宇宙空間で骨がスカスカに?
宇宙空間で弱ってしまうのは筋力だけではありません。体を支えるためのもう一つの要素である骨にも変化が現れます。地上では重力によって体が下に引っ張られるため、それに抵抗して体格を維持する必要がありますが、無重力の環境ではその必要がなくなるため、飛行士の身長が伸びることがあります。これは地上で常に圧迫されていた椎間板が伸びることによって生じる現象ですが、そのせいでヘルニアを引き起こしたり、無重力によって腰への負担が軽減されるにもかかわらず、腰痛を引き起こす原因になる場合があります。
骨の構造そのものも無重力環境では変化します。体を支えるための強度を維持する必要がなくなるため、カルシウムが溶出しやすくなり、骨の内部がスカスカの状態になります。さらに、新たな骨細胞も形成されにくくなります。宇宙空間での骨密度の減少は、1カ月間で1.5%にもなり、これは高齢者の骨粗しょう症が進行する速度の10倍です。
骨の構造そのものも無重力環境では変化します。体を支えるための強度を維持する必要がなくなるため、カルシウムが溶出しやすくなり、骨の内部がスカスカの状態になります。さらに、新たな骨細胞も形成されにくくなります。宇宙空間での骨密度の減少は、1カ月間で1.5%にもなり、これは高齢者の骨粗しょう症が進行する速度の10倍です。
無重力環境で暮らすと足はスリムになるが……?
また、地上では重力によって下半身に偏っている体内の水分が、無重力環境では上半身にも均等に行き渡るようになります。その結果、地上にいるときよりも足がスリムになる一方、頭部は通常よりも血液が充満した状態になり、顔がむくんだり、鼻が詰まり気味になったりします。
消化器系も重力の喪失の影響を受けます。食事を取ったあとに、消化器官内で食物を移動させる重力がないと、胃腸の動きが低下する可能性があるのです。
ほかにも、頭部に溜まった体液が目の奥や視神経を圧迫し、視神経乳頭部(眼球内にある視神経との接続部分)に発赤や腫脹を引き起こす「乳頭浮腫」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。この症状が現れると、飛行士は視力が遠視気味になり、手元の文字などに焦点を合わせにくくなります。
ISSでの滞在が延長されているウィリアムズ飛行士も、7月に軌道上での生活が体に与える影響を調査するため、目と血液の検査を受けていました。
消化器系も重力の喪失の影響を受けます。食事を取ったあとに、消化器官内で食物を移動させる重力がないと、胃腸の動きが低下する可能性があるのです。
ほかにも、頭部に溜まった体液が目の奥や視神経を圧迫し、視神経乳頭部(眼球内にある視神経との接続部分)に発赤や腫脹を引き起こす「乳頭浮腫」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。この症状が現れると、飛行士は視力が遠視気味になり、手元の文字などに焦点を合わせにくくなります。
ISSでの滞在が延長されているウィリアムズ飛行士も、7月に軌道上での生活が体に与える影響を調査するため、目と血液の検査を受けていました。
眼圧の検査を受けるアンドリュー・モーガン飛行士(出典:NASA)
ある調査によると、短期ミッション経験者の23%、長期ミッション経験者の48%が眼の遠視化を訴えたとされています。宇宙滞在による乳頭浮腫には確立された治療法はなく、地上に帰還して約1年ほどで自然に回復する場合もありますが、まったく治らない場合もあります。
無重力環境で起こる「宇宙酔い」とは?
無重力環境は、人の平衡感覚にも影響します。地上では、脳は目や内耳の前庭器官、筋肉や関節などの深部感覚から情報を受け取って自分の姿勢などを解釈しますが、無重力では体から脳に送られる情報が脳の予想とは異なってしまいます。
特に内耳の中には、前庭器官と呼ばれる部分があり、地上ではこれが体の動きを加速度として捉えて脳に伝達しますが、重力のほとんどない環境では正しく動きを感じ取れなくなり、脳の認識と体の平衡感覚にズレが生じます。
そうして自分の脳が認識する姿勢と実際のそれが異なる状態が続くことで、飛行士は方向感覚を喪失したり、時間や場所、人の認識がしにくくなったり、さらに宇宙酔いの症状を引き起こしたりしてしまいます。
ただ脳は時間が経過するにつれ、内耳から来る信号などの解釈の仕方を変えることができるため、宇宙酔いはだいたい数日も経てば治まります。ちなみに、飛行士が地上の重力環境に戻った際にも、やはりそれまで自分がいた無重力状態との違いから、平衡感覚を取り戻すのに時間がかかるとのことです。
特に内耳の中には、前庭器官と呼ばれる部分があり、地上ではこれが体の動きを加速度として捉えて脳に伝達しますが、重力のほとんどない環境では正しく動きを感じ取れなくなり、脳の認識と体の平衡感覚にズレが生じます。
そうして自分の脳が認識する姿勢と実際のそれが異なる状態が続くことで、飛行士は方向感覚を喪失したり、時間や場所、人の認識がしにくくなったり、さらに宇宙酔いの症状を引き起こしたりしてしまいます。
ただ脳は時間が経過するにつれ、内耳から来る信号などの解釈の仕方を変えることができるため、宇宙酔いはだいたい数日も経てば治まります。ちなみに、飛行士が地上の重力環境に戻った際にも、やはりそれまで自分がいた無重力状態との違いから、平衡感覚を取り戻すのに時間がかかるとのことです。
宇宙生活はストレスの塊?
宇宙空間は、地上とは異なり周囲に空気が存在することが当たり前ではありません。飛行士が生活するのは、宇宙船や宇宙ステーションの中。アポロ計画時代の窮屈な宇宙船に比べれば大きくなっているとはいえ、基本的には狭い閉鎖空間であることに変わりはありません。
CST-100スターライナーをのぞき込むISSの飛行士たち(出典:NASA)
狭い空間に閉じ込められた状態が長く続けば、過密な仕事量、日照による昼夜リズムの喪失から来る疲労感、人間関係などのストレスが、飛行士の作業遂行能力に影響する場合があります。これらが積み重なるとミッションそのものの完遂が危うくなる可能性があるため、地上の研究者らは、飛行士の心神保護やパフォーマンスを維持する方法を常に模索し、飛行士も事前にストレスに対処するための訓練を重ねて宇宙に臨んでいます。
こうした身体への変化は、いまから数十年前に行われたアポロ計画やその他のさまざまな有人宇宙飛行ミッションで研究が重ねられてきました。軌道上の長期滞在世界記録は、ロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリャコフが、1990年代半ばにロシアの宇宙ステーション「ミール」への滞在で記録した437日間ですが、月や火星への有人飛行が行われるようになれば、さらなる長期の宇宙滞在が当たり前になっていく可能性もあります。
宇宙では地上のような医療設備がなく、飛行士は心身の健康を維持してミッションを遂行しなければなりません。閉鎖環境での長期滞在においては、空気や水の中に含まれる微生物の衛生管理も重要です。
あらゆる健康面の問題をなくして安全なミッションを行うためには、リスクを予想して、それに対してどう軽減するかを考えてあらかじめ対処する予防措置が最も重要になります。そしてそれは、地上では災害時の医療技術の提供や、介護が必要になる高齢者の健康の維持にもフィードバックできる可能性が高いはず。
有人宇宙探査の発展から得られる経験や飛行士の身体的データはすべて、いつかわれわれの日常生活にも役立てられるはずです。
こうした身体への変化は、いまから数十年前に行われたアポロ計画やその他のさまざまな有人宇宙飛行ミッションで研究が重ねられてきました。軌道上の長期滞在世界記録は、ロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリャコフが、1990年代半ばにロシアの宇宙ステーション「ミール」への滞在で記録した437日間ですが、月や火星への有人飛行が行われるようになれば、さらなる長期の宇宙滞在が当たり前になっていく可能性もあります。
宇宙では地上のような医療設備がなく、飛行士は心身の健康を維持してミッションを遂行しなければなりません。閉鎖環境での長期滞在においては、空気や水の中に含まれる微生物の衛生管理も重要です。
あらゆる健康面の問題をなくして安全なミッションを行うためには、リスクを予想して、それに対してどう軽減するかを考えてあらかじめ対処する予防措置が最も重要になります。そしてそれは、地上では災害時の医療技術の提供や、介護が必要になる高齢者の健康の維持にもフィードバックできる可能性が高いはず。
有人宇宙探査の発展から得られる経験や飛行士の身体的データはすべて、いつかわれわれの日常生活にも役立てられるはずです。
Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi