このハルビンの近郊に筆者の妻の実家があります。「妻が中国のハルビン出身なんです」というと、みなさん「あー、ハルビンね」という顔をされます。おそらく頭の中にはなんの映像イメージは湧いていないと思いますが、そのあと「ほら、元満州の」と言い添えると、だいたいそこで会話は完了です。
まあ、普段はそれで十分なのです。ですが、2年に1度くらいの頻度で1週間から10日ほど妻とハルビンに行っていると、おそらくなんのイメージも湧かない中国の北の果てでいったい何を食べているのか? という質問を受けることも多いのです。
北京から北へ1500キロに位置するハルビンは、実は結構ご飯がおいしいのです。そして、水が豊富なせいか、衛生的にもかなり安心してご飯が食べられるうえに、治安も中国のなかではかなり良く、物価も安め。そのため中国国内旅行先としても有名で、若者にも大人気の観光地です。
そんな、日本人はあまりイメージが湧かないのに実はメガロポリスな観光地、中国・ハルビンで筆者がなにを食べているのか、そのリアルを紹介します。
東北菜(ドンベイツァイ)はひと皿、ひと皿が迫力ある大盛りが基本
ハルビン観光のハイライト、中央大街の後に立ち寄った東北菜のお店。広角レンズの効果もありますが、料理の皿の大きさが普通ではないのがわかるでしょうか
頼みすぎないのが基本!それでも余ったら「ダーバオ」
なのでハルビン近郊で生まれた東北人である妻と実家に帰ると、少なくても一度は食べることになるのが東北菜。とはいえ、東北菜とは何であるかと聞かれても、実際のところ筆者にはよくわかりません。あっさり淡泊な中国南部の料理に比べると、油が多く、味が濃く、中国の農村の田舎料理といった印象が強いです。
そして、東北菜を中国の料理店で食べると、ほとんどの場合1皿でも2人で食べきれないくらいの大盛りになっています。妻にいわせると、東北人が人に言われたくない悪口のひとつが「小气(ショウチー)」(=ケチ、みみっちい)です。そのため料理もだいたい豪快な大盛りなのです。
インゲン豆のひき肉炒め「干煸豆角(ガンビイエンドウジャオ)」。妻がいうには四川料理だそう。シンプルなので、実は料理人による味の差が大きい。おいしいお店はだいたい何を食べてもおいしいのです
今回の写真を撮影した際に妻がセレクトしたのは、薄切りの豚肉をスパイスの入った油で炒めた後、水を加えて煮込んだ「水煮肉片(スイジュウロウピエン)」。結構辛いです。インゲン豆とひき肉の炒め物「干煸豆角」。さらにサツマイモのフレンチフライである「咸蛋黄焗地瓜条(シエンダンファンジュディグアティアオ)」です。これは大人3人、幼児1人で食べきれない量になります。
特に下調べなどをすることもなく、妻と妻の友人と一緒に入った東北菜のお店。量も、味もかなりよく2人とも満足していました
ハルビンに行ったら必ず行くのが「烧烤(シャオカオ)」
写真はおそらく「羊肉串」だと思います。さまざまな種類の串焼きを結構な量で頼み、みんなで食べるので、こんな感じでドンドン出てきます
日本風にいうなら、なんでもありの串焼き居酒屋
基本的には、この串ものとビールで1杯飲むスタイルなのですが、日本の焼き鳥とは違い、鳥だけではなく、羊、豚、牛の肉も用意されており、味付けもクミンなどを使ったスパイシーなものが多いのも特徴です。串ものはほとんど外れがないので、なにを頼んでも大丈夫だと思いますが、筆者が苦手なのは「腰子(ヤオズ)」=腎臓です。独特のニオイがあるので筆者個人は避けています。
「蒜蓉茄子(スァンロンチェズ)」。開いて蒸したナスを最後に焼いて醤油ニンニクソースをかけたもの。この組み合わせでおいしくない方がおかしいといえるでしょう
それぞれ「羊肉串」はその名のとおり羊肉の串焼きで、だいたいクミンで味付けされており非常に香り高くおいしい。「牛板筋」は牛の背部にある全身の運動筋肉をつなぐ2つの大筋を串焼きにしたもので、独特の繊維感と歯ごたえがよさが病みつきになります。
「蒜蓉茄子」は蒸しナスのニンニクソースで、筆者が中国でよく見るのは大きなナスを開いて蒸して焼いたものに、特製の醤油ニンニクソースをかけた一品。「烤猪手」はやわらかく煮た豚足を最後にパリッと焼き上げて提供するものです。「盐水毛豆」と「盐水花生」は特製のタレに漬け込んだ茹で枝豆と落花生です。
「烤猪手」。やわらかく煮た豚足を表面はパリッと焼き上げたもの。ビールのつまみに最高なのはいうまでもなく、子どもたちも大好きです
日本で中国のビールといえば「青島(チンダオ)ビール」が有名です。この「青島ビール」は青島がドイツの租借地だった時代、1903年に創業されたそうですが、ハルビンでもっともメジャーな「ハルビンビール」は1900年にロシア人が設立した中国最古の近代的ビール会社です。これにプラスしてハルビンでは「雪花(シェファ)ビール」もよく見かけます。どちらの会社もそれぞれさまざまなビールをラインアップしているので、いろいろと飲み比べてみるのがおすすめです。
食パンの串焼き。「烧烤」では食パンにも串を刺して焼き上げます。豚足には串は刺さっていないのが逆に不思議になってきますが、中国ではそれが普通です
またロシアとの貿易も盛んなハルビンでは、売店やコンビニ、スーパーなどでロシアビールを見かけることも多いのですが、こちらにもぜひいろいろと挑戦してみてください。。日本や中国のビールとは異なる味わいを楽しめるでしょう。
外食でも自宅でも絶対定番の「火鍋」
「海底捞火锅」にて家族で食事をした際の写真。スープの種類は3もしくは4種類。画面の奥のフルーツはサービスでした
せっかく行くなら「海底捞火锅」を試してみては?
すべての中国人が辛い食べ物を得意なわけではありませんし、子どももいますから、自宅で家族と一緒に囲むことの多い「火锅」は辛いものだけではありません。多くの場合、真ん中で2つに分けてある仕切り付きの2色鍋などで提供され、真っ赤で辛いスープと白もしくは透明の清湯なスープの両方が楽しめるようになっています。
春節(=中国の旧正月)に子どもを連れて「海底捞火锅」に行ったので、サービスで干支の龍をかたどったアイスデザートが付いてきました
おそらく、食べ物の好き嫌いの感覚が異なる筆者に義母が気を使って、好きな具材だけを選べる火锅にしてくれているのでしょう。
それぞれに好きなものを、好きなスープで、好きな調味料で楽しむことができるのが「火锅」の魅力といえるでしょう
「海底捞火锅」は中国最大規模の「火锅」の直営チェーン店で、知らない中国人はおそらくいないとでしょう。そして、1994年創業の「海底捞火锅」が中国でもっとも有名な火锅屋さんになった理由が圧倒的なサービスクオリティの高さ。店員がすべて笑顔なのはもちろん、店舗によって異なりますが、待合室でのスナックやフルーツの無料サービス、ネイルやハンドケアのサービス、各種パフォーマンスが席で楽しめるといった、他に類を見ないホスピタリティの高いサービスが自慢です。
ハルビンに「海底捞火锅」は9店舗ほどあるようなので、タクシーでもっとも近い店舗に連れて行ってもらうといいでしょう。また「海底捞火锅」のWEBサイト中国版(英語あり)は https://www.haidilao.com/ になっています。日本にも関東を中心に7店舗ありますが、ぜひ本場でも楽しんでください。
春節(=旧正月)なので干支である龍の衣装を着たお兄さんが「捞派捞面」を伸ばすパフォーマンスを行っているところ。パフォーマンスは希望制ですが、筆者は毎回必ずやってもらいます
「捞派捞面」は日本の店舗では「カンフー麺」という名称で、客席で麺を伸ばすパフォーマンスが行われる「海底捞火锅」の定番メニューといえます。これは「海底捞火锅」に来たら一度は見ておきたいところ。「招牌大颗粒虾滑」は日本風にいうなら大エビの特製つみれといったメニュー。筆者は海外であまり海鮮を食べないのですが、これは必ず注文します。
そして「鸭血」。これは、そのまま鸭(アヒル)の血を固めたもので、「火锅」に入れて煮て食べます。豆腐のような、プリンのようなプルプル食感を楽しむ料理です。日本人には最初抵抗があるでしょうが、ハマると病みつきになるので、ぜひお試しください。
齋藤 千歳
フォトグラファー・ライター
北海道千歳市在住・千歳市生まれのフォトグラファー/ライター。キャンピングカーの「方丈号」から各種アウトドア、カメラ、レンズ、ガジェットに関する情報を発信したり、家族3人で北海道一周などしたりを楽しんでいる。