「高齢者にAIを」はお節介だった!?50代の筆者が“未来の自分”のために仕込んだこと

赤池 淳子

AISpecialライフスタイル

準備その3:AIを「話し相手」ではなく「誘い出し役」に育てる

じわじわと狭くなる世界を広げるための工夫

平日の昼間、地下街の休憩スペースやスーパーのフードコートに行くと、シニアの多さに驚く。だが冷静に考えると、わざわざ家からそこまで出てきている時点で、その人たちはむしろアクティブなほうだ。現実にもっと多いのは、1人暮らしの家、最寄りのスーパー、かかりつけの病院を行き来するだけになってしまうパターンだろう。行き先が3カ所しかない生活は、じわじわと世界を狭くする。

だから筆者が生成AIに一番期待しているのは、話し相手そのものよりも「外に誘い出す役」のほうだ。「何か趣味を増やしてみないか」「近所でこんな展示をやっているので見に行かないか」「今夜、好きそうな番組があるが録画しておくか」そういう声がけを、こちらが求めなくてもしてほしい。元気なシニアは周りからのそうしたお誘いが多いからだ。

AIが高齢者の孤独に効くという話は、すでに実証の段階に入っている。例えば住友電工は2025年5月から、同社の開発した対話型生活支援アプリをNUWA Robotics製の「Kebbi Air」に搭載。対話型AIロボットとして高齢者宅に置く実証実験を行い、会話頻度や孤独感の変化を測定している。

また、LINE WORKSの関連会社であるネイバークラウドによる「ケアコール」は、AIが週に一度電話をかけて安否確認や雑談などが可能。すでに韓国内の140の自治体で導入済みで、国内でも2025年7月から島根県出雲市で実証実験が開始されている。もう「あるかないか」ではなく「どう使うか」の段階にあるようだ。

出典:NUWAロボティクスJAPAN

住友電工のアプリをKebbi Airに搭載し、対話ロボット化。高齢者支援の実証実験が行われている

AIへ今から渡しておくべきは「好きなもの」の記録

では、そのために今から何をしておけばいいのか。

まず、興味と関心の履歴を残しておくこと。生成AIには会話の内容を覚えておく「メモリ」機能があるが、これを意識的に使う。行ってよかった場所、面白かった本、好きな音楽、昔やっていて途中でやめた趣味。今なら簡単に思い出せるこれらの情報は、20年後には自分でも取り出せなくなっている可能性がある。

次に、運用のルールを書いておくこと。「元気がなさそうだと感じたら外出の提案をして」「同じ話を何度しても指摘しないで」「難しい言葉は使わないで」。カスタム指示として保存しておけば、将来の自分が何も言わなくてもその通りに接してくれる。老後の自分に向けた申し送り書のようなものだ。

そして、声で話せる状態にしておくこと。手が震える、画面の字が読めないという段階になっても、声さえ出れば使える。今のうちに音声モードに慣れておけば、そのときに新しく覚える必要がない。

詐欺対策と医療情報にも今すぐ使える

そして、準備というよりも、今すぐ使っておきたいのが詐欺対策と医療情報への活用だ。普段から生成AIを「これ、詐欺じゃないか」と気軽に聞ける相手にしておく。実際、普段ご近所さんに相談されることの半分以上がこの相談だ。ちなみに過去の相談は99%が詐欺だった。

前回も書いたが、シニアの被害で特に多いのは、真面目な記事に見える広告からの不正ダウンロード。怪しいメールやSMSの文面をそのまま貼り付けて「これは本物か」と聞ける相手が24時間手元にいる意味は大きい。家族に聞くのは気が引けても、AIになら何度でも聞ける。この「何度でも聞ける」という点が、実は決定的に重要だと思う。

また、医師の説明も、その場では分かったつもりでも家に帰るとぼんやりとしか覚えていない。診察時に許可を取って医師の指示を録音しておけば、検査結果と一緒に生成AIに渡して「素人にも分かる言葉で要約して」と頼むことができる。

介護保険や年金の書類も同じで、写真を撮って「要するに私は何をすればいいのか」と聞けば手順の形に直してくれる。飲んだかどうか分からなくなる薬やサプリの管理も、リマインダーとの相性がいい。実際やってみたところ、もう半年以上飲んでいるサプリ同士の飲み合わせの悪さを指摘されてギョッとした。「サプリの飲み合わせも薬剤師に相談すべき」と生成AIに言われて、そんなことまで薬剤師に聞いて良いのかと初めて知った。今度からは処方薬をもらうときに、サプリの相談も薬剤師に必ずしようと心に決めた。

医師のアドバイスや検査結果の詳細、サプリの飲み合わせ、そして飲むタイミングのリマインダーまで生成AIで管理

補助輪は、元気なうちに付けておく

前回の記事で、筆者の80代の母が倒れ、車の自損事故を起こし、運転免許の自主返納が現実になった話を書いた。あのとき痛感したのは、「元気なうちにやっておくべきだった」という後悔だ。今回、自分の老後を主語にして生成AIの使い道を考えてみて、同じ結論にたどり着いた。違うのは、今度はまだ間に合うということだ。

内閣官房が令和6年に行った「認知症施策推進関係者会議(第2回)」の資料によると、2040年の認知症の高齢者は584万人、軽度認知障害の人は613万人と推計されている。従来より下方修正されたとはいえ、決して小さな数字ではない。ちなみにその2040年、筆者は67歳になっている。

生成AIはたしかに便利な道具だが、それ以上に面白いのは「先に自分の使い方を教え込んでおける」という性質だと思う。カレンダーもパスワードマネージャーも、優秀ではあるが、こちらから操作しなければ何もしてくれない。生成AIは違う。今のうちに好みと事情を伝えておけば、こちらの気力が落ちてから、向こうのほうから話しかけてくれる。自分がまだしっかりしているうちに、将来の自分の面倒を見る係を1人雇っておけるということだ。

新しい技術が登場するたび、「高齢者には難しい」という話になる。だが本当に難しいのは技術そのものではなく、覚える気力が残っているうちに始められるかどうかだろう。そしてそのタイミングは、たぶん自分が思っているよりずっと早い。

50代の我々、と主語を大きくして申し訳ないが、この年代は何の仕事をしていたとしても、たいていはすでにベテランもいいところ。生成AIの登場で盛り上がる世の中の変化に「またイチから新人みたいに勉強しなおすのか……」という気持ちがどうしても頭をもたげてしまう。
パソコンやインターネットの登場時に若者だった自分たちは、その進化と歩幅を合わせて何の抵抗もなく学ぶことができたラッキーな世代だったのかもしれない。生成AIの登場は、我々世代にとって、久々に来た大幅アップデートだった。もう、いくら面倒でも、老後を楽しく過ごすためには、この流れにもう一度乗るしかない。
とりあえず筆者は、電車の移動時間を利用して、自分の生成AIに「好きだったもの」をひたすら蓄積している。20年後の自分がその情報を使って、生成AIに連れ出してもらえることを祈りたい。

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赤池 淳子

編集・ライター
1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼ライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行う。家電、旅行、まちづくり、子どものプログラミング教育などのテーマを追いかけている。

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