Xは“スーパーアプリ”になれるのか?その方法を考えてみた:鵜の目鷹木の目

鷹木 創

Speciali4Uインターネットスマートフォンビジネス
こんにちは、鷹木です。先日、運転免許の更新に行ってまいりました。そこでハッとしたのが視力検査。「鵜の目、鷹木の目」という連載を持つ僕ですが、実はここ数日、疲れ目がひどかったのです。そこで眼科で診察してもらったら「矯正視力が強すぎなのでは? 下げましょう」と言われ、メガネの度を1.2から、0.8に下げたばっかりだったんです。

その状態で免許センターで視力検査をしたわけですが、案の定(?)、1度目は失格(2度受けられます)。免許センターの係の人が「目薬を差すといいかも」とアドバイスしてくれたので、近所の薬局にダッシュし、目薬を差して10分ほど目を閉じて“回復”を祈ったのち、恐る恐る2度目の視力検査に向かいました。「……見、見えるぞ! 私にも敵が(以下略)」――ということで無事、更新できました。皆さんも免許更新の際は目薬をお忘れなく(違)。

さて今回は、X(Twitter)の「スーパーアプリ化」について。イーロン・マスク氏は2022年10月、「Twitterを“Everything App”(何でもできるアプリ)にする」と宣言して買収しました。

東南アジアや中国では、さまざまな機能を1アプリに集約した「スーパーアプリ」が普及していますが、Xのスーパーアプリ化は本当に可能なのでしょうか。可能だとしたら、どういった方法があるでしょうか。考えていきます。

スーパーアプリとは何か

スーパーアプリは、金融サービスやメッセージ、デリバリー、タクシー配車など、さまざまな機能を1つのアプリに統合したもの。中国ではWeChatやAlipay、東南アジアだとGrabなどが挙げられます。それぞれ当初は、チャットや決済、タクシー配車などの単機能しかなかったアプリが、徐々に機能を増やしていきました。日本だとLINEが似た方向を目指していますね。

スーパーアプリの考え方は、1990年代後半から2000年代序盤のPCインターネットに似ています。当時ネットの入り口はヤフーのようなポータルサイトがメイン。さまざまな情報やサービスが1つのサイトに集約されており、トップページにアクセスしてメニューから目的のサービスにたどりついていく構造でした。

2000年代にGoogleが普及して以降は、ネットの情報はページごとに分解されていきました。ポータルからたどるのではなく、検索結果やSNSの投稿から、直接URLにアクセスしていく形です。

スマートフォンアプリも単機能が中心です。例えば、動画はYouTubeやTikTok、地図はGoogleマップ、SNSはXやFacebook、メッセージはLINE、決済はPayPayなどなど。

ただ、単機能のサービスが乱立すると、IDを個別に管理する必要があり、面倒でもあります。スーパーアプリなら、アプリごとにIDを登録・ログインする必要なく、1つのアプリ、IDでログインでき、利便性は高いといえます。

「器用貧乏」リスクも

半面、いろいろな機能を実装してしまうと、どの機能も1番になれず、2番手、3番手の寄せ集めになる、使われない機能に開発費をつぎ込む、ということも考えられます。

日本では、LINEがスーパーアプリ化に挑戦していて、決済のLINE Payとか動画サービスのVoom、ニュース配信のLINEニュースなどをアプリ内で展開しています。しかし、メッセージング以外ではトップになれておらず、器用貧乏になってしまっている印象です。

同じ企業グループにいるヤフーとLINE、PayPayがまとまれば、スーパーアプリは実現するかもしれません。ただ日本国内では、法的なハードルも高そうです。

スーパーアプリに決済は必須ですから、SuicaやQUICPay、d払いなどもスーパーアプリ化の可能性がありそうですね。NTTドコモがトップダウンで意思決定すれば、d払いをスーパーアプリにすることはできそうですが……。

Xの成長にスーパーアプリ化は必須?でも……

マスク氏はTwitter買収時、「ユーザー数を2億人強から10億人に伸ばしたい」と言っていたそうです。でも、テキストを発信するだけではユーザー層の伸びは期待できません。

経営陣が自社アプリを評価する際の指標の1つとして、ユーザーの1日当たりの利用時間があります。マスク氏は8月、地域ごとのユーザーのX利用時間を公開し、グローバルでの伸びをアピールしました。万年赤字のXの収益拡大のためには、利用時間・利用者数の拡大、金融サービスの融合は必須で、そのための策がスーパーアプリ化だとマスク氏は考えているのでしょう。

かなり前ですが、「2ちゃんねる」について、西村博之氏が「書き込む人はROM専(読む専門)の1000分の1」と話していました。例えば、1億人の発信を望むなら、全ユーザーが1000億人ぐらいいないといけないことになります。地球の全人口でもまったく足りない。Xは2ちゃんねると同じではないでしょうが、発信者は受信者より相当少ないはずです。

だからスーパーアプリ化し、テキストSNSだけでなく、決済など毎日必要になる機能を実装しよう、というロジックは正しいでしょう。それが実現すれば、もっと多くの人が毎日利用する、手放せないアプリになるからです。

ただ、スーパーアプリが普及した中国や東南アジアと、日本や欧米とでは、市場環境がかなり違います。

中国や東南アジアでは、PCインターネットより先にスマートフォンが普及したことや、銀行口座を持っていないユーザーが多かったこと、サービス間での個人情報のやりとりへの法規制が緩いこと、普及している端末のスペックが比較的低く、たくさんのアプリを入れられないことなどが、スーパーアプリ普及の背景にあるといわれています。

多くの人が銀行口座を持ち、個人情報に関する法規制も厳しい日本や欧米で、今からスーパーアプリを普及させるのは相当難しそうにも思います。
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鷹木 創

編集主幹
2002年以来、編集記者や編集長などとしてメディアビジネスに携わる。インプレス、アイティメディアと転職し、2013年にEngadget日本版の編集長に就任。 その後スマートニュースに転職。国内トップクラスの機械学習を活用したアプリ開発会社においてビジネス開発として活躍。2021年からはフリーランスとして独立、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。

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