調査で見えてきた、ハーバード大生は生成AIをどう使っているのか?若者たちの期待と不安

小林 啓倫

AI教育調査・レポート

ハーバード学部生協会が行ったアンケート調査

ChatGPTが2022年11月末に発表されてから、もうすぐ2年が経とうとしている。その性能は世界に衝撃を与え、ChatGPT、そして生成AI全般は、瞬く間に私たちの仕事や生活の中に普及した。しかし登場してたった2年では、それが社会にどのような影響を与えているのかを把握するのは難しい。

そんな中、その実態に迫ろうと、各所で調査が行われている。そのひとつがハーバード学部生協会(Harvard Undergraduate Association)が行ったアンケート調査だ。

実際に調査を行ったのは、同協会から委託を受けたハーバード大学の学生たちで、彼らは今年6月に結果をまとめたレポートを発表している。果たしてトップ大学の学生たちはどのように生成AIと付き合い、それにどのような思いを抱いているのだろうか? レポートから見えてくるものを考えてみよう。

その前に、彼らが行った調査についてまとめておきたい。調査は2024年4月18日から4月24日にかけて行われた。対象となったのは、ハーバード大学の全学部生。彼らにメールを通じて調査票が送信され、326名の学生から回答を得た。そこから読解力テスト(調査に参加した学生が、質問を正確に読み、理解した上で回答していることを確認するために行われた予備テスト)を通過した273名の回答が最終的な分析に使用された。

質問は複数の選択式の問い、自由回答式の問い、また特定のAI製品使用状況に関する問いから構成されていた。質問のカテゴリーは、生成AIの全体的な使用状況、学習習慣への影響、コース選択やキャリアプランへの影響、社会全体への懸念など多岐にわたった。

最終的に分析対象となった273名の回答は統計的に分析され、生成AIの使用頻度、利用目的、支出額、および生成AIの影響についてのデータが収集された。また学生の属性(性別、学年、専攻など)に基づいた分析も行われ、特定のグループ間での違いや傾向も調査された。

調査の目的は、生成AIがハーバード大学の学生の学習習慣、コース選択、キャリア展望にどのような影響を与えているかを把握することだったが、同時にハーバード大学がAIに関連する決定を行う際の参考にするための助言を提供することも目的のひとつとされた。

それでは、実際の調査結果を見ていきたい。

生成AIを積極的に活用するハーバード大生

まず全体的な使用率だが、調査に回答したハーバード大学の学部生のうち、87.5%が生成AIを使用していることが判明した。そうした生成AIを使用する学生のほとんどが、少なくとも週に1回は使用しており、約半数は2日に1回以上の頻度で使用している。「毎日、もしくはほぼ毎日使用する」と答えた学生もおよそ25%おり、多くのハーバード大生が生成AIのアクティブユーザーになっている状況がうかがえる。

ちなみに日本でも同様の調査が行われているので、こちらも紹介したい。JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)が今年4月に発表した「デジタル社会における消費者意識調査2024」(日本国内の18歳~70代男女を対象に行われたアンケート調査)によれば、プライベートで生成AIを利用したことがあると答えたのは全体の約18%に留まった。ただ18歳~20代の男性に限定した場合、生成AIの利用率は40%を超えていたそうである。またデータサイエンティスト協会が日本国内の大学生・大学院生を対象として2023年末に行ったアンケート調査では、生成AIの利用率は29%という結果が出ている。やはりテクノロジーへの関心が高い「若者(特に男性)」、そして生成AIが価値を発揮する場面に多く遭遇する可能性のある「大学生」という属性が、利用率を押し上げるのだろう。

ただハーバード大生はこれらの日本国内の結果を上回る利用率を見せていることになり、ChatGPTをはじめとした多くの生成AIサービスが英語圏発という点を差し引いても、彼らは極めて積極的に生成AIを活用しているといえる。

ではどのような生成AIサービスを使っているのだろうか。ハーバード大学の調査に戻ると、学生の間で最も人気のあるサービスはOpenAIのChatGPTで、生成AIユーザーの95%以上が使用しているという結果になった。またAnthropicのClaude(生成AIユーザーの約20%)、GitHub Copilot(同じく約20%)も上位に位置している。

ちなみにGoogleのGeminiは約10%で、汎用的な対話型生成AIのカテゴリーでは、Claudeにも後れを取ることとなった。また興味深いことに、生成AIを活用した検索エンジン「Perplexity AI」も約10%のユーザーが利用していると回答しており、Geminiと肩を並べる結果となった。Googleにとっては、対話型AIだけでなく、本丸の検索サービスでも生成AIをめぐる争いにおいて苦戦を強いられているといえるだろう。

もうひとつ興味深いのは「生成AIサービスにお金を出しているか」という点だ。生成AIを使用するハーバード大生の30%が、生成AIのサブスクリプションにお金を払っている(たとえばChatGPT Plusは月額20ドル)という結果が出ている。

また生成AIにお金を出している学生は、無料版のAIを使用する学生に比べて、AIから得られる利益が大きいと感じており、大学のリソースや伝統的な検索エンジンを利用する頻度が低いという傾向が見られた。生成AIは「対価を払う価値がある」サービスであると感じ、従来型のサービスから乗り換えるという学生が、一定の割合で出てきているわけだ。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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