スーパーコンピューターの数億~数兆倍の処理能力ともいわれる「量子コンピューター」。すごいということはわかるが、そのすごさは具体的にどのようなもので、そして私たちの生活をどう変えるのだろうか。
よく耳にするようになった「量子コンピューター」とは何か、その現在と未来についてその開発、利用を進める2人に実のところを聞いた。
よく耳にするようになった「量子コンピューター」とは何か、その現在と未来についてその開発、利用を進める2人に実のところを聞いた。
実用化はまだ先!? しかし研究を進めなければ乗り遅れる
量子コンピューターは、量子の不思議なふるまいを利用したコンピューターのことだ。この量子は光や物質の最小単位で、目に見えないけれどインターネットで通信できたり、衛星から瞬時にデータが届いたりするのも量子の性質のおかげ。
これを理論化したのが「量子力学」で、高校で学ぶ物理学(古典力学)の範囲を超えてしまうため、量子コンピューターの世界は非常に難解だ。しかし「現行のコンピューターでは計算できない難問が一瞬で終わる」なんて聞くと、世界が変わりそうなワクワク感がある。
実際、ここ20年あまりでコンピューターが生活により深く入ってきたことで、それ以前の暮らし方や仕事のやり方も忘れてしまった人もいるだろう。そこへ、文字通りケタ違いの性能を持つ量子コンピューターが登場するとなれば、私たちの生活はさらに良いものになるはず。
2021年現在の量子コンピュータ業界を見てみると、GoogleやIBMはハード開発を進めており、AmazonのAWSやマイクロソフトのAzureでは量子コンピューティングのサービスがすでに始まっている。
そんな話を聞くと、もうすぐに量子コンピューターの時代がやって来るのでは? と期待が高まるが、GMOインターネットのプログラマーである新里祐教氏によると、現状はまだ基礎研究の段階で社会実装はもう少し先の話のようだ。
「量子コンピューターというと、なんだかすごいもの、スーパーコンピューターの数億倍、数兆倍のすごい処理能力という話はよく目にすると思いますが、実際にそのレベルに到達するまで僕は生きていないかもしれません」と40代の新里氏はいう。
これを理論化したのが「量子力学」で、高校で学ぶ物理学(古典力学)の範囲を超えてしまうため、量子コンピューターの世界は非常に難解だ。しかし「現行のコンピューターでは計算できない難問が一瞬で終わる」なんて聞くと、世界が変わりそうなワクワク感がある。
実際、ここ20年あまりでコンピューターが生活により深く入ってきたことで、それ以前の暮らし方や仕事のやり方も忘れてしまった人もいるだろう。そこへ、文字通りケタ違いの性能を持つ量子コンピューターが登場するとなれば、私たちの生活はさらに良いものになるはず。
2021年現在の量子コンピュータ業界を見てみると、GoogleやIBMはハード開発を進めており、AmazonのAWSやマイクロソフトのAzureでは量子コンピューティングのサービスがすでに始まっている。
そんな話を聞くと、もうすぐに量子コンピューターの時代がやって来るのでは? と期待が高まるが、GMOインターネットのプログラマーである新里祐教氏によると、現状はまだ基礎研究の段階で社会実装はもう少し先の話のようだ。
「量子コンピューターというと、なんだかすごいもの、スーパーコンピューターの数億倍、数兆倍のすごい処理能力という話はよく目にすると思いますが、実際にそのレベルに到達するまで僕は生きていないかもしれません」と40代の新里氏はいう。
GMOインターネット プログラマー 新里祐教氏
実際のところは「量子の制御が難しく、ハードウェアは不安定な状態。現状の量子コンピューターで扱えるのは100ビット以下です。これを数千ビットへと増やしていく必要がありますが、ビット数を増やす仕組みはまだ確立されていません。ソフトウェアのプログラミングも難解なので、コンピューターとして成立するまでには、少なくとも40~50年はかかるでしょうね」(新里氏)とのことだ。
つまり現在は、量子コンピューターは、コンピューターとして成立していない状態。目にする「数億倍、数兆倍の処理能力」という表現は、実現できた場合であって、現状では少々盛ったところもあるということだ。
その一方で、GoogleやIBMの開発するハードウェアは、量子ビットをスケールアップさせる計画を進行中だ。またAmazonのAWSでは、実際に組合わせ最適化問題に特化したアニーリング方式の量子コンピューティングサービスがすでに始まっている。この組合わせ最適化問題とは、多数の選択肢がある中で、最も良い組合わせを選ぶというもので、乗り換え案内のような出発地と目的地をつなぐ最適な経路の探索などが挙げられる。
量子コンピュータはこのアニーリング方式とゲート方式の2つに大別される。ゲート方式は、現在の計算機の処理単位「bit」を「量子bit」に置き換えたもの。一方、アニーリング方式は、自然の法則を活用して最小エネルギー状態を探索する量子計算機のことで、金属の焼きなまし処理とよく似た処理を量子を使って行う。ゲート方式と比べると、シンプルに実現できるため、幅広い実用化を想定できる段階まできているという。
モノが出来上がってから何に使うかを考えるのでは遅い。ハード開発と同時進行して使い道も考えているのが今の状況なのだ。
「量子コンピューターの世界では、利用されるアルゴリズムの研究が先行しており、コンピューターハードウェアの進化待ちです。ハードウェアは50年経っても完成しない可能性があると同時に、急にブレークスルーする可能性もあるという状態です。今すぐに使えないから、と何も研究しないでいると乗り遅れてしまいますからね」と語るのは、GMOシステムコンサルティング 量子計算コンサルタント 畔上文昭氏はいう。
つまり現在は、量子コンピューターは、コンピューターとして成立していない状態。目にする「数億倍、数兆倍の処理能力」という表現は、実現できた場合であって、現状では少々盛ったところもあるということだ。
その一方で、GoogleやIBMの開発するハードウェアは、量子ビットをスケールアップさせる計画を進行中だ。またAmazonのAWSでは、実際に組合わせ最適化問題に特化したアニーリング方式の量子コンピューティングサービスがすでに始まっている。この組合わせ最適化問題とは、多数の選択肢がある中で、最も良い組合わせを選ぶというもので、乗り換え案内のような出発地と目的地をつなぐ最適な経路の探索などが挙げられる。
量子コンピュータはこのアニーリング方式とゲート方式の2つに大別される。ゲート方式は、現在の計算機の処理単位「bit」を「量子bit」に置き換えたもの。一方、アニーリング方式は、自然の法則を活用して最小エネルギー状態を探索する量子計算機のことで、金属の焼きなまし処理とよく似た処理を量子を使って行う。ゲート方式と比べると、シンプルに実現できるため、幅広い実用化を想定できる段階まできているという。
モノが出来上がってから何に使うかを考えるのでは遅い。ハード開発と同時進行して使い道も考えているのが今の状況なのだ。
「量子コンピューターの世界では、利用されるアルゴリズムの研究が先行しており、コンピューターハードウェアの進化待ちです。ハードウェアは50年経っても完成しない可能性があると同時に、急にブレークスルーする可能性もあるという状態です。今すぐに使えないから、と何も研究しないでいると乗り遅れてしまいますからね」と語るのは、GMOシステムコンサルティング 量子計算コンサルタント 畔上文昭氏はいう。
GMOシステムコンサルティング 量子計算コンサルタント 畔上文昭氏
ちなみに、将来、理想的な量子コンピューターが実現しても、表計算ソフトでやっているような処理は既存のコンピューターを使うことになるとのこと。つまり、量子コンピューターならではの使い道を今のうちに考えておく必要があるわけだ。
松下 典子