クリプト(暗号)という言葉のカオス
最後にひとつ、翻訳上で考慮した点について触れておきたい。それは「クリプト(crypto)」という単語の訳し方だ。
クリプトとはクリプトグラフィー(cryptography、暗号学や暗号化技術を意味する名詞)を略したもので、形容詞的に使われる場合があるほか、接頭語として「暗号の」や「秘密の」といった意味を付与する場合にも使われる。ただし金融の文脈でこの単語が使われる場合、それは「クリプトカレンシー(暗号通貨)」や「クリプトアセット(暗号資産)」の略であることが多い。
暗号通貨とは、通貨のように財産的価値を持ち、他人との受け渡しが可能なデータで、取引履歴の安全性や完全性を保障するために暗号化技術が使われている。それが「暗号通貨」と呼ばれるゆえんなわけだが、それはあくまでデジタルのデータであるため、アナログな通貨にはできないさまざまな設定や機能を付加できる。
例えば本書でも言及されているのだが、所有者に何らかの権利が与えられるように設定された暗号通貨がある。それは「証券」に等しい存在と見なされている。。またそうした機能面の特徴を主目的としたものも登場している。つまり「通貨」という枠に収まらない存在になってきたため、次第に「暗号通貨」から「暗号資産」という表現に変わっていったのだ。
原著では「暗号通貨」と明示的に記されている箇所もあったが、単に「クリプト」と表記されていることが多かった。その場合、大半は「暗号資産」と訳したが、文脈上から「暗号通貨」と訳している箇所もある。
またお気づきの方も多いと思うが、邦訳のタイトルには「仮想通貨」という言葉が使われている。これは日本の場合、「暗号資産」を指すときにも「仮想通貨」と表記される場合が多く(日本銀行のホームページ上でも「暗号資産(仮想通貨)」と表現している箇所がある)、この呼び方が定着していることから、タイトルに採用することを決めた。この辺りは、本書の内容を瞬時に伝えるための工夫と考えていただければ幸いだ。
こうした表現の問題が生じるのも、“クリプト界隈”が依然として未成熟な段階にあることの証かもしれない。そして金融業界を問わず、ありとあらゆる業界で見られる複雑な(そして面倒くさい)ガバナンスの仕組みは、過去の長い歴史の中で繰り返されてきた、犯罪や失敗から得られた教訓という土台の上に構築されている。
その意味でクリプト界隈は、今なおあいまいなガバナンスが許されるほど混沌(こんとん)としている。サム・バンクマン=フリードというほかに類を見ない人物も、そんな混沌とした世界が産んだ存在といえるのではないだろうか。
クリプトとはクリプトグラフィー(cryptography、暗号学や暗号化技術を意味する名詞)を略したもので、形容詞的に使われる場合があるほか、接頭語として「暗号の」や「秘密の」といった意味を付与する場合にも使われる。ただし金融の文脈でこの単語が使われる場合、それは「クリプトカレンシー(暗号通貨)」や「クリプトアセット(暗号資産)」の略であることが多い。
暗号通貨とは、通貨のように財産的価値を持ち、他人との受け渡しが可能なデータで、取引履歴の安全性や完全性を保障するために暗号化技術が使われている。それが「暗号通貨」と呼ばれるゆえんなわけだが、それはあくまでデジタルのデータであるため、アナログな通貨にはできないさまざまな設定や機能を付加できる。
例えば本書でも言及されているのだが、所有者に何らかの権利が与えられるように設定された暗号通貨がある。それは「証券」に等しい存在と見なされている。。またそうした機能面の特徴を主目的としたものも登場している。つまり「通貨」という枠に収まらない存在になってきたため、次第に「暗号通貨」から「暗号資産」という表現に変わっていったのだ。
原著では「暗号通貨」と明示的に記されている箇所もあったが、単に「クリプト」と表記されていることが多かった。その場合、大半は「暗号資産」と訳したが、文脈上から「暗号通貨」と訳している箇所もある。
またお気づきの方も多いと思うが、邦訳のタイトルには「仮想通貨」という言葉が使われている。これは日本の場合、「暗号資産」を指すときにも「仮想通貨」と表記される場合が多く(日本銀行のホームページ上でも「暗号資産(仮想通貨)」と表現している箇所がある)、この呼び方が定着していることから、タイトルに採用することを決めた。この辺りは、本書の内容を瞬時に伝えるための工夫と考えていただければ幸いだ。
こうした表現の問題が生じるのも、“クリプト界隈”が依然として未成熟な段階にあることの証かもしれない。そして金融業界を問わず、ありとあらゆる業界で見られる複雑な(そして面倒くさい)ガバナンスの仕組みは、過去の長い歴史の中で繰り返されてきた、犯罪や失敗から得られた教訓という土台の上に構築されている。
その意味でクリプト界隈は、今なおあいまいなガバナンスが許されるほど混沌(こんとん)としている。サム・バンクマン=フリードというほかに類を見ない人物も、そんな混沌とした世界が産んだ存在といえるのではないだろうか。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。