Webメディア乱立時代、編集長の役割とは:鵜の目「鷹木」の目

鷹木 創

Speciali4Uビジネス
先日、以前勤めていた会社の面々と久々に忘年会をしました。ここまではよくある話かなと思いますが、今回は参加に2つの条件をつけてみることに。1つは起業した人だけが参加できること、もう1つは飲み会で自分自身のプレゼンをすること。自分の仕事でもいいですし、家族のことを話してもいい。起業するとひとりぼっちで悩みを抱えることも多いので、同じような悩みを持つ仲間に打ち明けられる機会は貴重だなと。

鷹木も仕事の悩みや家族の生活を話しましたが、数分の持ち時間でいろんなことを吐きだせました。起業家に限らず、同じような境遇の人たちと忘年会するのはありかもしれませんね。

さて今回の鵜の目「鷹木」の目は、Webメディアが乱立している現代において、編集長の役割とは何かを考えます。

編集長は媒体の顔

私は、編集長は「媒体の顔」だと思っています。媒体のカルチャーや紙面を取り仕切る権限を経営陣から与えられ、やりたいことを表現できる。

その見返りとして結果も期待されます。結果とは、媒体の発展が見えること。発展の基準はページビュー(閲覧数)でも利益でも構いません。

媒体にはいろんな人が関わっています。ライター、取材先、読者、クライアント……媒体の経済圏の人たちが全員幸せになるのが、いいビジネスですよね。利益を出し、運営を続けて、ステークホルダーみんなの生活をよくするのが大切だと思っています。

編集長に必要な資質はたくさんあります。マネタイズ感覚、読者の気持ちの理解、ライターさんに優しく適切な激励ができること、編集部のマネジメントなど。全部そろっているのが理想ですが、そんな人はいません。

だから、マネタイズが得意な編集長なら、副編集長や部下には読者の方を向いている人をアサインすると、補完関係になっていいのではと思います。現実には、なかなかうまくはいきませんが。

紙とWebの違いは

Webメディアを前提に話をしましたが、紙の雑誌の編集長も役割は似ています。ただ紙の雑誌は有料のものが多く、読者からのお金で編集部を運営するので、読者の方を向くのが基本です。もちろん、広告があってクライアントもいるわけですが、Webほど広告に依存していません。

Webはほとんどの媒体が無料で、広告モデルで成り立っています。有料媒体も、広告モデルを完全に捨て切れないので、読者とクライアントの両面をケアしてビジネスをしなくてはいけない。雑誌よりもビジネスの難易度は高いのかなと思います。

媒体の規模も、雑誌よりWebメディアのほうが基本的には小さくなります。小さいメディアが乱立し、増え続けている一方で、Web広告市場はそこまで伸びていないので、Web広告の単価は下がり続けています。

雑誌と違ってWebメディアは誰でもすぐに作って運営できるから、競争相手がめちゃくちゃ増えました。Web媒体の数は、20年前に比べたら何十倍にもなっているんじゃないでしょうか。でも広告費は何十倍にはなっていない。多くの競合と、パイを取り合っている状態です。

そのため、Webメディアが広告を取るには、動画広告にしたり、SNS連動にしたり、イベントを開催するなど、市場動向やクライアントの意向に応えつつ、コストをかけなくてはならなくなっています。

鷹木が代表を務めるテクノコアが運営している「テクノエッジ」はWeb媒体ですが、読者からの課金収入で運営する、紙の雑誌のようなビジネスにチャレンジしています。ちなみに有料会員の数は大体ユニークユーザーの1万分の1ぐらいの割合です。「頑張ってUUを増やせば収入が増える」とも考えられます。

巨大Webメディアは、仕事が細分化されている

日本のテクノロジーメディアは、数人程度の小さなチームで回しているところがほとんどです。しかし、例えば10年ほど前の米Engagetの編集部は、当時20人ぐらいのチームメンバーがいて、編集長、副編集長、サブエディター、マネジメントエディター、アサインエディターなど、役割も細かく分担していました。

マネジメントエディターは、ライターのマネジメントを専門とする人。アサインエディターはゲストのアサインやイベントの立て付けをやります。当時、僕は日本のエンガジェットの編集長をしていて、数人の編集部員で回していたんですが、米本国はスタッフがたくさんいて、とてもうらやましかったです。

投資できるメディアなら、分業するのはいいですよね。人間の能力はマルチじゃないですから。でも、それって月間ページビューが1億を超えるような巨大メディアだからできたこと。かつての日本のエンガジェットのように数千万PVぐらいのメディアだと、2~3人でなんとか回すしかないかなと思います。
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鷹木 創

編集主幹
2002年以来、編集記者や編集長などとしてメディアビジネスに携わる。インプレス、アイティメディアと転職し、2013年にEngadget日本版の編集長に就任。 その後スマートニュースに転職。国内トップクラスの機械学習を活用したアプリ開発会社においてビジネス開発として活躍。2021年からはフリーランスとして独立、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。

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