人間の感情を読み取るAIは既に存在する
SF作品にはさまざまなAIが登場するが、その中には、人間の感情をたくみに操るものが存在する。
たとえば映画『her/世界でひとつの彼女』に登場する音声AI「サマンサ」は、女優スカーレット・ヨハンソンが演じたことでも話題になったが、主人公の男性とコミュニケーションするうちに人間の感情を理解するようになり、彼と深い感情的つながりを形成するようになった(少なくとも主人公の視点から見る限りでは)。女性型アンドロイドの開発を描いた『エクス・マキナ』でも、人間の感情を理解するAIが登場し、主人公を翻弄(ほんろう)する。
またTVシリーズ『ウエストワールド』は、本物の人間そっくりのアンドロイドがいる体験型遊園地が舞台となっているが、そこにも人間の感情を理解する高度なAIが登場する。そのAIたちは人間の感情を理解するだけでなく、それを利用し、さらには人間関係を操作することで自分たちの目標を達成しようとする。
こうした機械による感情の分析は、これまでもさまざまな形で実用化が取り組まれてきた。たとえば簡単なところでいうと、人間の顔写真や、顔がはっきりと写っている映像から表情を読み取るソフトウェアが挙げられる。「目じりが下がっている」「口を開けている」といった表面的な要素を把握して、そこから人間の感情を読み取るというものだ。
たとえば映画『her/世界でひとつの彼女』に登場する音声AI「サマンサ」は、女優スカーレット・ヨハンソンが演じたことでも話題になったが、主人公の男性とコミュニケーションするうちに人間の感情を理解するようになり、彼と深い感情的つながりを形成するようになった(少なくとも主人公の視点から見る限りでは)。女性型アンドロイドの開発を描いた『エクス・マキナ』でも、人間の感情を理解するAIが登場し、主人公を翻弄(ほんろう)する。
またTVシリーズ『ウエストワールド』は、本物の人間そっくりのアンドロイドがいる体験型遊園地が舞台となっているが、そこにも人間の感情を理解する高度なAIが登場する。そのAIたちは人間の感情を理解するだけでなく、それを利用し、さらには人間関係を操作することで自分たちの目標を達成しようとする。
こうした機械による感情の分析は、これまでもさまざまな形で実用化が取り組まれてきた。たとえば簡単なところでいうと、人間の顔写真や、顔がはっきりと写っている映像から表情を読み取るソフトウェアが挙げられる。「目じりが下がっている」「口を開けている」といった表面的な要素を把握して、そこから人間の感情を読み取るというものだ。
表情分析AIの一例、映像からリアルタイムで感情を読み取っている
via www.youtube.com
またマーケティングに携わっている方々であればお馴染みであろう「センチメント分析」という技術も既に実用化されている。これはSNSなど、大勢の消費者が意見を発信している場所から大量のテキストデータを集め、そこから特定の製品や人物といった対象に、人びとがどのような感情を抱いているかを把握するというものである。
次の画像は、Yahoo! Japanが提供しているリアルタイム分析(Xのポストを検索できるサービス)に実装されているセンチメント分析だ。この機能は、ある一定期間に投稿された、指定キーワードを含むXのポストを分析・集計して、「ポジティブ」「ネガティブ」のどちらの感情が強いかを円グラフで示してくれる。
次の画像は、Yahoo! Japanが提供しているリアルタイム分析(Xのポストを検索できるサービス)に実装されているセンチメント分析だ。この機能は、ある一定期間に投稿された、指定キーワードを含むXのポストを分析・集計して、「ポジティブ」「ネガティブ」のどちらの感情が強いかを円グラフで示してくれる。
Windowsでシステム障害が発生した際のセンチメント分析
この画像は、Windowsにシステム障害が起きた際に「Windows」をキーワードにして分析した結果だ。システム障害というネガティブな出来事の直後であるから、Xの投稿も「ネガティブ」な内容が8割以上であり、圧倒的多数がWindowsという単語を使って否定的な感情を示していることが読み取れる(当然の話だが)。
ただこれらの機能は、先ほど挙げたようなSF作品の例には遠く及ばない。私たちの感情を事細かに把握して、さらにはそれを操作しようというAIなど、どこまで現実性があるのだろうか?
ただこれらの機能は、先ほど挙げたようなSF作品の例には遠く及ばない。私たちの感情を事細かに把握して、さらにはそれを操作しようというAIなど、どこまで現実性があるのだろうか?
恋愛感情の分析に成功したAI
実は最近行われたとある実験において、そうしたAIがSF作品の中だけの存在ではなくなりつつあることが示唆されている。
この実験を行ったのは、コロンビア大学ビジネススクールのサンドラ・C・マッツ准教授らの研究チームで、結果は論文として発表されている。その内容を少し紹介しよう。
彼らが行ったのは、いわゆる「スピードデート」と呼ばれる出会いの場を被験者に提供し、そこで彼らが行った会話を分析して、AIが人間の恋愛感情を把握できるかを調べるというものだった。
スピードデートとは、複数の男女が集まって、1組ずつ短時間(この実験では4分間)で会話を楽しみ、お互いに好印象を持てたかどうかを判断するイベントだ。日本でも近いイベントはさまざまな形で行われているが、米国でも同様に、パートナーを探すためのイベントとして一般的に開催されている。
研究チームは、187人の大学生(93人の女性と94人の男性)が参加した計964回のスピードデートの様子を映像で記録。さらにスピードデート実施後、被験者たちにデートの体験について評価してもらった。
次に研究チームは、デートを記録した映像の文字起こしを行い、完成したテキストデータをAIに分析させた。使用したAIは、お馴染みの対話型生成AI「ChatGPT」と、そのライバルとして最近注目を集めている「Claude」である。これらの生成AIは、指示された文章を生成するだけでなく、与えられたテキストデータを分析してそれに基づく質問に回答できる。今回は、スピードデートの会話結果を各生成AIに分析対象として与え、実行させたというわけだ。
研究チームは生成AIに対し、次の評価を行うように指示した。
1. デートの相手と連絡先を交換する可能性
2. 相手をどのくらい好きになったか
3. 相手との共通点は多いか
4. 相手と性格が似ていたか
5. どのくらい「つながり」を感じたか
研究チームは、生成AIによるこれらの評価結果の精度を測るために、スピードデート参加者自身が行った評価結果と、さらに人間の観察者が行った評価結果を比較した。
その結果は驚くべきものだった。ChatGPTは、人間の観察者と同程度の精度で、スピードデートの成功(この場合の成功とは参加者同士が連絡先を交換すること)を予測できたのである。しかもChatGPTの予測は、スピードデート参加者自身の予想よりもわずかながら優れていた。
また研究チームは、生成AIが単に会話の感情的な雰囲気だけでなく、より複雑な要素も理解しているようだと指摘している。例えば、会話の流ちょうさ、言葉遣いの一致度、積極的な傾聴の姿勢などといった要素だ。これらの要素を組み合わせることで、人間のように会話のニュアンスを理解し、ロマンチックな感情の発生を予測できる可能性があるとしている。
ただし今回の実験では、ビデオを見た人間の観察者の方が、ChatGPTよりも正確に予測できていた。これは表情や声のトーンなど、非言語的なコミュニケーションが恋愛感情の発生に重要な役割を果たしていることを示唆している、と研究者たちは結論付けている。
最近の生成AIは「マルチモーダル」といって、音声や画像、映像も分析する能力を備えつつある。そうした機能面での進化も期待できることから、研究者たちは、今後AIの「人間関係やその将来を把握する能力」がさらに高まっていくと予想している。
この実験を行ったのは、コロンビア大学ビジネススクールのサンドラ・C・マッツ准教授らの研究チームで、結果は論文として発表されている。その内容を少し紹介しよう。
彼らが行ったのは、いわゆる「スピードデート」と呼ばれる出会いの場を被験者に提供し、そこで彼らが行った会話を分析して、AIが人間の恋愛感情を把握できるかを調べるというものだった。
スピードデートとは、複数の男女が集まって、1組ずつ短時間(この実験では4分間)で会話を楽しみ、お互いに好印象を持てたかどうかを判断するイベントだ。日本でも近いイベントはさまざまな形で行われているが、米国でも同様に、パートナーを探すためのイベントとして一般的に開催されている。
研究チームは、187人の大学生(93人の女性と94人の男性)が参加した計964回のスピードデートの様子を映像で記録。さらにスピードデート実施後、被験者たちにデートの体験について評価してもらった。
次に研究チームは、デートを記録した映像の文字起こしを行い、完成したテキストデータをAIに分析させた。使用したAIは、お馴染みの対話型生成AI「ChatGPT」と、そのライバルとして最近注目を集めている「Claude」である。これらの生成AIは、指示された文章を生成するだけでなく、与えられたテキストデータを分析してそれに基づく質問に回答できる。今回は、スピードデートの会話結果を各生成AIに分析対象として与え、実行させたというわけだ。
研究チームは生成AIに対し、次の評価を行うように指示した。
1. デートの相手と連絡先を交換する可能性
2. 相手をどのくらい好きになったか
3. 相手との共通点は多いか
4. 相手と性格が似ていたか
5. どのくらい「つながり」を感じたか
研究チームは、生成AIによるこれらの評価結果の精度を測るために、スピードデート参加者自身が行った評価結果と、さらに人間の観察者が行った評価結果を比較した。
その結果は驚くべきものだった。ChatGPTは、人間の観察者と同程度の精度で、スピードデートの成功(この場合の成功とは参加者同士が連絡先を交換すること)を予測できたのである。しかもChatGPTの予測は、スピードデート参加者自身の予想よりもわずかながら優れていた。
また研究チームは、生成AIが単に会話の感情的な雰囲気だけでなく、より複雑な要素も理解しているようだと指摘している。例えば、会話の流ちょうさ、言葉遣いの一致度、積極的な傾聴の姿勢などといった要素だ。これらの要素を組み合わせることで、人間のように会話のニュアンスを理解し、ロマンチックな感情の発生を予測できる可能性があるとしている。
ただし今回の実験では、ビデオを見た人間の観察者の方が、ChatGPTよりも正確に予測できていた。これは表情や声のトーンなど、非言語的なコミュニケーションが恋愛感情の発生に重要な役割を果たしていることを示唆している、と研究者たちは結論付けている。
最近の生成AIは「マルチモーダル」といって、音声や画像、映像も分析する能力を備えつつある。そうした機能面での進化も期待できることから、研究者たちは、今後AIの「人間関係やその将来を把握する能力」がさらに高まっていくと予想している。
AIはついに人間の恋愛感情をも分析可能になったAIが……?(筆者がChatGPTを使用して生成)
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。