チャットボット会社社長が、ChatGPT登場で絶望した話

カラクリ 小田志門

AISpecialインターネットテクノロジービジネス

中期的には生成AIの機能を取り入れないサービスは消える

ChatGPTはすぐにチャットボットのビジネスを置き換えるわけではありませんが、それでも生成AIを活用する価値は大いにあります。特に、カスタマーサポートのさまざまな面で生成AIは強力な助けとなります。

特に、コンテンツ作成や要約の精度は格段に向上しています。例えば、顧客からの問い合わせメールへの返信案を作成したり、FAQコンテンツのたたき台を生成したり、顧客の問い合わせログを要約してニーズや改善点を見つける際に、従来の技術よりも高い精度を期待できます。

実際に筆者の会社では、オペレーターがメール・チャットで対応する際に文章管理や校正・リライトを支援するサービスを提供しており、結果的にオペレーターの生産性が20%向上し、新人の独立が2倍以上早くなったケースもあります。

また、生成AIは顧客に対する即答生成には向かないかもしれませんが、顧客向けQ&Aコンテンツ作成支援には大変適しています。弊社は、多くのチャットボットベンダーの中で大企業の満足度No.1に選ばれており(ITレビュー)、担当者が簡単に高品質なQ&Aコンテンツをノーコードで編集できる点が評価されています。しかし、高品質なQ&Aコンテンツ作成にはUXライティングのスキルが必要です。この負荷をAIでもっと下げることができそうなので、開発を進めています。

さらに進化のスピードを高めるために専用の開発部隊も作りました。プロトタイピングや自社サービスへの実装、特定企業との共同開発などを進めています。コンタクトセンター業務では、生成AIを活用可能な範囲が広く、実用性も高いです。来年ごろには、コンタクトセンター向けソリューションの管理画面で、生成AI機能がないものは使いにくいと感じる企業が増えるでしょう。

長期的にはサポート職のタスクが変わる!?

一方、顧客からの質問対応にダイレクトに活用するには、生成AIだけでなく、顧客データ基盤を始めとした各種データのマネジメント・連携・活用や、ルールベースのアルゴリズムとの併用(生成AIのハルシネーション問題の回避)が必要です。本当の意味での自動化はこれからで、今はまだ、お客様に直接目に触れるものには、人間の監督が必要です。

例えば筆者の会社でも、カスタマーサポート用途のCDP(Customer Data Platform、収集された顧客の属性データや行動データを統合し分析に活用する仕組み)機能を核に、FAQやチャットボットの高度化とコンタクトセンターの内部のオペレーションの自動化・生産性向上といったサービスを増やしつつあります。

そのような自動化の推進を経た結果、今後カスタマーサポート分野には2つの変化が起こると予想します。1つ目は従業員保護の観点から、重度のクレーム対応やカスタマーハラスメントなどの応対が、人間のオペレーターからAIに移行することです。これにより、カスタマーサポート=苦情処理係という認識が数年以内に変わるかもしれません。

もう1つの変化は、企業の業績やブランド価値向上のために効果的な活動にのみ、人間がアサインされることです。顧客の基本的な困りごと・不満・疑問の解決は、AIが担当していくと考えられます。

一方人間は、特に困っていない顧客との雑談や対話を通じて、問題解決や新製品・サービスの提案を行い、顧客ロイヤリティや企業収益を向上させることが期待されます。さらに、顧客とAIの対話を分析して、サービスや提供プロセスの改善など、体験向上につながる活動を展開することができるでしょう。カスタマーサポート職の人々は今後、営業職やマーケティング職のようなタスクをこなすようになると私は予想しています。

つまりファンマーケティング、ブランド作りなど、顧客との関係づくりに「人間」が集中投下されるという予測です。

AIの進化と自動化の先に

さて、ChatGPTの登場で、焦りまくった話をしてみました。

当初は焦っていた筆者でしたが、今の気持ちは「冷静と情熱のあいだで、うねりを楽しむ」に変化しています。まず第一に、経営者、開発者はChatGPTやGPT-4、生成AIを積極的に活用することが重要です。しかし、その情熱的な取り組みと並行して、実際の現場でどのような問題解決が可能かを冷静な視点で検討し、取り組みを組み立てることが求められます。生成AIが自分の仕事や事業にどう役立つか、どのパートの効率化が可能なのか、俯瞰(ふかん)してみることが大事です。

当初の私のように焦るだけでは意味がありません。焦った後は落ち着いて、実際の現場での課題やニーズに対して、生成AIを適切に活用する方法を模索しましょう。それが、最終的に効果的な成果を生み出すための鍵となります。

カスタマーサポートには、一律の正解は存在しません。企業ごとに独自のサポートスタイルや、人間が最も効果的に活躍できるシーンを見極めることが重要です。生成AIを取り入れた戦略を柔軟に適応させられたチームが、新しい時代のカスタマーサポートの要となるでしょう。これは従来の「典型的な質問に効率的に対応する」スタイルとは異なりますが、現行のカスタマーサポートの課題を解決し、人間の価値をより引き出す変化だと信じています。

このように、人間にしかできないことの価値は、ますます増大していくと筆者は考えています。AIの進化がまた筆者に挑戦を投げかけるかもしれませんが、そんな状況も楽しみながら、新たなカスタマーサポートの形を創造していきたいと思います。
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カラクリ 小田志門

カラクリ代表取締役CEO
1980年京都府生まれ。2003年から、イー・ガーディアン(東証一部)の創業メンバー(取締役)として、SNS監視・コンタクトセンター事業の立ち上げに従事。2017年から「カスタマーサポートをエンパワーメントする」ためのAIソリューション「KARAKURI digital CS series」の開発・提供を開始。GMOメディアやGMOペイメントゲートウェイにもAIチャットボットを提供する。

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