平穏に見えていた日常が、あるひとつの出来事をきっかけに姿を変える——。今回は、Netflixで配信がスタートした注目の話題作『災(さい) 劇場版』をはじめ、日常に潜む秘密や人間模様を描いた映像作品を5つピックアップ。「人か?怪異か?」と疑いたくなるような謎に満ちたサスペンスから、知的な駆け引きが光る政治エンタメまで、秋の夜にじっくり楽しみたいラインアップを紹介する。
“謎の男”は「実在の狂気」か「災いの概念」そのものか?『災 劇場版』
『災 劇場版』
日々の生活に小さな不満や問題を抱えながら暮らす、互いに面識のない6人の男女。彼らは知らず知らずのうちに、不可解な「死」や事件の渦中へと巻き込まれていく。それが本当に殺人事件なのか、誰もが確証がない中、唯一共通しているのは「ある謎の男」。名前も職業も風貌も異なるけれど、“ある男”は必ずそこに居合わせていた——。
グロ・脅かし一切なし!香川照之が怪演する“災い”の影と、日常が静かに断ち切られる恐怖
ある日突然、それまでの日常が静かに断ち切られる不条理を描いた本作。そんな「災」に見舞われた6人のそばに共通して現れる謎の男を演じるのは、香川照之だ。
男が実在のサイコパスなのか、いつ降りかかるかわからない「災い」のメタファーなのかは観る側の解釈に委ねられる。WOWOWでの連続ドラマ放送時はすべてのエピソードに「ある男」が登場するものの、1話完結であるため、男が別人になりすましながら国内を転々としているようにも見えた。
しかし劇場版では編集が大きく変わり、「ある男」がたまたま同じ顔をした、全くの別人だと錯覚しそうになる。各パートに登場する「ある男」は、顔こそ同じだが、風貌も性格も、経歴も、別人としか思えない。「こんな人間が何人もいたら恐ろしいが、かと言って同一人物とは思えない。むしろ怪異と考えたほうが自然では?」。そんな人間離れした存在を、香川照之という1人の役者が演じている……というのが一番怖いポイントかもしれない。
小さな不満を抱きながらも特別な悪事を働いたわけでもない平凡な人間が、日常から突然切り離されるまでの描写に、グロやジャンプスケア(大きな音などによる脅かし)はない。なのに、背筋がチリチリするような不穏さに満ち、つい後ろを振り返りたくなる。
息をのむ「死の映像美」も本作のポイントだ。「災」に見舞われた人間は唐突に物言わぬ存在として画面に登場する。瞬間的に「もう命が消えている」とわかるのに、その死はどこか絵画のような美しさもあり、美しさと不条理のコントラストが鮮烈だ。
●『災 劇場版』(Netflix)
男が実在のサイコパスなのか、いつ降りかかるかわからない「災い」のメタファーなのかは観る側の解釈に委ねられる。WOWOWでの連続ドラマ放送時はすべてのエピソードに「ある男」が登場するものの、1話完結であるため、男が別人になりすましながら国内を転々としているようにも見えた。
しかし劇場版では編集が大きく変わり、「ある男」がたまたま同じ顔をした、全くの別人だと錯覚しそうになる。各パートに登場する「ある男」は、顔こそ同じだが、風貌も性格も、経歴も、別人としか思えない。「こんな人間が何人もいたら恐ろしいが、かと言って同一人物とは思えない。むしろ怪異と考えたほうが自然では?」。そんな人間離れした存在を、香川照之という1人の役者が演じている……というのが一番怖いポイントかもしれない。
小さな不満を抱きながらも特別な悪事を働いたわけでもない平凡な人間が、日常から突然切り離されるまでの描写に、グロやジャンプスケア(大きな音などによる脅かし)はない。なのに、背筋がチリチリするような不穏さに満ち、つい後ろを振り返りたくなる。
息をのむ「死の映像美」も本作のポイントだ。「災」に見舞われた人間は唐突に物言わぬ存在として画面に登場する。瞬間的に「もう命が消えている」とわかるのに、その死はどこか絵画のような美しさもあり、美しさと不条理のコントラストが鮮烈だ。
●『災 劇場版』(Netflix)
「共感も感動もない」はずなのに目が離せない!蒼井優主演『Tシャツが乾くまで』
『Tシャツが乾くまで』
ご近所に暮らす2組の夫婦。それぞれに穏やかで何気ない日常を送っていたはずの彼らだったが、とある出来事をきっかけにその幸せは“行方不明”に。1話にして主要人物2名が退場するという衝撃の幕開けから、「愛する人の秘密」と予測不能な人間関係が静かに、そして次々とあらわになる——。
「ご近所群像劇」の予想を裏切る、底知れぬ展開
配偶者が自分以外の異性と無断で遠方に出かけ、1人は事故で亡くなり、1人は行方不明に。そのとき残された妻は、夫は、どうする……?
あらすじから想像する、ミステリーや不倫ドラマというジャンル分けすら拒む予想外の展開には、毎週「ここで終わり!?」と叫びたくなるほどの強い吸引力があり、毎回1時間が一瞬で過ぎ去ってしまう。
脚本の生方美久氏がこのドラマを「共感も感動もない」と語るように、安易に感動を押し付けないドライさはあるが、一方で気持ちの変化が丁寧に積み重ねられており、ふとした瞬間ににじみ出る登場人物の細やかな感情の機微が光る。
蒼井優、中島歩、夏帆、松山ケンイチたちの芝居も巧みで、そこに「いる」実在の人物の生活をのぞき見ているような気持ちになる。特に第5話で描かれる咲子(蒼井優)の電話シーンは、声のトーンや表情の揺らぎだけで感情を表現しきる圧倒的な名演。後々まで語り継がれる「伝説のシーン」になること間違いなしの必見ポイントだ。
この原稿を書いているのは6話終了時点だが、情報番組内の特集によると「ここまでが下ごしらえで、作品が言いたいのは7話以降」「7話で充(松山ケンイチ)があずさ(夏帆)と会っていた理由がわかる」「8話以降は何が起きているのやら」「後半戦はまだ見ぬ咲子の本性が明らかになり、周りを巻き込んでいく」とのこと。
これまで「咲子のような優等生キャラの女性に、個性的な役作りでも定評のある蒼井優がキャスティングされているのはなぜだろう」と不思議に思うこともあったが、名優・蒼井優だからこそ表現できる歪みが顔をのぞかせそうで、期待が高まる。嵐の予感だ。
●『Tシャツが乾くまで』(Netflix)(U-NEXT)
あらすじから想像する、ミステリーや不倫ドラマというジャンル分けすら拒む予想外の展開には、毎週「ここで終わり!?」と叫びたくなるほどの強い吸引力があり、毎回1時間が一瞬で過ぎ去ってしまう。
脚本の生方美久氏がこのドラマを「共感も感動もない」と語るように、安易に感動を押し付けないドライさはあるが、一方で気持ちの変化が丁寧に積み重ねられており、ふとした瞬間ににじみ出る登場人物の細やかな感情の機微が光る。
蒼井優、中島歩、夏帆、松山ケンイチたちの芝居も巧みで、そこに「いる」実在の人物の生活をのぞき見ているような気持ちになる。特に第5話で描かれる咲子(蒼井優)の電話シーンは、声のトーンや表情の揺らぎだけで感情を表現しきる圧倒的な名演。後々まで語り継がれる「伝説のシーン」になること間違いなしの必見ポイントだ。
この原稿を書いているのは6話終了時点だが、情報番組内の特集によると「ここまでが下ごしらえで、作品が言いたいのは7話以降」「7話で充(松山ケンイチ)があずさ(夏帆)と会っていた理由がわかる」「8話以降は何が起きているのやら」「後半戦はまだ見ぬ咲子の本性が明らかになり、周りを巻き込んでいく」とのこと。
これまで「咲子のような優等生キャラの女性に、個性的な役作りでも定評のある蒼井優がキャスティングされているのはなぜだろう」と不思議に思うこともあったが、名優・蒼井優だからこそ表現できる歪みが顔をのぞかせそうで、期待が高まる。嵐の予感だ。
●『Tシャツが乾くまで』(Netflix)(U-NEXT)
純愛か、それとも狂気か?松村北斗が魅せる危険な引力『告白-25年目の秘密-』
『告白-25年目の秘密-』
幼いある日、いじめから自分を助けてくれた少女に恋をした雪村爽太(松村北斗)。爽太はその少女・麻里子(岡崎紗絵)を、同じ学校、同じ会社に潜り込みつつ、ひそかに思い続ける。ごく近くにいながら、直接接点は持たずにSNSを監視し、メトロノームを鳴らしながら日記(ストーキング記録)をしたためる。「君の運命の人になる」。そう決意した爽太は、麻里子が事業部長を務める部署に自分が引き抜かれるよう工作する。そんな折、麻里子の企画を横取りした男が死体で発見され……。
全員怪しい!もちろん主人公も……「信頼できない語り手」の不穏さ
1人の女性に、幼少期から25年もの間、ひっそり片思いを続けてきた主人公。長きにわたる沈黙を破り、彼女と接点を持ったその日から、止まっていた日常がスリリングに動き出す。
爽太の原動力は麻里子のことを知りたい、守りたい、助けたいというピュアな想いなのだが、これが「一途な純愛」にも「常軌を逸した執着」にも映る。観るたびにその評価が揺らぐ絶妙なバランスだ。
本作の最大の求心力は、爽太を演じる松村北斗の繊細かつ怪しい演技力。心の内を明かすモノローグもあるのに、本心は読めず、「今見ているのは本当に(物語上の)真実なのか?」と疑いたくなる“信頼できない語り手”としてのたたずまいがあまりにも見事。麻里子の前で見せるかわいいポンコツぶりと、ふとした瞬間に見せる周到さ、光を完全に消した瞳の冷たい顔。どれが本当の爽太なの?と深掘りしたくなる。
一途(狂信的とも言う)な片思いを題材にしながら、メインビジュアルはヒロインの顔にあえてピントを合わせていない。これは徹底した「松村北斗劇場」なのだという主張のように読み取れる。
分かりやすい伏線というよりは、登場人物たちの細かな言動に「全員が怪しく見えてくる違和感」が巧妙に散りばめられており、それが1つずつ回収されていく構成に引き込まれる。
タイトルに「25年前」ではなく「25年目」とあるように、これから明らかになる秘密があるのだろう。どんな「告白(秘密の暴露)」が飛び出すのか、目が離せない。
●『告白-25年目の秘密-』(Hulu)(Netflix)
爽太の原動力は麻里子のことを知りたい、守りたい、助けたいというピュアな想いなのだが、これが「一途な純愛」にも「常軌を逸した執着」にも映る。観るたびにその評価が揺らぐ絶妙なバランスだ。
本作の最大の求心力は、爽太を演じる松村北斗の繊細かつ怪しい演技力。心の内を明かすモノローグもあるのに、本心は読めず、「今見ているのは本当に(物語上の)真実なのか?」と疑いたくなる“信頼できない語り手”としてのたたずまいがあまりにも見事。麻里子の前で見せるかわいいポンコツぶりと、ふとした瞬間に見せる周到さ、光を完全に消した瞳の冷たい顔。どれが本当の爽太なの?と深掘りしたくなる。
一途(狂信的とも言う)な片思いを題材にしながら、メインビジュアルはヒロインの顔にあえてピントを合わせていない。これは徹底した「松村北斗劇場」なのだという主張のように読み取れる。
分かりやすい伏線というよりは、登場人物たちの細かな言動に「全員が怪しく見えてくる違和感」が巧妙に散りばめられており、それが1つずつ回収されていく構成に引き込まれる。
タイトルに「25年前」ではなく「25年目」とあるように、これから明らかになる秘密があるのだろう。どんな「告白(秘密の暴露)」が飛び出すのか、目が離せない。
●『告白-25年目の秘密-』(Hulu)(Netflix)

中野 亜希
ライター・コラムニスト
大学卒業後、ブログをきっかけにライターに。会社員として勤務する傍らブックレビューや美容コラム、各種ガジェットに関する記事執筆は2000本以上。趣味は読書、料理、美容、写真撮影など。
X:@752019













