そんな進化の過程にある量子コンピューターだが、GMOシステムコンサルティングでは実用化が進んでいるアニーリング方式量子コンピューターのサービスを利用した模索をすでに行っている。

「アニーリング方式を選択したのは、組合わせ最適化問題に特化したマシンであったことと、汎用量子コンピューターのゲート方式に比べて実用化が進んでいる分、手をつけることができそうだったことがあります。アニーリング方式が実現する組合わせ最適化問題は、ビジネスのあらゆるところで課題になっているため、活用範囲も広いと思います。

とはいえ現在は、AIなど既存の手法よりも量子コンピューターが優れているかはまだ証明されていませんので、あえて量子コンピューターを使う必要はないかもしれません。しかし、いろんな選択肢があったほうがおもしろいでしょう」と畔上氏。

アニーリング方式のサービスはすでに開始されているが、大別されるもうひとつの方式である汎用のゲート方式は、先に新里氏が述べたとおりまだまだの状況だ。

畔上氏たちは、実際に量子コンピューターで、「複数の都市を1回だけ訪れる場合、セールスマンの移動距離を最短にするにはどのように回ればいいのか」という組合わせ最適化問題の典型例である巡回セールスマン問題を解いてみたが、残念ながらいい答えは出なかったそうだ。量子コンピューターを使いこなすのは一筋縄にはいかないらしい。

そこでGMOシステムコンサルティングは2021年6月に、量子コンピューター事業を手掛けるスタートアップblueqat株式会社と協業し、現在はECサイトでの活用に向けて研究に取り組み始めた。

「量子コンピューターのクラウドサービスがすでに商用化されていますが、まだアニーリング方式が中心。アニーリングは用途が限定されるので、いい結果が出ずに実証実験で終わりがちです。ビジネスに本格導入するには、汎用ゲート方式の完成を待つことになるでしょう。もちろん、アニーリングに適したものであれば、すぐに実用化できる部分もあります。いまは社内でシミュレーション環境を構築しており、本物の量子コンピューターではないけれど、顧客ニーズに合わせてシミュレーターでの提供も検討しています」と畔上氏は語る。

現在、量子コンピューターの活用に取り組んでいる企業は、材料開発や金融予測など限られた分野だが、ゲート方式の汎用的な量子コンピューターが完成すれば、研究開発以外のあらゆる領域で使えるようになる。畔上氏が取り組むECサイトの商品陳列やレコメンドといった用途は、こうした新しいアイデアの1つだ。

「量子コンピューティングは、そもそも宇宙の原理を把握するための計算。買い物の衝動的な消費者の行動、言葉で説明できない人間の不思議はふるまいを量子コンピューターなら分析できる可能性があります。デジタルのゼロイチでは実現できなかった、気持ちいい買い物の体験ができるようになるかもしいれない。量子コンピューターが実現すれば、人間が気持ちいいと思えるサービスの最適化へと、最終的にはたどり着くんじゃないでしょうか」（畔上氏）

人の意識や衝動的な行動を量子力学的に解明する「量子脳理論」という研究分野も存在しており、未来には自然の本質的な物事が量子コンピューターによって解明されていくのかもしれない。

先の長い研究だからこそ、多くの人に興味を持ってもらい、すそ野を広げていくことが大事。処理速度やアルゴリズムの研究の話ばかりでは、一般の人には伝わらない。

新里氏は、量子コンピューターのおもしろさを一般の人にも知ってもらうため、イベントなどで量子コンピューターの動きを可視化した作品を展示し、量子計算を体験してもらう活動を続けている。

世界が一変するその日のため、一歩一歩前進している量子コンピューターの研究。使い方の模索や開発者の研究は着実に進められている。