2024年9月10日、ボーイングが開発したNASAの宇宙船「CST-100 スターライナー」が、国際宇宙ステーション(ISS)から無人で地上に帰還し、初の有人テスト飛行ミッションを終了しました。
2人の宇宙飛行士が搭乗し、6月6日にISSにドッキングしたこの新しい宇宙船は、ISSにドッキングするまでに複数のスラスター(推進装置)が機能しなくなったり、ヘリウムガスが漏れたりと、複数のトラブルが発生したため、NASAは3カ月もの時間をかけてトラブルの検証や安全性の検討を行った結果、飛行士らをISSにとどまらせ、宇宙船だけを無人で地上に帰還させたのです。
2人の宇宙飛行士が搭乗し、6月6日にISSにドッキングしたこの新しい宇宙船は、ISSにドッキングするまでに複数のスラスター(推進装置)が機能しなくなったり、ヘリウムガスが漏れたりと、複数のトラブルが発生したため、NASAは3カ月もの時間をかけてトラブルの検証や安全性の検討を行った結果、飛行士らをISSにとどまらせ、宇宙船だけを無人で地上に帰還させたのです。
ボーイング CST-100 Starliner宇宙船(出典:NASA)
その結果、ISSに残された飛行士のブッチ・ウィルモア氏、スニータ・ウィリアムズ氏の2人は、ISSにやって来る次の宇宙船を待つことになりました。
「無重力環境」とは?
すでにISSには、残されたスターライナーの飛行士2人が帰還する別の宇宙船「SpaceX Crew Dragon」がドッキングしています。しかしこの宇宙船は本来の長期滞在ミッションのためにISSに来ているため、2人の帰還もSpaceX Crew Dragonのミッションが終わる2025年2月までお預けとなります。
2025年2月に帰還予定のブッチ・ウィルモア飛行士とスニータ・ウィリアムズ飛行士(出典:NASA)
スターライナーの飛行士たちにとっては予定外の長期宇宙滞在ですが、近年、世界の宇宙機関は有人月面探査や、さらには深宇宙への前線基地としての月軌道宇宙ステーションの建造などを計画しており、飛行士たちが宇宙に本格的に長期間滞在する機会が今後は増えていくと思われます。
宇宙ステーションの中のような無重力環境に長期間滞在していると、人の体にはその環境に適応するための変化が現れます。それはいったいどんなものでしょうか。
実は、ある物体に対して何らかの重力がまったく影響しない場所は、どこにも存在しません。国際宇宙ステーション(ISS)の軌道は地球から400km上空であり、そこでは地上よりも10%ほど弱まっているものの、しっかりと重力が作用しています。では、なぜISSや人工衛星は地球に落ちてこないのでしょうか。それは、軌道を高速で周回することで発生する遠心力、つまり地球から離れようとする力が重力と釣り合うようになっているからです。
重力で地球に引っ張られる力と遠心力が釣り合えば、そこにある物の重さは見かけ上なくなります。それが“無重量”状態です。つまり厳密にいえば、ISSの中は無重力ではなく無重量環境ということになります。ただ、無重量という言葉はわれわれになじみなく、無重力のほうが直観的に理解しやすいので、この記事では無重力と記述します。
宇宙ステーションの中のような無重力環境に長期間滞在していると、人の体にはその環境に適応するための変化が現れます。それはいったいどんなものでしょうか。
実は、ある物体に対して何らかの重力がまったく影響しない場所は、どこにも存在しません。国際宇宙ステーション(ISS)の軌道は地球から400km上空であり、そこでは地上よりも10%ほど弱まっているものの、しっかりと重力が作用しています。では、なぜISSや人工衛星は地球に落ちてこないのでしょうか。それは、軌道を高速で周回することで発生する遠心力、つまり地球から離れようとする力が重力と釣り合うようになっているからです。
重力で地球に引っ張られる力と遠心力が釣り合えば、そこにある物の重さは見かけ上なくなります。それが“無重量”状態です。つまり厳密にいえば、ISSの中は無重力ではなく無重量環境ということになります。ただ、無重量という言葉はわれわれになじみなく、無重力のほうが直観的に理解しやすいので、この記事では無重力と記述します。
無重力状態は体をむしばむ?
SS長期滞在ミッションに臨む飛行士たちは、だいたい4~6カ月ほどの期間を軌道上で過ごすことになります。またNASAのアルテミス計画では、人類が月面探査や火星、その先の深宇宙を目指すための前線基地として、月軌道に新たな宇宙ステーション、月周回有人拠点 Gatewayを建造することを計画しています。
月周回有人拠点 Gateway CGイメージ(出典:NASA)
宇宙船や宇宙ステーションのような重力の影響がほとんどない環境で長期間滞在していると、微小重力、閉鎖空間、放射線環境という宇宙での生活に適応しようとするため、地球上での生活に合わせて進化してきた人間の体に少なからず変化が現れます。
例えば地上では地球の重力によって、あらゆる物に1Gの負荷がかかります。それに合わせて、人の体は物を持ち上げたり運んだり、自分の体を支えるために必要な筋力を維持しています。
しかし無重力の宇宙滞在では、そうした筋力を維持する必要がなくなります。宇宙に出るとまず最初に体を支えていた脚や背中、首の筋肉が衰え、萎縮していきます。そのペースは、最初の2週間で全体の20%の筋肉が減少し、6カ月ほどの長期滞在では、およそ30%もの筋肉量が減る可能性があるといわれています。
また重力に逆らって脳に血液を押し上げたりする心血管系は宇宙でも問題なく機能しますが、やはり血液を強く送り出す必要がなくなるため、滞在が長期になるほど心臓の筋肉が衰えてしまい、地上に戻ったときに起立性低血圧という貧血のような症状が出やすくなります。
ISSに滞在中の飛行士たちは、上記のような筋力の低下を補うため、一日に2時間半もの時間を、スクワットやローイング、ベンチプレスなどの運動にあてて、筋力の維持に努めています。
例えば地上では地球の重力によって、あらゆる物に1Gの負荷がかかります。それに合わせて、人の体は物を持ち上げたり運んだり、自分の体を支えるために必要な筋力を維持しています。
しかし無重力の宇宙滞在では、そうした筋力を維持する必要がなくなります。宇宙に出るとまず最初に体を支えていた脚や背中、首の筋肉が衰え、萎縮していきます。そのペースは、最初の2週間で全体の20%の筋肉が減少し、6カ月ほどの長期滞在では、およそ30%もの筋肉量が減る可能性があるといわれています。
また重力に逆らって脳に血液を押し上げたりする心血管系は宇宙でも問題なく機能しますが、やはり血液を強く送り出す必要がなくなるため、滞在が長期になるほど心臓の筋肉が衰えてしまい、地上に戻ったときに起立性低血圧という貧血のような症状が出やすくなります。
ISSに滞在中の飛行士たちは、上記のような筋力の低下を補うため、一日に2時間半もの時間を、スクワットやローイング、ベンチプレスなどの運動にあてて、筋力の維持に努めています。
ISSでも飛行士はトレーニングを怠りません(出典:ESA, NASA)
Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi