ヤモリや昆虫がお手本?生物模倣(バイオミメティクス)ロボット最前線

Munenori Taniguchi

Specialテクノロジー
SF作家たちは、数十年にわたりロボットが重要な仕事をする世界を描いてきました。SF・ミステリー作家として名高いアイザック・アシモフが残した短編小説には「ロボット蜂」が登場します。

ロボットは通常、何か特定のタスクや目的を達成するために開発されるものですが、その目的達成に必要な能力をどうロボットに与えるかは、研究者たちの発想力にかかっています。そして一部の研究者たちは、昆虫やその他の生物が持つ特徴を応用する「生物模倣(バイオミメティクス)」と呼ばれる手法によって、求められる能力をロボットに授けます。

研究者や開発者たちは生物の動きや特徴を研究し、その優れた効率性を新幹線や家電製品などに取り入れてきました。同様にロボットの分野でも自然の知恵を取り入れた生物模倣(バイオミメティクス)ロボットがいくつも開発され、実用化に向けた研究が進められています。

まるでヤモリ!?壁に吸着して歩くロボット

カリフォルニア州パサデナにあるNASAのジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory、以下NASA JPL)の科学者は、壁面を簡単に移動できるヤモリの足の裏の仕組みを、ロボットに応用することを発案しました。

ヤモリは種類によっては最大40cm近くにもなりますが、それほど大きくなっても、壁面や天井をスルスルと歩き回ることができます。その仕組みは、ヤモリの足の裏に約50万本も生えている人毛よりも細い「セタ」と呼ばれる毛に秘密があります。セタの1本1本の先端は数百の「スパチュラ」と呼ばれる微細毛に覆われており、このスパチュラが壁の分子との間に生じる物理吸着現象(ファンデルワールス力)を強力にしていることが、2000年にカリフォルニア大学の研究によって証明されました。

NASA JPLは当初、古くなった人工衛星を回収するなどの宇宙活動に、このグリップ技術の採用を検討しました。また宇宙飛行士が眠る際に、身体を船体の壁などに固定するための寝袋やストラップなどが不要になるとも考えました。

しかし2013年ごろにはこの研究の方針が変わり、軌道上の人工衛星を修理するために機体に吸い付く足を持つロボットのプロジェクトへ移行しました。

NASAによる「人工衛星の機体に吸い付くロボット」のイメージCG(出典:NASA / JPL-Caltech)

そしてプロジェクトに携わっていた研究者のニック・ウェッテルズ氏は、その後ロボットグリッパーを初めて開発した企業・OnRobotの研究開発ディレクターになり、ヤモリの足の仕組みをベースとした産業用ロボットグリッパー「Gecko Gripper」を開発しました。

Gecko Gripperは、ソーラーパネルから電子回路基板まで、表面が滑らかな物に対しては35~40kPa(キロパスカル)の吸着力を発揮し、最大約6.4kgの物を持ち上げることができます。NASA JPLが開発に着手した当初のロボットの最大吸着力が4~5kPaだったことを考えると、その技術進歩は目覚ましいものです。またOnRobotの紹介動画では、その技術がいかに産業界で役立つものであるかもよくわかります。

OnRobotの産業用ロボットグリッパー「Gecko Gripper」紹介動画

バッテリーより優秀!?昆虫のスタミナ源がお手本のロボット

ワシントン州立大学の自律型マイクロロボットシステム研究所のペレス・アランシビア所長は、昆虫の身体の仕組みを化学的な側面から模倣して動作するマイクロロボットを研究しています。

昆虫サイズで自律的に動くマイクロロボットは「作物の受粉」や「地震などの災害時に建物などに閉じ込められた人の捜索」、さらに「汚染地域での環境データ収集」や「洞窟探検」などに応用できる可能性があるとアランシビア所長は述べています。
昆虫の身体で意外と知られていないのは、その体脂肪が非常に優れたエネルギー源であることです。現在の最高性能のバッテリーでもエネルギー密度は昆虫の体脂肪の約30分の1ほどしかないと所長は説明します。

そしてアランシビア所長は、昆虫の体脂肪をエネルギー源とする仕組みを模倣し、メタノールをエネルギー源に採用したロボット「RoboBeetle」を2020年に発表しました。RoboBeetleは、形状記憶合金ワイヤーを筋肉として利用し、燃料タンクから気化するメタノールが、このワイヤーに反応してRoboBeetleの足を動かします。

液体燃料で歩く「RoboBeetle」 (出典:X. Yang, L. Chang, N.O. Pérez-Arancibia / Sci. Robotics 2020)

RoboBeetleは世界最小の液体燃料ロボットとして、ギネス世界記録に認定されました。

RoboBeetle
さらに、アランシビア所長の研究室では、電子回路基板、センサー、カーボンファイバー製のフレームなどを使い、昆虫から着想を得たさまざまなマイクロロボットの開発に学生たちを交えて取り組んでいます。

アランシビア所長は、2024年には重量8mgという超軽量の昆虫型マイクロロボット、その名も「mini-bug」を発表しました。mini-bugの開発では、この小さなロボットを動かすために、重量1mg未満まで小型化した極小アクチュエーター(電気や圧力を動力にして機械を動かす装置)を作りました。このアクチュエーターにも形状記憶合金を使用しており、電流を流したり止めたりすれば瞬時に発熱・冷却できるため、1秒間に最大40回も動作可能です。

左から「アメンボ型ロボット」と重量8mgの超軽量マイクロロボット「mini-bug」 (出典:Washington State University)

この極小アクチュエーターにより、mini-bugは秒速6mmで移動できるようになりました。

さらに研究者らはこの仕組みを応用し、左右に伸びた羽根のような腕で水をかいて動くアメンボ型ロボットも作成しました。現在、研究者たちは小型バッテリーや触媒燃焼を使用して、ロボットを完全に自律的に動作させる研究を行っています。
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Munenori Taniguchi

ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他 Twitter:@mu_taniguchi

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