「すべての空にセキュリティを」──“インターネットのGMO”がドローン・eVTOLに力を入れる理由とは

ムコハタワカコ

GMOインターネットグループIoT・モビリティセキュリティ
GMOインターネットグループは6月21日から23日の3日間、ドローンとeVTOL(イーヴイトール、電動の垂直離着陸機)における国内最大の国際展示会「Japan Drone 2022」に出展した。

展示会場内のブースでは、GMOサイバーセキュリティ byイエラエが提供するIoTペネトレーション(侵入)テストに関する展示やホワイトハッカー(悪質なサイバー攻撃やハッキングに対抗する“良い”ハッカーのこと)によるデモンストレーション、GMOグローバルサインによるIoT機器の暗号セキュリティ・認証技術に関する展示を実施。グループが提供する空の移動・IoTに関する最新の技術を紹介した。

【関連記事】国内最大のドローン・eVTOL国際展示会「Japan Drone 2022」にGMOインターネットグループが出展

ドローンや“空飛ぶクルマ”と呼ばれるeVTOLは、今後どのように活用されていくのか。また「インターネットのGMO」のイメージが強いGMOインターネットグループがなぜ、ドローンやeVTOLにこれほどまでに力を入れるのか。

グループの空の安全に対する取り組みについて、GMOグローバルサイン専務取締役の武信浩史氏、CTO室室長の浅野昌和氏、GMOサイバーセキュリティ byイエラエ代表取締役社長の牧田誠氏の3氏に話を聞いた。また3氏に加え、グループ代表の熊谷正寿氏にも「インターネットのGMO」が空の安全に挑戦する理由、グループとしてのドローン・eVTOL業界に対するビジョンについて聞いた。

近い将来、eVTOLはタクシー代わりに使われる

まず、ドローンやeVTOLの利活用は現在、どこまで進んでいるのか。

「国内では主に農業や、インフラの点検、あとは物流の一部でドローンが活用されています。ただ、非常に少ないエリアでの活用にとどまっています」(武信氏)

GMOグローバルサイン専務取締役 武信浩史氏

日本では法規制により、なかなか利活用が広げられなかった背景もあると武信氏。一方、海外では米国において、Amazonが個人宅への宅配を一部ドローンで行っている例もある。また浅野氏によれば、中国では農業分野での利用が進んでおり、日本でも行われている農薬散布のほかにも、種まきや農場の管理などで活用されているという。

その日本でも、2019年6月に改正航空法が公布され、2022年からは関連する制度が順次施行されていく。そして2022年末には、有人地帯における目視外飛行、いわゆる「レベル4」が実現する予定だ。今後はどのような活用が期待されているのか。

「現在実現されている『レベル3』では、人がいないところでの目視外飛行が許可されています。それが今年の法改正でレベル4、つまり都市部での目視外飛行が可能となりますので、今後1〜2年ほどで物流と宅配に大きく影響してくると考えています」(武信氏)

国土交通省「無人航空機のレベル4の実現のための新たな制度の方向性について」より

「2025年の大阪万博でeVTOLを利用した遊覧飛行を可能にすべく政府も後押しをしていますが、そこで人を乗せた運行の実用化が本格的に始まる感じになると思います。その後、人が操縦するかたちで空港からの二次交通や、過疎部での交通、あるいは観光飛行などでタクシー代わりに使われるようになるでしょう」(浅野氏)

熊谷代表は日頃から「移動、物流を産業として考えた時、空は最後のフロンティア。ITをはじめとする新しいテクノロジーは、1、2年では大きな変化がないように見えますが、5年、10年先を見ると劇的な進化があるものです。2025年の大阪万博を経て、2030年には空のあちこちをeVTOLやドローンが飛ぶようになると思っています」とeVTOLを含む“空飛ぶクルマ”全般の普及が進むと語っている。

さらに10年先まで見据えると、自動で航行するeVTOLが都市部で飛行して人を運ぶことがスコープに入ってくると武信氏。そうなると、タクシーとしては意外に安く運行可能で、費用対効果がすぐに出るのではないかと見られているそうだ。

「(地上を走る)クルマと違って、部品点数がかなり少ないのでeVTOLの機体自体が安く製造できることと、基本的に無人で動く前提となっているので、ドライバーがいないことがコストを抑えられるポイントとなります」(武信氏)

「2030年というのはeVTOLにとって節目となる年。無人で自律航行や遠隔操縦することが視野に入り、さらにコストを安く飛ばせるようになります。さらに2030年代後半ごろからは多分、自家用のeVTOLといったものも視野に入ってくるのではないかと考えています」(浅野氏)

サイバー攻撃に狙われるドローン・eVTOL

ドローン・eVTOLの実用化は想像以上に間近に迫っているようだ。だが、その利便性の高さゆえにサイバー攻撃の対象ともなりうる。

「いろんな攻撃者がいると思いますが、テロに使ったり、ハイジャックのようなかたちで身代金を請求したりすることも考えられます。コンピュータがドローンやeVTOLをコントロールしている以上、『請求した暗号資産が入らなければ落とす』というような、今のランサムウェアのような攻撃も起こらないとは言えません」(牧田氏)

牧田氏は、空の交通がより重要なインフラになっていくにつれ、攻撃者にとっても攻撃する価値のあるものと判断される可能性があると指摘する。

「ドローンやeVTOLでは、解析すべきファームウェアやデータが飛行機と比べれば入手しやすい。技術的には今インターネットで使われているような技術、IoTのようなものに近い技術が利用されていて、攻撃者から見た時のハードルは現在より下がると思います。また、アナログなものよりはハイテクなものの方が攻撃はしやすい。技術が進化すればするほど複雑になり、攻撃できるポイントが増える傾向があります」(牧田氏)

ドローンやeVTOLが狙われるポイントは、機体が実装する機能に応じて変化していくだろうとのことだが、「リモートでコントロールしてしまうことが、ひとつ考えられる」と牧田氏は言う。またもうひとつ、インターネットを通じたファームウェアのアップデート機能が悪用される可能性についても指摘する。

「ドローンやeVTOLでは、ファームウェアの書き換えがリアルな『Over The Air(OTA、デバイスへのデータの送受信を無線通信で行うこと)』になり、工場に入れなくても実施できてしまいます。クルマなら整備場に預けてカーナビの更新をするところを、インターネット経由でソフトウェアのアップデートができるので、その機能を悪用すると第三者でもファームウェアの書き換えができてしまうんです」(牧田氏)

GMOサイバーセキュリティ byイエラエ代表取締役社長 牧田誠氏

浅野氏も「特にドローンのレベル4実施が今年末から実際に動き出すことで、従来と変わる点がある」と話す。

「今のドローンは、それほど遠距離で通信する機能がないものが多いです。ラジコンのようにプロポ(プロポーショナルシステム)というコントローラーで、目に見える範囲で無線通信による操縦を行い、ドローンが収集したデータはSDカードに収めて、後ほどオフラインで回収するということが主流です。これがレベル4になると、本当に目に見えないところを飛ばさなければいけない。レベル4については現在鋭意、整備ガイドラインが作られていますが、ドローンが今どこを飛んでいるかを常に把握することや、ドローンがカメラで撮影している映像による周囲のモニタリングなどが求められるようになるはずで、そういうデータを逐一地上へ送信することが必要になります。そうなるとドローンは、LTEや5Gといった、遠距離のネットワーク通信を利用する、ある種のネットワーク機器のようになっていきます。そこが狙われやすくなるということは考えられます」(浅野氏)
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ムコハタワカコ

編集・ライター
書店員からIT系出版社、ウェブ制作会社取締役、米系インターネットメディアを経て独立。現在は編集・執筆業。IT関連のプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)、組織づくりや採用活動などにも注目している。

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