人工知能と仲良くなれる?日本ディープラーニング協会「G検定」試験勉強と合格ドタバタ記

花森 リド

AISpecialテクノロジー

G検定公式テキストは読みものとしても面白い

G検定の試験対策では、ITパスポートのように過去問が公開されていないため、「過去問をひたすら大量に解く」といった戦法は選べません(ITパスポートの試験勉強は過去問道場が超おすすめ!)。

また、自宅のPCから受験できるので、ネット検索を駆使しながらのチャレンジも……できるっちゃ、できる。でも当然ディープラーニング協会側はこれを非推奨としていますし、120分で200問も出題されるので、優雅に検索などしているヒマはなさそう。そもそもG検定を取る意義がなくなるし、なによりダサい。

ということで、G検定公式テキスト(白本)をアタマから読むことに。そしたら、これまでに3回あったAIブームの流れや、まだらに覚えていたニューラルネットワークなどの大まかな仕組みが平易な言葉で書かれているので、非常に面白いんです。

そして話し言葉に近い表現なので、音読しやすくてありがたかった(私は目と耳と口を使って情報を取り込むのが好きです。「へー」とか「そうなのー⁉」なんて合いの手を派手に入れまくって読むので自宅でしか勉強できない)。

焦って始めた勉強のはずが、ごく普通の読書として楽しい。普通の読書と違うところは、各章が終わるたびに小テストがあり、それなりに小テストでミスをし、泣いても笑っても8日後には試験があるというところ。そして受験料も払っちゃったし、できることなら受かりたい。

しょうがないので、小テストの採点が終わったら内容を忘れないうちに問題集(黒本)も解きます。そしたら「えっ、白本でそんな話、出てきたっけ?」みたいな問題が出てくるわけです。偏微分の計算問題なんて人生で初めてやった!

でも黒本に書いてあることもディープラーニング協会が出題範囲として示しているシラバスに沿っているし、面白い。そう、知らないことや曖昧だったことをきちんと整理して学ぶって、面白いんですよ。白本と黒本を読んでいくうちに「敵対的生成ネットワーク」や「シグモイド関数」なんていう、今までフンワリと聞き流していた言葉がパズルのようにつながるのが心地良い。

実は「シグモイド関数」は、長らく我が家における神秘のワードでした。自宅に飾っている森川幸人さん作の水墨画で「神経回路網(ニューラルネットワーク)」と「シグモイド関数」なる文字が踊っていたのです。

今の私なら「シグモイド関数って便利なんですねえ。ところでソフトマックス関数はお好きですか?」って黒ネコに言える

「こんなに楽しいなら、勉強した意味は確かにあるなあ」と少しでも感じたら、その試験勉強は「まずは一勝」だと思います。なにかしらが自分の血肉になったのなら、それは意味のあることだからです。

そんなこんなで、毎日2〜3時間ほど、半べそかきながら黒本を解いては解説を読み、再び白本の該当箇所に戻ってブツブツと音読を繰り返しました。私には黒本がまあまあ厳しく、白本が柔和かつ面白かったので、やがて「アメ(白本)とムチ(黒本)」と勝手に呼ぶように。アメばっかりじゃ私はダメだし、ムチばっかりでも同じく続かない。

なお、白本と黒本を解き終わったあとでシラバスを見返すと、学習漏れと自信のない分野がひと目でわかるのでオススメです。そしてシラバスをパッと眺めて「どれも説明できるよ」と即思った人には、G検定はカンタンかも。

120分の試験時間が体感40分

いよいよ試験当日。験担ぎでラムネ菓子と紅茶(私がブドウ糖とカフェインを摂るときの鉄板メニュー)を用意して、ブラウザの動作チェックを済ませて、試験に臨みます。

覚悟していたことだけど、問題数が多い。もう解いても解いても終わらない。 なのに時間だけはモリモリ消費されていく! しかも紅茶を豪快に飲みすぎたおかげで途中でトイレに行きたくなる(自宅受験でよかった)。そしてPCにかじりついているあいだ、ラムネ菓子をかじる余裕などない。

とはいえ、勉強したところは確かに即答できるので「ちゃんと準備しておいてよかった」とニヤッとなる。サンキュー白本&黒本! でもそれと同じくらい「何コレ! 難しい!」と絶望的な気持ちに。どうなってんだよ!

こうして怒濤の120分が終わりました。体感40分。合格できたかどうかは、慌ただしすぎて、何もわからない。試験後にラムネ菓子をやっと一粒だけ口に運び、非常にマヌケな気持ちに。今さらブドウ糖を摂ったところで、脳のどこがブーストされるというのか。

合否の結果は2週間後にメールで通知されます。クヨクヨ心配してもしょうがないので、試験が終わったその日の夜に、タイの島へ旅立ちました。タイ湾の翡翠色の海をボーッと眺めながら、寄せては返す波の音が「落ちてるかもなあ……」「でも参考書は面白かったし、やってよかったじゃん」なんて心の声に聞こえてくる瞬間が、なきにしもあらずだったけれど、次第に心は穏やかさを取り戻してゆきました。ああ、白本も島に持ってくりゃよかったかな。でもバカンスでは何もしたくないしな。

タイから帰国し、お気に入りの白本をパラパラめくって読み返して「もし合格してもテキストは捨てずに残しておこう。不合格だったら、しかたない、またがんばろう」などと思っているうちに、あっという間に2週間が過ぎ、「合格」のメールが届きました。試験もあっけないが結果発表もあっけない!

受かったのは当然うれしいけれど、じゃあそれが何を証明するかといえば「AIとディープラーニングに関する基本的なリテラシーを学びました」ということだけ。どんな資格試験でも、合格したあとは、こういうフンワリとした不安が湧いてきます。試験で自分の姿勢を試され、試験後は自分の中身がより深く試されるわけです。

それはそれとして、試験勉強中に「AIってなんだかんだ楽しいじゃん」と思えたのが今回一番の収穫でした。「その資格、仕事で役に立つ?」と誰かに尋ねられたら、正直に「どうかなあ」と私は答えるでしょう。G検定に限らず、資格は道具と同じで使い方次第だからです。とはいえ、楽しく身についたことは、なかなか忘れません。だから受けてみて損はないと思いますよ!
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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