません。キャプテンスタッグの「フォルススリーピングバッグ 3」は実勢価格が1万円を切るところも現実的です。ちなみに東京の過去最低気温は東京都千代田区で−9.2度（1876年）という記録があるので使用限界温度約−9度は単純に大げさとも言えません。

最初はキャンピングカーのベッドの上に寝袋を敷いて、そのまま寝ようと考えていました。しかし、現実には体育館や公民館に避難して寝ると想定すると板張りの床などに寝袋などを敷いて寝ることになるでしょう。筆者の場合は、板張りの床に寝袋では、痛くてまったく眠ることができないので、同じキャプテンスタッグの「イージーライトコット」（実勢価格1万2000円前後）と「EVAフォームマット56×182cm」（実勢価格2500円前後）も用意しました。

コットとマットを用意しておいて、本当に良かったと痛感することになりました。この2つは本当に重要

室内温度は約10度、寝袋から出る気がまったく起こらない

キャンピングカーの中に設置した温度計。寝はじめた夜の22時に10.1度、湿度49％でしたが、朝方の3時半でも気温は9.9度、湿度は61％でした

外気温は0度前後といっても、プレハブ程度の断熱効果しか期待できないそうなキャンピングカーでも室内温度は約10度。夜の22時でも、朝の3時半でも、室温はほとんど変わりませんでした。それでも、はっきり言って、とても寒いわけです。パジャマではなく、ゆるめのジーンズと長袖Tシャツでキャプテンスタッグの「フォルススリーピングバッグ 3」に潜り込んだのですが、寝袋の中に入っている部分はまったく問題ないのですが、手などを出したり、寝袋から出て何か行動したりすると、その意欲がそがれるほど寒い。まったく寝袋から出たくありません。

−9度まで耐えられる寝袋で10度だと「暑いのでは？」と思うでしょうが、筆者は暑くて困るとは一度も思いませんでした。少なくとも寝袋の包まれている部分はとても快適です。

逆に気になったのが、気温や体温よりも寝心地。キャンピングカーのクッションを撤去した板の間の上にキャプテンスタッグの「イージーライトコット」と「EVAフォームマット56×182cm」を設置して寝てみたのですが、それではキャンピングカーの板の床がきしむ音やちょっとしたガタつきなどが気になって、やはり普段のようには寝られません。これがフローリングなどに寝袋を直接敷いては、被災時にはまわりの音なども気になって一睡もできないと思います。

死なないための体温の保護は当たり前ですが、寝心地が確保されないと、実際に眠ることはできないというのが筆者の素直な感想です。キャンピングカーの中にたった1人、プライバシーが完全に保たれている環境でも意外と熟睡できません。暖かい寝袋があれば、被災した際にもどうにかなるだろうと筆者は思っていたのですが、本当に避難先などで疲れがとれるほど眠ろうと思ったら、寝心地を確保するマットやコットはとても重要だと痛感しました。また、余裕があれば、耳栓やアイマスクといったアイテムも用意しておくと良いでしょう。