GMOの事例から見えるBCPとしてのテレワークの現実──アフターコロナのハイブリッドな働き方とは

飯島 範久

GMOインターネットグループリモートワーク働き方改革
新型コロナウイルス感染症が日本に上陸して以降、普段の生活はもちろん、企業活動もさまざまな制約にさらされる日々がいまだに続いています。振り返れば、政府は2020年4月7日に緊急事態宣言を初めて発令。企業にテレワークの実施を求め、人流を抑えようとしました。しかし、以前からテレワークを実施してきた企業はなんとか対応できたものの、それまでテレワーク環境を整備していなかった多くの企業にとって早急にテレワークへ移行することは非常に困難な作業となりました。

この緊急事態宣言が発令される、2カ月以上前の2020年1月26日、GMOインターネットは在宅勤務の実施を決断。翌月2月10日には独自の判断基準に基づき長期化に備えた体制へ移行しています。なぜあの段階でそのような迅速な判断・対応ができたのか、そしてアフターコロナを見据えたこれからの働き方について、GMOインターネット株式会社(以下、GMOインターネット)取締役・グループコミュニケーション部部長であり、新型コロナ対策本部事務局長も務める福井敦子氏に話を聞きました。

東日本大震災での経験からBCPを練り上げる

GMOインターネットはインターネット関連の複合企業。もともとITに強い企業ではありますが、福井氏によると、実は2020年1月27日から在宅勤務を実施するまで全従業員が長期にわたってテレワークを実施するという経験はなかったとのこと。ただし、東日本大震災をきっかけに、有事が起きた際いかに従業員の命を守りつつ事業を継続していくのかというBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)に取り組み、毎年震災訓練を継続してきたと言います。

「2011年の東日本大震災が起きたとき、弊社ではまだテレワーク体制ができていませんでした。急遽災害対策本部を開き、パートナーの命を守るべくテレワーク体制を確立しようと、システム本部がサーバーを増強したり、社外から社内ネットワークへ安全に入る仕組みを、急ピッチで構築しました。この経験から、毎年災害シナリオを作って訓練を行なっており、その都度課題をフィードバックして改善を繰り返してきています。」(福井氏)。

この毎年の訓練で得られた経験から“Emergency Call”という、震度5以上の地震が発生すると自動的にメッセージが飛ぶという安否確認システムを全社に導入。事業を継続するために東京ではなく大阪を拠点とした場合を想定するなど、一人一人がどう動けばいいのかという骨子を固めていったそうです。

「緊急時は、トップレベルの意思決定を迅速に全パートナー(従業員)へ伝達する必要があります。一人一人がどうすべきかをマニュアル化し、カードにして携帯できるようにして、全パートナーと情報共有しています。役割分担を決めて、それを淡々とマニュアル通りにできるかを毎年確認し、アップデートをかけてきました」(福井氏)。

こうして行なわれた訓練は地震を想定したものでしたが、今回は感染症という想定外のもの。しかし、”従業員の命を守る”という観点は同じため、日本で初めて新型コロナウイルスに感染した人が出たというニュースが出たときに、即会議を行って対応したと言います。

2020年1月16日に全パートナーへ向けて注意喚起メールを配信した内容

ここからの動きは非常に早く、すぐに災害対策本部が設置され、1月16日に全従業員向けに注意喚起メールを配信しています。

「1月19日の夕方にニュースが流れたのですが、翌週から中国が春節に入ってしまうため、日本に海外の方があふれることを予想し、テレワークを実施することを決めました。未知のウイルスですし、やはりトップの決断が非常に重要だと感じました」(福井氏)

数年かけてブラッシュアップされた災害対策はスムーズに機能し、突然のテレワーク実施でも従業員たちは特に混乱もせずに、業務をこなしていったと言います。

「これまで、事業を継続するための対策を取っていましたし、社内のワークフローなどもかなりICT化されていました。稟議が止まることもなく、正直、大きく困ったことはなかったですね」(福井氏)

GMOインターネットグループ:在宅勤務に関するアンケートを実施 | GMOインターネット株式会社

在宅勤務になってすぐに行われたGMOのアンケート調査より。業務への支障はなかったと答えた人は70%ほどと割合は多い一方、職種や会社によって差があることも分かります

テレワーク時のコミュニケーションのあり方を模索

とは言え、まったく課題がなかったわけではありません。過去の感染症の歴史から見ても、このコロナ禍が短期に終息することはないと予見していた経営陣は、特に組織や業績に影響が出る可能性のある「コミュニケーションの取り方」について、さまざまな取り組みを導入してきました。

「日常業務においては、朝礼や終礼を定期的に行うようにしました。1日1回みんなで顔を合わせて会話することは重要で、雑談コミュニティも推奨しています。テレワーク後に社内アンケートを取ったところ、オフィスと違い隣の席の人にちょっと聞いて解決するということができず、そのためにWeb会議やチャットをするのもハードルが上がると悩んでいる人が多くいました。

会社にいる時と同じような環境を試す意味合いで、Web会議に入りっぱなしにしようという試みもしみたのですが、監視されているようだとか、真剣に仕事しているときの表情が厳しいので見られるのはちょっと、と不評で、どうすればよりよい環境を構築して仕事がうまく回せるのかを模索していました」(福井氏)。

管理者は業務管理をしなくてはと考えがちですが、業務管理をしようとすると、みんなの気持ちが離れてしまうというジレンマ。GMOではその解決策の1つとしてスケジューラを活用しているそうです。

「スケジューラは、通常予定の入っているところを埋めますが、それ以外の時間もいくつか分類した作業内容を入れていくことで、業務時間すべてを埋めるようにしています。そうすることで、誰がどんな作業をしているのか把握できるだけでなく、自社開発したツールによって、みんなの作業内容と時間を抽出して業務を分析。そのデータをもとに、滞っている作業を他の人に配分するといったことを可能にしています」(福井氏)。

業務の見える化によって、業務を改善し、さらに現在は積極的にRPAを導入することで、日常の単純業務による負担を低減。その時間を他の業務へまわすことでより生産性を上げる取り組みが進行しています。

週1回行われる幹部会もzoomで実施。感染症が落ち着いたタイミングには、ソーシャルディスタンスを守ったオフラインの会議も実施され、コミュニケーションの“貯金”を行っているそうです

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飯島 範久

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