秀吉の天下取りを支えた秀長の選択、NHK大河『豊臣兄弟!』但馬・播磨時代を考察

小林 啓倫

Special映画・音楽

姫路の秀吉、但馬の秀長──2つの戦線

三木城落城後、秀吉の中国方面攻略は一気に加速する。同年4月、秀吉は宇野氏の城を攻略し、姫路を本拠地として確定した(ちなみに姫路城は、1580年に黒田官兵衛が秀吉に献上している)。姫路は播磨平定の完了と、西国進出の起点という2つの意味を持つ。一方の秀長は、引き続き但馬を任され、同時期に但馬国内の支配を進めていく。さらに6月、秀吉は因幡・伯耆国境にまで進出して国端の城主らを降伏させており、ここから中国攻略は山陽・山陰の二面作戦に広がっていく。

ここで兄弟の分担が、組織図として明確な形を取る。秀吉は姫路から山陽道を西進する主戦線の司令塔、秀長は竹田城を起点とする山陰側の支線担当である。1580年代に入ると、秀吉が備前・備中の主要戦場で毛利と直接対峙する一方、秀長は山陰方面の押さえ役として配置され続けた。

同時に2つの戦線を維持できる組織はまれであり、これを可能にしたのが秀吉と秀長の役割分担と相互信頼だった。

但馬を秀長が押さえていることがいかに重要か、地図を見れば一目瞭然だ。中国地方を攻めるために部隊を西へ西へと進めれば、京都方面からの補給線が伸び、ここを突かれて支援が途絶える可能性がある。最悪の場合、中国地方の毛利勢と挟み撃ちにあって、全滅すらしかねない。秀吉が秀長以外の人物に但馬を任さなければならなかったとしたら、「あいつが別所一族のように寝返るのではないか」という疑心暗鬼に陥り、これほど素早く、また全力を傾けて中国方面攻略を進めることはできなかっただろう。秀長という心から信頼できるNo.2がいたことが、この大事業での彼の成功を支えたのである。

450年前のNo.2から学ぶ、組織論3つの教訓

この時代の秀吉・秀長2人の関係性から、組織運営に関する教訓をいくつか考えてみたい。

1つ目は、任せきることの重要性だ。秀吉は竹田城を秀長に預けたあと、口を出し続けたわけではない。秀長を信頼し、城代として裁量を与え、但馬国内の人事や差配を任せた。これは現代の言葉でいえば、子会社・支社の経営権限の委譲に近い。本社の社長が現場の細部まで口出しすると、現場長は守るだけの存在になる。さらに任せることで、自分はもっと重要な事業に全力で取り組める。秀吉が中国地方の侵攻に打ち込めたのは、まさにこの「任せる」という姿勢あってこそだ。

2つ目は、地味な仕事の戦略的価値を見抜く目である。1577年から1580年まで、秀長は華やかな主戦場には立たなかった。彼が任されたのは、但馬の山城に腰を据え、補給路と背後を黙々と守る役回りである(もちろんそこにも、淡河城攻略の失敗のような危険は潜んでいたが)。だがその役回りなしには、三木合戦の長期戦も、姫路を起点とする中国攻略の本格化もあり得なかった。地味な仕事を地味なまま、しかし正確に積み上げられる人材を、組織が正しく評価できるかどうか。これは現代でも、評価制度の難所であり続けている。

3つ目は、同じ役割を長く担うことで蓄積される知見の重みだ。秀長は1577年(天正5年)から1580年代に至るまで、一貫して山陰側の押さえとして配置され続けた。短期間であちこちに動かしていたら、地形に応じた補給線の引き方も、毛利方の動きを読む勘も身につかなかっただろう。“但馬経営”は反乱もなく円滑に進んだとされるが、その背景には現地を知り尽くした秀長の存在があったと考えられる。現代の組織は人材の流動性を重視しがちだが、戦略的に重要なポジションには、腰を据えて関係を耕す人材を置くという選択肢も忘れてはならない。

播磨・但馬・三木という3つの戦場で起きた秀長の働きは、後年の大和大納言時代の調整能力の原型であると同時に、現代のビジネスパーソンも直面する「既存事業を守りながら新たな一大プロジェクトを立ち上げる」という課題への回答でもある。前線で派手に飛び回るNo.1と、背後でどっしりと構え、地味な作業を続けるNo.2。どちらか一方では組織は前に進めない。450年経った今も、このあり方は本質的には変わっていないのではないだろうか。

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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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